Extra's magician

レジ袋

第1話 新参者<Newbie>

ー遠い遠い昔、人は、人ならざるものと戦っていた。

人ならざるものたちは「魔王」を筆頭に侵略をしてきたのだ。

長く苦しい戦いの末、七人の魔術師が魔王を倒した。

その後七人の魔術師は魔術師機関、「ビッグ・ディパー」、通称「B.D」を創設

世界に平穏をもたらし、

魔王を打倒した彼らは「救世主」として名を残した・・・・。


そんな、おとぎ話のような英雄譚を私は子供のころから聞いていた。

そして子供なら一度は抱くであろう夢を抱いた。


「こんなかっこいい人になりたい、になりたい。」と・・・


だれもが思い、多くの人が忘れ去った、そんな夢。


ーけれど、

諦めきれなくて。子供のようにあこがれ続けて。

私はー






「・・・・は・・・・前、・・・は・・・前ー」

という声で、私の意識は現実へと帰った。

「・・・・あれ?」

という我ながら情けない声を上げつつ、思考する。


・・・ここはどこだったろうか?


「え~っと・・・確か今日は試験で・・」

そう、今日は念願の試験日。B.Dへ入るため、

試験会場である自宅から10駅ほど遠い「カサル・パテニ」の街へと行くために

魔動列車に乗ったはずだ。

忘れ物があってはならないと、何度も何度も口に出しながら持ち物を確認したことを覚えている。そして列車に乗り、いつもでかけに行く隣町を通過するのを見て

いて、それから・・・それからーーー?


「・・・寝てた?」


という結論にたどりついた途端に顔が熱くなった。

口元に手をやれば少しよだれがついているではないか。

あまりの気恥ずかしさに顔を下げようと思った瞬間


「カサル・パテニ、カサル・パテニー。B.D試験会場にご用事の方は―」


というアナウンスが聞こえ、あわてて

「あ、降ります!」と叫んだ。

こんな調子で試験に受かるのだろうか、という不安を抱きつつ

人を掻きわけて駅へと降り立った。




会場に着くと溢れんばかりの―

と、言うほどではないが多くの人がいた。

・・・どうやら自分は遅いほうだったようだ。

朝の失態のことも含め、自分に落胆し溜息をつこうとしたとき


「よう!」「おはよ」

と、声をかけられた。そちらに顔を向けると、一組みの男女がこちらを見ている。それは幼いころから親しい友人達だった。

「おはよ ギンとレナ・・・・」と挨拶を返す。

「おうどうした元気ねぇな?いつものテンションどこ行った?」

とギンに聞かれた。


<アサヒ ギン。>

本来は「朝日あさひ ぎん」とかくらしい。

<和の国>と呼ばれる国から来た人で、「外国人」という響きに期待して、

実際にあったら普通の人だったとガッカリした思い出がある。

それがきっかけで仲良くなり、今に至る。

私の夢を笑わない数少ない友人の一人だ。


「朝だからぼーっとして寝過ごしそうになったんでしょ?クノ、朝弱いし。」

とレナに悪態を突かれ少しむっとした。


<レナ・ハーネルン>。


幼少期に家が近かったため、よくあっては喧嘩したが、

同じ夢を持っていることがわかり意気投合。

その後少し遠くへと引っ越してしまったため疎遠になるかと思ったが、

そんなこともなく、理解者として互いに信頼している。

・・・が、何年たっても口が悪いままなのはいただけない。


ちなみにクノというのは私の名前である。

<クノ・ランサール>、それがフルネーム。


「あぁ~そいやそうだったそうだった。」

と朗らかに笑うギン。

「・・・着く前に眼覚めたから。寝過ごしてないから!ほらわたしだって成長ー」

「「五十歩百歩っていう和の国のことわざ知ってる?」」

と、言い切る前にいわれてしまった。


そんなご挨拶もすみ、談笑をしていると


鐘の音とともにアナウンスが入った。

「現在よりB.Dの入隊志願者に対し、試験を行います。該当者は事前に知らされた

部屋で一次試験となる筆記試験を受けてください。」


「・・はじまったなー」

「そうだね」「そうね」

と気合を入れる。


「パートナーは誰になるのかしら?」

レナが言った

「気が早いよ・・・・・」

思わず苦笑してしまう。


合格し、B.Dとなった人は

B.Dの構成員で何らかの理由で単独で活動している人物と

タッグを組むことになるのだ。


「ま、全員同じ部屋でやるんだし、あまり緊張せずともいいでしょう。」

とレナが言った。

「いや土壇場でいつもガッチガチになる人が何言ってんの?」

「それはッッ!」

おぉ、見事に赤い。リンゴみたいだ。

よし、ここぞとばかりに返してやった。


「はぁ・・・ばからしくなってきたわ。」

あはははは、と全員笑った。

「んじゃいこうぜ!」

というギンの一言で私たちは試験へと向かったー





~2時間後~


筆記試験が終わり志願者全員がふぅというような息を吐く中

「あぁぁぁぁぁぁッ!やっちゃったなぁ・・・・」

とギンが呻いた。

「どうしたのよ?」

「間違って月と日を陰と陽ってかいちまった・・・・」

「またぁ!?」

とあきれられギンはシュンとした。


「・・・いい?魔法の属性は

月、火、水、木、金、土、日!

