第3話 いざ王都へ向かおう(1)

雪が解けて、草花が咲く春の日差しの中、村の門前には村人たちが集まっていた。

村人たちの視線の先には、この村に来る行商人の荷馬車と二人の少年少女だった。


「グレン、リリナ、達者でな」

「グレン、リリナちゃんをしっかり、守るんだぞ!」

「リリナ、元気でね」


村長、父さん、リリナの母親が別れの挨拶をする。

人によっては、この日を最後に村に帰らない人も居るからだ。

悪い意味ではなく、良い意味で王都で仕事を見つけて、村に帰らない人たちである。

俺は、権力や思惑がある王都には永住する気が無いので、学園卒業後は村に帰る予定ではあるが、リリナは珍しい聖属性の為、どうなるか分からないが、俺やリリナの両親は本人の意思を尊重しようと思うので、残るなら残るで幸せになって欲しいとは思う。


「では行きましょうか」

「「はい」」


行商人のお兄さんの合図で俺たちは馬車に乗り込んだら、御者が馬を走らせる。

後ろを見ると村のみんながまだ手を振っている。

行商人の荷馬車は村々の子供たちが王都へ行く際の移動手段としても使われている。

その為、この馬車は荷物の他に、人を乗せる為のスペースもあり、普通の馬車より大きく作られているのだが、その分、4頭で引く必要がある為、御者の技量も問われるのだ。

道中は魔物の出現はあるが、盗賊と合うことはまず無い。

理由は盗賊になる必要が無いからである。

この国は、土地を4大貴族が統治して、税を国へ納める。村々はそれに収穫量に見合った額が支払われる。

国と言う大きな会社に雇われた村人と言う名の社員と言えば簡単だろう。

勿論、収穫量が悪いときの補助なども国へ申請すれば補助されるので、飢える事も無いのだが、領主(貴族側)には優秀な会計士が必要で、国への報告を1ヶ月しなかったら強制捜査の後、偽造などがあれば爵位没収のほか、投獄、強制労働などの重い罰があるので、貴族側は物凄い責任と義務が生じる。

商人と冒険者(自由職)は各商会とギルドがその加盟者に支払う義務があり、こちらも違法が無いかをチェックする為に国へ経理報告書を提出しなければ成らないのだ。

両者も純利益に対して10%の税を納める義務になっているが、新しく発足した商会などは、1年間免除などがある。ただし、報告書の義務はある。

この政策の結果、貴族の当主やあとを継ぐ長男はかなり、真面目でまともな人物が多いのだが、次男以下の者が楽して甘い蜜を吸うではないが、性格的難がある人物が多い。


「お嬢さんの金髪は聖属性かな?」

「はい」


商人のお兄さんがリリナの髪を見て話しかける。

黒髪の俺を見ることも無く、お兄さんはリリナと話をする。

この国では銀髪が闇属性で王族に多く、火が赤、水が青、風が緑、土が茶色、聖属性が金髪で黒は魔人族の落ちこぼれの属性無しと言われている。

俺は属性が無い訳ではなく、前世の影響で黒髪だと思うのだが、親の話では生まれたときは虹の様な煌びやかな光を放っていたらしいので、この事は俺の両親とリリナの両親と村長夫妻しか知らない話で、村の人たちの中には、俺を可愛そうな子として見ている人も居た。

