第2話 2年後の9歳

今日も村は平和である。

庭にある木にロープを繋げて間も網目状にロープを張って、簡易的なハンモックを作り揺ら揺らと揺れながら寝ている。

雲ひとつ無い、快晴の空の下で、木々の影と風の優しい涼しさが、眠気を助長させる。

これこそ、まさに贅沢。

他の人は大金を使い、豪勢な生活が贅沢だと言うが俺は違うと思う。

【時は金なり】と言うが、時間は金を得る為に必要だが、金は時間を得る為に必要な物では無いと思う。

過ぎた時間は金では戻らないから俺の中では時間>金の認識で、この様にただ、風に揺られながら目的も無く惰眠を貪るこの瞬間こそ贅沢と言わずに何と言うのだろうか。


「グレン!一緒に森へ行こう」


俺の贅沢を邪魔する存在が来た。

幼馴染のリリナだ。

彼女は自身が聖属性の持ち主だと知ると、人を助ける為の力を得る為に努力をしてきた。

魔力制御も村長に教わり、回復魔法の使い方は本で学び、それ以外でも効果が出るように森で薬草を採取して調べたりと、彼女の求める力は武ではなく癒しの力だった。

その為、森などには魔物も住んでいるので、俺と一緒に行動するようにしていた。

と言うかリリナの両親が俺と一緒じゃないと森へは行かせないと言った為、俺の居ない所で俺の付き添いの話が決まっていた。


「ふぁ~。少し待ってて」


俺はハンモックから降りるとそのまま、家の中に入り準備をする。


「じゃあ行こうか」

「うん」


家から短剣を1本、腰に携えてリリナと森へ向かう。

8歳から俺のドッペルゲンガーを黒ずくめの装備に身を纏わせて、影として動いてもらっている。

ドッペルたちも個々に仮人格と言うか、意思ある魔力、精霊を中に宿したので俺とは別の人物と言える。

見た目も、ドッペルゲンガー特有の変化を利用して、その精霊が成りたい姿になって貰っている。


現在、10体の内、2体をリリナの護衛に付けている。

女性タイプで中身は光の精霊でリリナとかなり相性が良いと思う。

本人たちもリリナの護衛を率先して引き受けており、俺よりもリリナに忠誠を持ってる可能性があった。


本日も気配を探ると、2体はしっかりと着いてきていた。

魔物も出る気配と言うか遭遇する前に、2体が片付けているので安全なピクニックだ。


「暇だな」


あくびをしながら辺りを見ると、リリナは一生懸命に薬草採取をしていた。


「グレン君、そっち側の薬草を取って貰えない?」

「了解」


適当な草に向けて【鑑定】のスキルを使う。

ゲームのようにレベルやステータスが存在する世界だと、ゲーム画面の様な物が現れて詳細を教えてくれるが、今、俺が居る世界は魔法がある地球の様な世界で、身体能力や魔力などの情報は、道具を使って大体の目安で測っている。

この様な世界で【鑑定】を使うとその物の情報が頭の中に直接、浮かんでくるのだ。


ただの雑草…名も無き雑草。しかし、生き抜く為の生命力は高く、根っこを抜かれても生えてくる。


モコ草…薬草の一種。葉には傷口に塗ると殺菌作用がある。茎の繊維で布も作れる頑張り物。春には小さな黄色い花を咲かせる。


ギドギド草…名前を毒草っぽいが、葉の部分には他の物の効果を高める作用があり、モコ草と混ぜると、直りの早い薬になる。ただ、毒草の【ドキドキ草】と見た目が一緒なので、熟練の物しか見分けられない。


ドキドキ草…名前の由来は飲んだら、心臓がドキドキしたみたいに、急に激しく脈打ち、激しい痙攣と嘔吐、皮膚から血の様な赤い汗を流して、3日間苦しんで亡くなる危険な毒草。しかし、毒も使いようで、熟練の薬師は毒の成分だけを除き、スタミナ薬として売っている。


