第23話 護衛任務・後編
王都の隣町郊外。そこが、調査発掘(上物を建てる前の調査)で護送物が発掘された場所だ。そこまでは、特に遅れもなく3日程で着いた。
だが。
「……悪い」
零が言うところによると、調査で出たものが多くまだ
「隊長。どうするんだい?」
神無が問いかけてくる。どうするって言っても、な。
「総員。護送物の準備が終わるまでこの地にて待機! 準備完了後、帰還する! 以上!」
命令しながら、考える。ここの舎に泊めてもらえるか。最悪中にテントだけでも建てさせてもらえたら良いんだが。
……まあ、結果だけ言うと。普通に泊めてもらえた。意外と、部屋に空きはあるらしい。
そして、次の日。訓練場で朝の走り込みをしていたら、千夜一夜と神無に出会った。
「ありゃ隊長。奇遇だね」
「奇遇も何も、訓練場は一つしかないから。自主練するなら会うだろう」
「ロマンがないなぁ」
言葉を交わしながらも、千夜一夜たちはいきなり俺に並走してくる。
「おい。いきなりだと怪我するぞ。もう少しペース落とせ」
「体はもうあっためた。それに、それを言うなら隊長だってそろそろクールダウンに入るくらいでしょ?」
「……わかった。8割くらいで」
「ん」
ゆっくりと速度を落とし、先ほどよりすこし遅めくらいでキープする。
「隊長。今日の予定聞かせて欲しいのだけど」
神無の言葉に、脳内のスケジュールを確かめる。
「零の書類を待ちつつ、待機。しかないだろうな」
「そうかい。なら残念なお知らせだ」
懐から、封筒が出される。そして一言。
「今日は無理。だそうだよ」
「……は?」
「どうやら、書類はともかく運搬前にブツの記録を取りたいらしくてね。いろいろな雑務があって、早くても今日の夕方過ぎくらいにはなるってさ」
「その時間からだと……無理だな」
そんな時間から出たら、危ないどころの騒ぎじゃない。実際、ここは無理のしどころではないだろうし、明日が無難な線だろう。
「で、だ。隊長。そんなだし、私と七夜は出かける予定だったのだけど。隊長も来ないかい?」
「ファッ!?」
なぜか、千夜一夜が奇声をあげる。どこに出かけるつもりだったんだ?
「出かけるって、どこにだ?」
「その辺の店をふらふら、かな。待ってるみんなにもお土産買ってあげたいし」
「確かに」
隊員たちや、蔓茱萸、木蓮にもなにか買って行ってやりたい。特に、あの子達には何かなんでもいいからプレゼントしてやりたいところだ。
「わかった。行ってこい」
「いや、隊長も行くんだよ」
「俺は一応のために待機して——」
「じゃあしょうがないなぁ。私が待機しておくよ。あの子達への贈り物とかは正直いいセンス持ってないし。いいよね? はい。決定」
「……あ、ああ?」
勢いに飲まれて、つい返事をしてしまった。
「……祈。
「ソンナコトナイヨ」
千夜一夜が、神無を睨んでいる。……よくわからないが、せっかくだし甘えるかな。
軽くシャワーして、朝食を食べ。その後で、一旦別れてから再集合となった。
騎士団服だと目立ってしまうため、私服に着替えてから、と言われたが。
「ジャージしかない」
言い訳をさせて欲しい。こうなるなんて予想してなかったんだ。
仕方がないので、ジャージを着て待ち合わせに行くと。案の定、千夜一夜からため息が漏れた。
「なんでジャージ?」
「これしか、無かったから……」
ぼそぼそと、言い訳がましく呟く。見れば、千夜一夜は(いつも通りパーカーだが)しっかりと着飾っている。
気まずさに、下を向いてボリボリと頭を掻いていると。
「しょうがないなあ。じゃあ隊長の服も買おうか」
「え?」
虚を突かれ、顔を上げると。そのまま腕を掴まれて、引っ張られる。
「ほら、行くよ」
俺を引っ張る彼女は、こちらを向き。笑った。
服屋で。
「これはちょっと派手すぎないか?」
「いや、むしろ地味な方だけど……」
菓子屋で。
「皆へのお土産はこの『クッキー☆始めてのキス味』でいいかな?」
「なんだその味は」
「試食あったから食べてみたけど、甘くて美味しかったよ。お菓子だからね」
飯屋で。
「チャーハン美味しー」
「美味いなら良かった」
雑貨屋で。
「この辺とか2人のお土産にいいかな?」
「なら……これとかか?」
「あ〜、いいっすね〜」
いろいろな店を回っているうちに、いつの間にか夕方になっていた。土産も一通り買ったし、そろそろ帰るべきだろう。
同じことを思ったのか、千夜一夜も名残惜しそうに空を見ている。
その憂いの浮かぶ横顔に、目が釘付けになって。
「ん? なあに、隊長」
夕日に照らされた微笑みに、心が混乱して。
「こ、これ! お前への、土産!」
「へ?」
気がつけば、さっき買ったものを差し出していた。
雑貨屋で売っていた色ガラスのネックレス。千夜一夜の髪の色と同じ、澄んだ桜色で。彼女が着けたらどんなに綺麗だろうと思って、気が付いたら買っていた。
心臓の鼓動が、ドクドクと早鐘を打ち。口がうまく回らない。
そんな俺の前で、彼女はそのネックレスを着け。
「えへ。似合う?」
こちらに問いかけてくる彼女を見て。俺の体から一気に蒸気が噴き出したのではないかというくらい、体温が急上昇する。
「に、似合ってるぞ」
乾いた口から、かすれた声を無理矢理絞り出す。無理にでも、伝えたかったから。
その言葉を聞いて、彼女ははにかむように笑った。
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