第2話 ダスティネス・フォード・ララティーナ18歳の煩悶
やってしまった。
とっぷりと夜に暮れた頃、パーティが寝泊まりしている屋敷の一室でダクネスは頭を抱えていた。何か取り返しの付かないような事をしてしまった、そんな感覚に苛まれている。
噂には聞いていた、サキュバスのお店。
予約してしまった。
「いや、いやいやいやいや! ・・・・・・私は悪くない! 悪くないしっ!!」
自分しか居ないはずの部屋の中で、ダクネスは唐突に言い訳を始めた。
そもそも、事の発端ということを語るなら、それはいつぞやのお見合い事件ということになるのだ。
あの事件の途中でなぜかカズマと木刀で勝負することになったとき、あの男は「ここは一つ、賭けをしないか?」と自分に持ちかけてきた。いわゆる『勝った方は相手に一つ何でも言うことを聞かせられる』という伝説のアレである。案の定、奴は鬼畜外道らしく「お前が顔を真っ赤にして恥ずかしがって、泣いて嫌がる凄い事」を要求してやると、そう言ってきたのだが・・・・・・最後の最後でヘタレやがった。
結局、その約束は「街の住民に
うん、要するに全部
勝手にそう総括すると、ダクネスは勢いよくベッドに倒れ込んだ。横になったまま、再び頭の中で思考を巡らす。
そんなわけで、誰かさんの煮え切らない態度のせいで、図らずも
決して噂を聞いて、前々からちょっと気になっていたとか、そういうわけではないのである。どうか誤解しないでほしい。
「・・・・・・本当に見るのかな、夢」
自分の中の正論を総動員して心の平穏を取り戻したダクネスの感心は、もはや次の段階へと移っていた。就寝後の、夢の中で起こる事である。
勿論、モンスターの店とは言え、金を払ったのだからサービスの提供は行われるだろう。男性冒険者には大変な人気を誇る店みたいだし、きっと見せてくれる夢も上質なものに違いない。
・・・・・・だが、だからこそ店内であの熟年のサキュバスから言われたことが気にかかる。
”・・・・・・人には深層心理というものがありますので、望む望まざるに関わらず、お客様が本当に見たいと思っている夢を見ることができるでしょう”
「本当に、見たい夢・・・・・・か」
ふと思い出したその言葉が、落ち着いていたダクネスの胸中を再び高鳴らせる。
正直に白状すれば、今回はそこまでレベルの高いものを望むつもりはなかった。なにぶん初めてのことなので、加減を間違えたら文字通り「どうなってしまうか分からない」と思ったからだ。だから、最初は自分の嗜好をほんの少し満たす程度の夢に抑えておこう・・・・・・そう思っていた。
だが、そんなダクネスの意に反して、あのサキュバスは「自由に夢を見せることはできない」などと言ってきた。聞いたときにこそ肩すかしを食らったような気持ちになったものの、裏を返せば『手加減することなど出来ませんので、あしからず』という意味にも取れなくない。
快楽をセーブすることは不可能。
そのような逃げは通用しない。
「・・・・・・え? やばくないか、それ?」
枕に顔を埋めながら、ダクネスは今さらながら不安になってくる。
まことに恥ずかしい限りだが、このダクネスは抱えている欲望が並みの人間よりも数倍は大きい自負がある。毎日のようにパーティの女性陣にいかがわしい視線を向けてくるカズマでさえ、自分の日々の妄想には引き気味なのだ。
もしも、そんな自分の邪念がサキュバスの力で具現化されてしまったら・・・・・・
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