あんたの国の言葉でしょうが!」

とレナが叱責した。

「うちの国では

火、水、風、土、金、陰、陽なんだよ!」


「・・・そのいいわけ何回聞いたかわからないよね・・・」

と私がいうと

痛いところを吐かれたらしく、ギンは「うっ・・・」と言って黙った。

三人で盛大な溜息をこぼした後、


「実技で何とかするしかねぇなぁ…」

とギンが言った。


B.Dの試験は二つ、筆記と実技がある。

重要視されるのは実技であり、結果の7割が実技である。

理由としては、

一つに、B.Dは戦闘が主であるため、

知識よりも実技が優先になるのだ、研究の専門を受ければ別だが。


次に、魔力量が関係する。

魔力量とは読んで字のごとく、魔法を使うための魔力をどれだけ持っているか、

ということなのだが・・・

魔力量を決めるのは主に生れである。

つまりは一般の人よりも魔術師の家系のほうが多いのだ。


だが、例外があり

一般人の子、たとえば私のように一般人でも多い人もいれば、

魔術師の子、レナのようにそこまで多くない人もいる。

が、魔力量は技能の高さとは関係がないため、

素質でなく技能で判定される。

まぁ、大抵多い人ほど強いのだが、たまに例外がいるのだ。

・・・私のように。


「あんたは魔力量も技能も高いんだからしっかりなさいな。」

とレナが言った。


そうなのだ、魔力量でいえば

レナ≦ギン<私 の順で、

技術面だと

レナ>ギン>>私 になる。


「へいへい。」

「一番危ないのはクノなんだから、がんばんなさいよ?」

「あはは・・・レナは相変わらずお母さんみたいだねぇ」

と言いつつ、私は実技試験の場へと向かった・・・



実技試験の内容は実に簡単だ。

用意された試験用の魔法障壁をどれだけ多く破壊できるかである。

もっと簡単にいえば的当てと追いかけっこである。

いくつかのグループに分けられ、その中でより多くの障壁が壊せるかを競うのだ。

他人に魔法を当てれば失格、故意ならば逮捕。

けが人も出る可能性もある危険なものだ。


グループ分けは魔力量で決められる。

多い人からA,B,C,Dという風にわけられ、

わたしはB、ギンはBの別グループ、レナはCである。


・・・待機室に入るとすでに私以外は全員いて、

各自用品や、魔術書の読み直しをしている。


一番隅に座り、持ってきたノートを開く。

レナ、ギンとともに作ったお手製の魔術書だ。

お高い書のような高等魔術は書いてないが、簡易的な魔術で

活躍できるような使い方が三人の文字でびっしり書かれている。


大丈夫、大丈夫・・・と自己暗示をしつつ時を待つ。そしてー


「Bー2グループのみなさん、試験開始時刻です。」


ーと、いうアナウンスが入った。







試験会場に出ると、そこはいかにもな感じの闘技場だった。


すでに魔法障壁の立方体がそこかしこに浮かんでいる。


「ー試験を開始します。制限時間は全ての障壁を破壊するまで。それではー」



「-はじめ!」


合図とともに魔法を詠唱する

使うのは金の属性のー

「Gold dwells・・・《金は・・・・》」


「・・バースト!」

隣にいた志願者が叫ぶ


たちまち空に紋章が浮かび上がりそこを中心としてー

大きな爆発を産んだ。


ドゴォォォォォォォォォンという

脳を強く揺らすような爆音と物が燃えるにおいに、

他の志願者全員が詠唱をやめてしまった。


その後もその志願者は連続して同じ魔法を使ってきた。

「いったッ」

連続して起こる爆発音に思わず耳が痛くなる。

他の参加者の中にはうずくまっている人もいる。


しかしふと、爆発の後を見た時に疑問に思った。

・・・障壁は壊れていないのだ。

いや確実にダメージを負っているが壊れてはいない。


「・・・まさか」


そう、おそらくはこの志願者は、魔法を直接当てずにこちらを無力化したいのだ。

実際何人かはもはや試験どころではない状態である。


そうとは気づけたものの爆発は終わらない。


ー耐えるしかない。

そう覚悟し、私は作戦通り詠唱を再開した。


「・・in my hands・・・《・・我が手に・・・》」


ー一回目の詠唱を終わらせ、

魔法を再び使う。

爆音に耐えながらの詠唱は困難を極めたが・・・


「Gold dwells in my hand becomes a foundation!《金は礎となり我が手に宿る》」


