第6章 仮面の商人 (13)
ローズリーと出会った事で、アヴァインはヒルデクライス家の仕事も個人的に頼まれる様になり、ヒルデクライス家と関係したその他大勢からの仕事の依頼や投資の話が舞い込む様になった。その事もあって更に人を雇うことに決め。ギルドのブリティッシュに「誰か知り合いでいい人はいませんか?」と相談すると、そうした手配も直ぐにやってくれた。
アヴァインの下で働く使用人は現在25名で、責任者として
そうした執事を1名と、州都アルデバルで借りた屋敷の手入れや家事を行って貰うメイドが8名。屋敷の雑用など主に屋敷内での力仕事や馬車などの手入れを行って貰う
警護の4名については、ギルドのハインハイルから「そうした方が良い」と言われたからだ。
商人も稼げる様になると、身代金目当てで狙ってくる夜盗などが現れるらしい……実に世の中、物騒なものだよ。
本拠地を州都アルデバルと定めてから1ヶ月後、久し振りにメルキメデス家の領地アクト=ファリアナにある《ハインハイル交易ギルド》本部に、アヴァインは4人の護衛と
その時ばかりは流石に、付けていた仮面を外す。そして、笑顔を見せた。
そんなアヴァインを見て、ブリティッシュは頬杖をつき。つくづく、といった面持ちで言う。
「商人になって、たった半年の間で。アンタほど成功した人物を見るのは、流石の私も初めてだよ。その内、このコーデリア州一の商人にアンタならなれるのかも知れないねぇー」
「ハハ。全ては、ハインハイルさんとブリティッシュ姉さんのお陰ですよ♪」
それを聞いて、ブリティッシュは微笑む。
「また嬉しいことを言ってくれるじゃないか! まあ~これからもよろしく頼むよ♪」
「はい。こちらこそ!」
アヴァインはその日、銀貨9000枚ほどを《ハインハイル交易ギルド》に収めていた。
銀貨で約30万枚を交易にて稼いでいたからだ。
これだけの資金力があれば、傭兵を雇い、ルナ様の仇であるディステランテを襲う事だって不可能なことではない。あとは、その機会を待つだけである。勿論、ルーベン・アナズウェルから提案されていた方法もあるので、そこは慎重に考えどう行動するかをこれから決めていくつもりだ。しかしそれはそれとして、そこへ少しでも近づかなければ何も事は始まらない。
これまで州都アルデバルを中心とした交易のみを行って来たが、これからは鉱山都市カルタゴやその西にあるカナンサリファ。そして、そこから南の首都キルバレスにまで、交易ルートを広げることに決めた。全ては、『その為』に。
あの事件から半年以上が経つ。今ならば、手配書の効果も以前程ではないだろう、その様に今は期待したい。
アヴァインは、これから自らその交易ルートへ商団を率いて向かうつもりであった。ただ……それまではなかった躊躇いが、この頃のアヴァインの中で実は生まれ始めている。
というのも、ローズリーとはあの後も時折会う様になり、親交を少しずつだったが深めていた。そのローズリーが居る州都アルデバルを離れ、首都キルバレスにまでその交易を伸ばし、ディステランテを討つ。しかしそれはつまり、ローズリーとの別れにも繋がっていたからだ。
だがしかし……ローズリー・ヒルデクライスを通して、時折見え隠れするルナ様の面影……それを感じる度に、アヴァインはローズリーに対し気負いの様なものを最近感じ始めるようになっていた。
この今の自分の思いは、本当にローズリーに対してのものなのか。それともルナ様の面影を追ってのものでしかないのか……そう思うと、首都キルバレスまでの長い交易ルートへわざわざ自ら身を投じるのは、そんなローズリーに対する単なる逃げからだったのかもしれない。正直、アヴァイン自身にも未だによく分からない、整理出来てない心の中の思いだった。
《ハインハイル交易ギルド》本部から外へと出てしばらく歩き、ふとアヴァインは月夜に照らし出される白きアクト=ファリアナの城を懐かし気に遠く見つめた。
「ケイ……君は、元気にしているのだろうか。それに、シャリル様も元気にして居られるのだろうか……」
アヴァインはそれだけを一つ零す様にして言い、そんなアヴァインを
「どうかなされましたのですか? アーザイン様」
「いや……大事ないよ、ハマス。ハハ♪ 気に掛けてくれてありがとう。
ちょっとだけ、昔の旧友のことを思い出しただけのコトさ」
アヴァインは笑顔でハマスに軽くそう言い、その日の宿へと足を向けた。
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《第6章 白き仮面の商人》これにて完結です。
本作品をお読みになり、感じたことなどをお寄せ頂けたら助かります。また、ブクマ&評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしたいと思いますので、どうぞお気楽によろしくお願い致します。
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