閑話2 過去と今をつなぐもの

「うー。すこし寒いよぅ」

 そろそろ、長袖のパーカーに変えなきゃダメかな? せっかくの休日だし、今日はいい加減衣替えしようかな。

 とはいえ、今日の服を出すまでパジャマな訳にもいかないし。と、今はそのまま肌寒さをコートで我慢しながら歩いていた。

「おーい、千夜一夜ぁー!」

「あれ? 隊の男子同僚山本くんじゃないか。なんかようかい?」

「天狗の仕業じゃ! じゃなくてだな」

 と、適当なボケをこなしてから。

「前に頼まれてたやつ。蔓茱萸の両親の押収物が見つかったんだ」

「合歓ちゃんの!? やったぜ☆」

 合歓ちゃんに渡したら喜ぶかなぁ。あ、でも。

「ちなみに、薑ちゃんの方は?」

「木蓮の方は……っとだな。事件自体はあったんだが、物取りに襲われたらしくて遺品と呼べる遺品は見つからなかったそうだ。なんとか遺体は発見されて、お墓は作られたらしいがーって感じだな」

「お墓かぁ……まだ連れ出せるほどは無理そうかな」

「そうか? 木蓮は割と落ち着いた風に見えたけどな」

「うぅん。そう見えるっていえば見えるんだけど。でもなんか危うそうなんだよね」

「……? まあ、さっきのあたりは手続きもあって隊長に投げといたからそっちに当たってくれ」

「了解!」

 そのまま彼と別れて、隊の部屋へと向かう。その奥でパーテンションに仕切られた『隊長室(仮)』という雑極まりない部屋に行くと、書類と格闘している隊長がいた。

「隊長隊長! 合歓ちゃんの荷物ー!」

 休みでハイになったテンションのまま突撃をかますと、隊長が露骨にビクッとなった。

「せ、千夜一夜か」

 と、次の瞬間には平静を装って返答してくる。明らかに繕えていないのは別として。

「蔓茱萸の荷物なら、その段ボールの中だ」

 そう返答した後、隊長の視線は私の胸元で止まって。いきなり微笑みかけてきた。

 そういえば。この前に隊長からもらったネックレスをつけていた。それを意識した瞬間、急に頭が真っ白になり。

「じゃ、じゃあ合歓ちゃんに持って行くね!」

「あ、今は零と勉強ちゅーー」

 何かを言っていた隊長を置き去りにして、走り出す。

 ああ。もう。顔が火照る。さっきまで肌寒いとか言ってたのが嘘みたいだ。


 そして。気が付いたら、合歓ちゃんたちのところまで来ていた。

「どうしたの、七夜!? 汗ダラダラだけど!」

「お、重いもの持って走ったからじゃないかな!」

 気恥ずかしくて、ごまかしにかかる。

「そんなに貧弱で、騎士として聡ずかしくないのか?」

「あうぐ」

 龍華の毒が心に刺さる。それはもうぐっさりと。私は一応冷静系なのに、これは本当に恥ずかしい。

「ところで、その重いものってなんなの?」

「これは、合歓ちゃんのご両親がアレした時に回収されて保管されてたものだよ!」

「……それは嬉しいんだけど、その。今は忙しい、かな?」

「化学の実験してましたからね。手を離すのはダメです」

 そう言われて、よく見ると。試験管にバーナー、管につながる袋など実験してます、って雰囲気満載。

「お、お邪魔しました」

 そう言ってすごすごと扉に向かう。勢いで行動して思いっきり失敗した。

 さっきとは別の恥ずかしさで顔を赤くしていると、後ろから声をかけられた。

「まあ待て」

 振り返ると、龍華が肩をすくめ。

「今日は専門外の化学で多めに時間を取ってたんだが、思ったよりこいつらが優秀で、早めに終わりそうなんだよ。だから、汗でも拭いて顔洗って待ってろ」

 軽い仕草で、タオルを投げ渡してきた。


 落ち着いた。テンパって行動してたさっきの自分を殴りたいくらいには落ち着いた。

「で、その押収物はどんなもんなんだ?」

「そうですね。合歓、開けましょうか」

「うん」

 合歓ちゃんの手で、段ボールが開けられる。その中身は。思ったよりスカスカだった。

「押収物だとこんなものなんですかね。実際、持ち主に返されたりもしたでしょうし」

「あ、でも写真立てある!」

 合歓ちゃんが、荷物から1つ写真立てを取り出した。画質は粗いけど、1組の男女と赤子が写っている。

「これ、合歓ちゃんとご両親?」

「うん。こんな穏やかな顔は初めて見たけど」

 写真を覗き込んでいると、薑ちゃんが中から巾着を取り出して。

「合歓。これはなんですか?」

「……あ。それ、たしか連れてかれる直前くらいに『取ってきたけどゴミだった』って投げつけられたやつだ」

 投げつけるなんて! でも、合歓ちゃんの親だしもういないから怒りのぶつけどころが。むぅぅ!

 1人で憤っていると、龍華が「中を見るぞ」と言って紐をほどいていた。

「これは……古い瓦だな。400年位前のやつだ」

「え!? だいじょぶなの? 返したほうがいいかな」

「いや、これは普通の家に使われてるもんだろうから。掘るとこ掘れば石より出てくるもんだし。問題はないだろ」

 合歓ちゃんたちが話しているのを見ていると、視界の端に何か見えた気がして薑ちゃんを見る。そうしたら、薑ちゃんの顔は青く染まり、歯だけがっちりと食いしばられていて。

 そして。急に立ち上がり。

「あの。少し、席を外しますね」

 と、絞り出すような声でつぶやかれた。

 ドアへと向かう彼女に、合歓ちゃんが名前を呼ぶと。

「ごめんなさい。すこし、すこしだけ1人にしてくれますか?」

 と、背中を向けたままで言われ。そのまま去っていった。


 そのあと。午後にも出てこず。夕ご飯にも彼女は顔を出さなかった。

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