2-終 宇宙海賊

 地球からそう遠くない距離にある、キラビト達の乗る三角のカタチをした宇宙船。それは、武装された宇宙船。彼らは度重なる私掠行為によってキラビトからも人間からも指名手配を受けた、ソラゾクと呼ばれる宇宙海賊だった。


 そもそも、宇宙戦艦と呼ばれるモノは、多くは「防衛のために」武装しているモノである——彼らの様にいかにも危ないですよとサイレンをならしているような、禍々しい装飾をしたモノは平和ボケをしたキラビトの間では稀有な存在だ。


 単に「宇宙戦艦」と呼称されているだけなので、船というよりは巨大な飛行機に近い形状をしているが、名前モトのそれに当てはめるなら、やはり火力と防御力を併せ持った、「主力」という意味での「戦艦」と呼んで構わないのだろう。(実際の船のカタチを模したモノで有名なのは、地球の防衛隊が使用する「空中艦隊」に顕著である。彼らの主力は戦艦と潜水艦を併せたような形状をしている。そして、艦首の巨大なドリルが特徴的であるが、そのカタチを持ったモノが宇宙を航行する技術は現在に至るまで確保できていない)


「また大きなドンパチがあったみてーだな」


 クルーの殆どいない第三ブリッジを、その男は自らの部屋としていた。男は暗闇に満ちた部屋で、美形の男性と向き合い、将棋を指していた。


「艦長、貴方の中ではもう既に問題は、取り返しのつかない所にまで進行しているのよね?」

「何の事だ」男は長い長髪の中から鋭い目をぎらつかせ、ダンディな声を出す「男性」に言う。

「とぼけないで欲しいわ、貴方がお宝を取り逃がしてがっかりしてるって事は団全員に知れ渡っているのよ」


「イツキあたりが触れ回ったんだろうな……なら包み隠さずに訊くが、コウ、『伝説の巨獣』は誰に盗まれたと思う?」

「正確に言えば『伝説の昔話がインプットされた魂の詰まった巨獣』、でしょう……私が思うに、それは元々所持していた人間の元に還ったという方が正しいと思うわね」コウと呼ばれたその男性は今取ったばかりの「角」の駒をくるくると指先でくるくると回して言う。


「『伝説』に所有者がいてたまるかよッ」駒が打ち付けられる音が景気よく室内に響く。「艦長」が繰り出す五回目の王手に、コウは顔を顰めた。

「だが、まだ間に合う。パイロットの腕でさえまだ確認してねえんだからな」

「一説によると、操縦していたパイロットはね……『ニンゲン』」詰みを回避したコウは、すぐに調子を取り戻す。「艦長」はそれに対して五回目の苛立ちを見せる。

「データを見る限り、一人はそうだろーよ……だがもう一人は」盤面を見て、思案に入る「艦長」。


「もう一人は?」コウは訊く。

「少なくとも、『ニンゲン』だとは感じられなかったがな」コウは「艦長」の言葉の意味がわからなくて、可笑しそうに笑う。

「せっかく地球に向かってるんだから目的は変更しない。けどな、まずは『ヤツ』の方へ向かわせてくれ。俺達もドンパチやる事になるだろーな」

「それで?『レイゴオウ』を分捕るのに安否は気にしなくていいっての?」

「そうは思わねーよ、だけどな」六回目の王手に、「艦長」は相手の詰みを確信する。「『レイゴオウ』の不滅の魂を躍進させる手助けぐらいはできるだろうさ」


 「艦長」の不敵な笑みの中には、獲物を執拗に着け狙う肉食動物のキバが見え隠れ。コウはそれを盗み見る瞬間に、心の昂りで震えるのを感じてしまった。

 大きな闇が、レイゴオウを狙っていた。

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