と、ようやく10回唱え切った。

未だ爆音は鳴りやまない、精神も摩耗してきた。

・・・一回にかけるしかない。

覚悟を決め 爆音よりも大きな声を出そうと息を吸いー


ーリナの得意技の金属性のを10回唱えた万全の状態で


「理は我にあり!万物よひれ伏せ!」

「-重力球!」


ーギンに教えてもらった土の魔法を唱えた。


瞬間。あまりにも巨大な球形の壁が半分以上の障壁を包む。


本来、重力球という魔法は詠唱とは裏腹に両手サイズの重力の塊を作りだす魔法であり、打ち出しても破壊力はさほどない。せいぜい壁に握りこぶしくらいの

穴をあける程度だ。が、


強化魔法を何重にもすることによってその大きさと威力を何倍も引き上げたのだ。


重力球という初歩の初歩の呪文にしては大きさが段違いだったため、

驚きのあまり詠唱が止まったようで、爆発を起こしていた人が

「しまっー」というのが見て取れた。

そいつに向かって不敵な笑みを向け―

「収縮せよ!」と、唱える。

するとギュオオオオオという音を出しながら重力の玉は障壁ごと縮んでいきー

障壁の半数以上を巻き込み消滅した。


参加者があっけにとられる中、目標を達成した私自身は脱力感に見舞われー

・・・・意識を闇へと手放した。







目を覚ますとそこは白い部屋で、自分は横たわっていた。

「あぁ・・・気絶しちゃったんだ・・・」

と気づき、体を起こすと、


・・・見知らぬ人が二人立っていた

一人は赤髪長髪の女性で、もうひとりはよく見えない。男の人だろうか?


「あの、どちらさまでしょうか?」

とおぼつかない口調で警戒しつつ長髪の女性に話しかける。


「気がつかれましたか。私はクレド。

クレド・ウォ―キングス。試験官です。」

と、クレドという名らしい女性が穏やかな口調で自己紹介をした。

なるほど、倒れたためその後の説明に来てくれたのだろうか?

納得がいき、警戒を解いた。すると、


「そしてあそこにいるのがー」

よく見えなかった男性らしき人を示し、

「あなたの相方、いや師に当たるレイン・マイゼルです。」

その声に応じたかのようにもう一人が挨拶をする


「どうも、レイン・マイゼルです。よろしくお願いしますね。」


その姿を見た時に、私はひどく驚いた。

髪は銀色で、目が青色、服装も魔導師らしい一般的なものに見える。

が、一点だけ特に目をひくものがあった。


ー右腕全体が黒い布で覆われていたのだ。


そのことを不審に思っていた私の頭に疑問が浮かんだ。

「・・・ん?ぱーとなー?」


・・・・何とも間抜けな声でいってしまった。


「あぁ、倒れていたから知らないのですねあなたは合格です。

クノ・ランサールさん。」

と、淡々と言われた。


頭が会話についていけていなかった。

しばらくして、頭の整理がつき「合格したんだ!」ときづいた。

喜ぼうとしたその時

「それと、一つ説明しておくことがあります。

魔術師のランクについてはご存知ですよね?」

とクレドが聞いてきた。


「あ、はい!

A,B,C,D,とあって、功績で昇格していくんですよね?」

と少し興奮しつついった。


「はい、その通りです。

それで説明しておくことなんですが・・・・

あなたはCからのスタートになります。」


驚いた、Dからのスタートになると決めつけていたものだったから。

思わず心の中で「よっし!」と声を上げた。


ーしかしその気持ちはすぐに消えた。

その次が問題だったのだ。


「で、あなたのパートナーのレインなんですが・・・・

ランク外、番外者と言う立ち位置なのです。」


「・・・・・へ?」

あたまが?だらけになった。

なにをいってるのだろうか?

ランク外?


「ですのでいただきます。」


・・・不安になってきた。

パートナーを変えてもらえないのだろー


「ちなみにすでに決定したことです。」


ーもはや頭が回らない。


「なのでこちらにサインを―」

「クレドさん、クレドさん。」

「何ですかレインさん?」

「そのこ、固まってる。」



「・・・・あ」


そんなこんなで、波乱の入隊試験は終わった。


その時病室にあったのは、

頭が真っ白なクノと、

クノの肩を軽く揺さぶるクレドと

困った顔をしたレインだけだった・・・・・。




第一話 完

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