第一章 カンタロスの女神
第0話 プロローグ
高々と
ある者は、その水を求めて、旅をし。
ある者は、その水を求めて、人を騙し殺し奪い合う。
そして、ある者は……その空しさを知り悟りゆく──。
これは、そんなパーラースワートロームを舞台とした物語の、一つである。
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「許さない……わたしは、アナタ達 《キルバレスの民》を絶対に許しはしない!」
「……」
落城寸前の《北部連合カルメシア》メルキア国、城塞王城より大きく突き出たテラスにて。燃え盛る炎を背に、細身の十四歳の少女が敵対する若き英雄を目の前にして、短剣を胸元で身を震わせながら構え、声色は憤りをむきだしそう言い放っていた。
その瞳には悔し涙が浮かんでいて、城内で燃え盛る炎を映し、まるで血と思わせる様な赤い光を放ちながら一筋の大粒の涙を溢している。
未だ部隊長の一人に過ぎなかった無名の若き英雄は、そんな少女に一歩だけ、ゆるりと近づいてゆく。
「ち、近づかないで! アナタ達に、この悔しさは──わかりはしないッ!」
「いや、わかるよ……。この私も、かつては今の君と同じ境遇にいたから」
少女はその意味が判らず、戸惑いと動揺の表情を見せた。
「私の名は、カリエン・ロイフォート・フォスター……君と同じく、国を亡くした。キルバレスに滅ぼされたんだ……」
「ロイ……では──アナタも?」
少女は、その名前に心当たりがあったのか。動揺していた表情から、驚きに変わり、手にする短剣に込める力をふっとゆるめ、集中を欠いた。
若き英雄は空かさず、油断を見せた少女へと素早く歩み寄り。短剣を持つその柔らかい手を掴むと、そのまま少女の体全身を覆う様に優しく抱きしめ、自分の方へぐっと引き寄せる。
そして、優しげにこう耳元で囁くように聞いた。
「君の名を……。この私に、教えてはくれないか?」
「──!? ル、ルナ……ルナ=ファルシェ・メルキア」
「ルナ……そうか、それはとても君に似合ういい名だ。君は、その名に恥じぬほど美しい……」
「──!」
若き英雄は、ルナと名乗る少女を力強く。しかし、それでもなお優しさを感じさせるように静かにソッと抱き寄せ、未だ身を震わせ怒り憤る少女の思いをゆっくりと慰めた。
やがてルナも、若き英雄の優しさを信じ受け入れ。次第に頑なだったその心を解きほぐし。その手にしていた短剣を、落城するメルキア城内の石畳へと──落としていたのである。
……人との出逢い。
それは、単なる偶然で終わることも多い。でもその中から、何かひとつでも得て、次に繋がることもあるのではないか? だとすれば、それはきっと、決して無駄なんかじゃなかったってことさ。
そうだろう?
少なくとも自分はそう信じ、今を生きている。
思いがけず、そこから始まり広がりゆく人との繋がりというものは。時として、不思議な結末へと
だって、この二人の運命的出逢いが、のちの自分にとって……いや、この国の行く末までをも大きく左右することに繋がるなんて。この時点ではきっと、誰も想像すら出来ないことだったろう。
例えば、
ただの農民の子が、世紀の大発明をし。
ただの商人の
それはまるで、バカな夢物語の様な話だけどね?
そんな話に、少しでも興味があるのなら、これから語る自分の話しに、付き合って頂けたら幸いに思う……。
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