第2章 少女たちと見守る大人たち、そして日常
第21話 昔々の思い出
どうも、わたしは眠りが浅い方らしい。
夜中にもかかわらず、目が覚めてしまい。寝なおそうとするも、時間が過ぎるほど頭が回転していくのを感じる。
「うぅ……」
結局。少し夜風にでもあたってこようと、部屋を抜け出した。
そのまま外に出て、
昔。同じように外で夜を過ごしたことは、何回もあった。両親が憮然とした顔で帰ってきたときは、たいていそのまま八つ当たりのように怒鳴られ、暴力を振るわれ、外へと放り出された。
そんな日は、その足で『おじいさん』のところへと向かったものだ。おじいさんは、スラム街でも特にボロボロで、天井もなく塀だけの場所に住んでいた。
おじいさんや、その周りのおじさんたちは、突然きたわたしをいつも笑顔で迎えてくれた。そして、おじいさんの住む場所に迎え入れてくれた。
おじいさんは、わたしにいろいろなものを話してくれた。読み書き計算のやりかた。格好いい英雄のお話。ドジな男の子のお話。子守唄。わたしは、それらを聞きながらゆっくりと眠った。
おじいさんがわたしに話したのは、やさしい話だけではなかった。
わたしの両親が、スラムの人間だからといって許されるレベルではないほどの罪ーー強盗をしていることを教えてくれたのも、おじいさんだった。
わたしも、認めたくはなかったけど。両親が出かけると、たまにお金とかよくわからないものとかを持って帰ってくる。それが、街の外で人を襲って奪ったものだと伝えられたとき。わたしは、納得してしまった。
その事実を認めずに泣き喚いたわたしを、抱きしめて宥めてくれたのもまた、おじいさんだった。
そして、泣きやんだ頃。おじいさんは、わたしにこう伝えた。「今は、そのお金で生きていい。だが、いつか。そのお金のために犠牲になった人に報いるようなことをしろ」と。「自分なりにでも、誰かに胸を張って言えるようなことをしろ」と。
だけど。そんなおじいさんは、死んでしまった。
わたしが行ったときには、もう既に死んでいて。目を開けず、口を開かず。温もりもなく、動かない。そんな姿に、否応なしに死を学ばされた。
おじいさんは、何人かに手紙を書いていたけれど。宛名がギリギリ読めるくらいで、中身はもうよれよれの字にすら見えない線が書かれていた。
だけど。1文だけ。見慣れた並びの文字があった。おじいさんが、大好きだと言っていた言葉。「なすべきことを、なすべきときに」と。
おじいさんは、その日のうちに燃やされ。土に埋められた。だけど、おじいさんの言葉は。姿は。思い出は。わたしのなかに残っている。
「ん……」
気づけば、わたしは外で眠っていたらしい。体が、夜風に冷まされ冷たくなっている。いい加減部屋へ戻ろうと瞼をこすり、伸びをする。
その時、ふと空を見ると。満天の星空が広がっていた。
いままでは、張り詰めていたりいっぱいいっぱいだったりと、視野が狭くなっていたんだろうか。視界に入っていたはずなのに、ずっと気付かなかった。
おじいさんと、一緒に見上げた夜空が蘇る。夜空を見ながら、様々を話してもらった記憶が。
「なすべきことを、なすべきときに」
口の中で、声を漏らす。
自分にできることを、精一杯。これからも、やり続けていこう。新しい、みんなとともに。
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