「ふむ。リリナ、モコ草で良いのか?」

「うん。私じゃギドギド草とドキドキ草の見分け方も分からないし、あと村長からまだ、使い方も教わってないから要らないよ」


リリナの言葉を聞き、俺は根っこを残す形で、下の部分を刈り取る。



「そろそろ、昼食にしようか?」


3時間位、黙々と薬草を採取していたので、かなりの量になったので、リリナが昼食を提案してきた。

確かにおなかが空いたので、リリナの提案を受け、少し先にある川辺へ二人で向かう。


「やっぱり、グレン君が居ると採取の量が違うね。コツがあるの?」

「そうだね。コツと言えばコツだけど…教えれる物じゃないよ」

「そっか、残念」


俺の言葉で少し残念そうな顔をするリリナだがすぐに笑顔になり、俺に話しかける。


「もうすぐ、学校だね。楽しみ!」


そう、あと1年で俺たちは村を離れて王都へ行き、寮生活が始まる。

俺は行きたくない気持ちが大きい。リリナを想うと絶対に良くない輩に絡まれそうだ。

う~ん、もうそろそろ紹介するか。


「リリナ。俺からお前に渡すと言うか預ける物があるので、昼食後、少し時間をくれない?」

「えっ!渡したいもの?良いよ!」


リリナが俺の言葉を聞き、少し興奮した感じの声で返事をする。

俺は鈍感系では無いので、リリナが俺に好意を持っているのは理解しているが、俺は大事な家族のイメージが強いので、鈍感なフリをして逃げる。



川の辺で、リリナ手製の弁当を食べた後、リリナは俺の横でずーっと俺の言葉を待っていた。

生まれてからずーっと一緒に居た女の子。光属性の証の少し薄い金色の髪は腰まで伸びていて、顔も昔の面影を残しつつ、美人になりそうな程の整っている。

俺のが言葉を発しないのを不思議に思ったのか俺の顔を見るその、親譲りの緑色の瞳は少しタレ目気味だがパッチリしており、今更、気づくかやはりリリナは可愛いと思う。


「えーっと、リリナさんに渡したい者と言うか預ける者はこの方たちです。ヒカリ、ライト来い。」


「「御意」」


黒いマスクと黒装束に身を包んだ二人が俺とリリナの前に膝を着き、頭を下げる。


「えーっとこの人たちは?」


急に現れた二人に戸惑うリリナに俺は簡単に説明する。


「学校に行っても俺がすぐに助けれる状況じゃない時もあるので、リリナの護衛を任せる人だよ。この二人は人ではなく、俺の契約した精霊だから君を裏切らずしっかり、守ってくれると思うよ。あと聖属性の精霊だから、君との相性も良いと思う。」

「私は、ヒカリと申します。今までは、主の命で影ながら守っていましたが、今後は従者としてお守りさせて頂きます。」

「私はライトと申します。リリナ様の努力と優しさに私たちは心を打たれました。今後とも宜しくお願いします」

「こちらこそ、精霊様にお守りして頂けて恐れ多いですが、よろしくお願いします」


お互いに話をして認めた主従関係を遠めで見てグレンは、ほっと胸を撫で下ろした。

初対面でここまですんなりと進むとはやはり、思っていなかった部分があったが、リリナの持ち前の人の良さが、二人の素性に納得して受け入れた所が本当に凄いと思う。

この世界で精霊など物語の内容で出る位で、実際に見る人や触れる人など居ないレベルで普通は信じない所なのだが…。


(二人との顔合わせも問題なくと言うより予定よりも上手く終わったし、今後の護衛も俺じゃなくて二人に任せれば良いよね?)


そそくさとその場を後に帰ろうとしたグレンの肩を掴む手があった。


「主様、リリナ様の護衛は何時も通り主様がやってくださいね。 (逃げるんじゃないぞこのくそ主。リリナ様を泣かせたら私たちがぶん殴るぞ)」


(やべー、心の声が恐ろしく聞こえる。)

怖い笑みで顔を近づけるライトを前に人形の様に頭を上下に揺らしす事しか出来なあった。








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