魔人族の中には【属性無い=魔人族ではない】と思っている人が多く、権力が強ければ強いほど顕著である。


馬車を王都へ向けて進ませている中、前方に立ち往生している馬車が1台目に入った。

御者が馬車を止めて、前方の馬車に近づくと、悲鳴を上げたので俺も外へ出て見に行くと、馬車の御者が槍を胸に突き刺さった状態で死んでいた。

馬車には、ここの領主で水の公爵【アクアローズ家】の家紋が入っていた。


「これは・・・」


商人のお兄さんも言葉を失う。

その様子を尻目に俺は感知魔法を広範囲で使用する。

森の奥に人が9と魔物15の反応を感知する。


「リリナ、少し行ってくる」

「うん、気をつけて」


リリナの言葉を聞くと頷いて森の中へ駆けていった。



~~とある公爵令嬢の視点~~


私は水の貴族【アクアローズ家】の長女として生まれ、お母様が領主として統治している土地を更に発展させることが義務と思い、今まで勉強してきた。

水の筆頭貴族として、義務をしっかり、身につけて民の為、国の為に働くお母様を尊敬して居たが、不幸な事故でお母様は先月、帰らぬ人になった。

正直、学園への入学も行きたくないほど落ち込んでいたが、執事の方に「この状態のお嬢様を見て奥様が悲しまれます。お嬢様は奥様を安心させない気ですか?」と言われたのを気に頑張って来たのですが、当主の不在で筆頭当主を狙う輩が少なからず居たのか、本日の王都への移動中に護衛として雇った騎士に裏切られてしまった。


「って私をどうするつもりですか?」


私は自身を取り囲む騎士を睨む。

騎士の様な鎧に身を包んでいるが、下種のような笑みを浮かべている辺り、この人たちは正規の騎士では無い様な気がした。


「嬢ちゃんには恨みは無いが、これも仕事なんでね。ここで魔物に襲われて死んだことにしたいのさ」


騎士は懐からお香を取り出して、火をつけると周りが更に嫌な笑みを浮かべていた。


「それは…」

「貴族様なら知っているだろ?【魔物寄せの香】だ。依頼主から頂いた物さ。こんな物を使うとはかなり本気らしいな」


【魔物寄せの香】は名前の通り、魔物を呼び寄せるお香で、ひとつ使用して過去に街を覆いつくす魔物に溢れて壊滅した逸話もある危険アイテムで国の禁止アイテムの一つに指定されているはずだが何故…


「さて、俺たちは巻き込まれたくないから退散させて貰うぜ。野郎共、引き上げるぞ」

「どう見ても、そっち側が悪だよな?」


隊長格の男が撤退の声を上げたと同時に、少年の声が重なった。

私の周囲に居た男二人が血を出して倒れた間に黒髪の少年が立っていた。


「大丈夫?今、拘束を解くから」

「えっ」


私を拘束していた魔封の腕輪は術者の魔力を封じるのと、専用の鍵を使用しないと解除出来ない物なのだが、少年は鍵を使わずに解除してしまった。


「魔物も増えてるし、さっさと片付けるから此処に居て」


黒髪…属性なしの少年が私の周りに防御結界を張る。

優しい、魔力に当てられ、緊張と死の恐怖で硬くなった身体から力が抜けるのが分かる。


「そうそう、人を見捨てるのは後味悪いしリリナが起こりそうだから助けるけど、この事は内緒にしてね」


少年は笑みを浮かべながら私に言った。

その後は、騎士たちを倒して、沢山の魔物と戦った少年は明らかに異常だった。

騎士団を派遣するレベルにまで膨れ上がった魔物の群れを一人で倒す姿は神の様な光景で、大昔の物語に出てくる救世主、勇者の様な姿だった。

左手に禍々しい黒色の剣と右手に神々しい光り輝く剣の2種類を振り、殲滅していく。

もはや戦いにすらなっておらず、騎士たちは一刀の元で切り伏せられ、魔法も当たった筈だが、自身の魔力防御が高いのか無傷で攻め込む。

魔物たちも途中で野生の勘だろうか、勝てない相手と分かると、お香で失った理性を取り戻したかのように逃げ出す。


「終わったし、一度、君の馬車の所まで帰ろうか」


周辺は魔物と騎士の遺体が転がっており、正直、吐き気が沸いて来る状況の中、少年は笑みを絶やさずに私に近づいてくる。


「…はい…」


私と彼の出会いは物語のような綺麗な物ではなく、死体と恐怖に彩られた、この悲惨な物だった。

気を失わなかった私を褒めて欲しい…



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