第19話 みんなと一緒に

 あの後、氷を七夜に溶かしてもらったけど、ちょっと体が冷えちゃって。今は一応みんなで室内に戻っている。

「へくちっ」

「あったかいお茶、持ってきた」

 二重から、湯のみを渡された。包み込むように持つと、掌にじんわりとした温もりが伝わってくる。口をつけ、ひとくち飲む。温もりと苦味、甘みが口を通して広がり、体の中心から熱が戻ってくる。

「……合歓。薑。ごめん」

 二重が正面に来て。正座をし、頭を下げた。

「矛盾さん。……いえ、薑もやらかしちゃいましたし」

「そうじゃ、ない」

 ギリ、と。歯を食い縛る音が聞こえ。

「自分は、あなたたちに嫉妬した。……望まずその状態になったと知っているのに、自分より遥かに強い魔術のセンスに、嫉妬して。八つ当たりみたいにあなたたちを氷漬けにしてしまった。本当に、ごめんなさい」

 そう言って、彼女は口を噤む。

 嫉妬、された? ……ううん。よくわかんない。だけど。いっこ、わかることがある。

 わたしは、隊長さんに体を張らせてようやく八つ当たりを認めたのに。二重は、ちゃんと自分で八つ当たりを認めて。ちゃんと謝った。それだけで、二重は強い、と思う。

 薑も、何か思うところがあるのか。二重の手を握り、話し始めた。

「矛盾さん。矛盾さんがここまで努力をしてきたんであろうことは、よくわかります。さっきの戦いでも、動けないのを広範囲や遠距離攻撃でカバーしたり、近接の武器の扱いも熟練していたのが薑にもわかりました。……だからこそ、ぽっと出の薑たちが魔術を使いながら動いていることに嫉妬してしまったのでしょう。でも、矛盾さんはそのがんばってきた経験で薑たちを降せたじゃないですか。その誇るべきものがある限り、矛盾さんは強くなり続けられます。ずっとずっと、どこまでも」

 二重は、顔を上げ。涙をこぼしながら薑に抱きついた。薑は優しく受け止め、背中をさすっている。そうすると釘打が「泣きたいだけ泣かせてあげよ?」と小さく声をかけてきたから、2人を残してそっと部屋を出た。

「釘打?」

 見ると、釘打の目にも少し涙が浮かんでいて。声をかけると、慌てて指でこすりながら「ご、ごめんね合歓ちゃん」と慌てだした。

「その、さ。ボクや矛盾は、魔力が少ないことでいろいろあってさ。だから、努力することが認められると、ちょっと嬉しくなるっていうか。ちょっと心にしみちゃって」

 『いろいろ』。それはきっと、何かに負けたり。誰かに罵られたり。自分を責めたり。わたしには想像仕切れない『いろいろ』なんだろう。だけど、そこが想像できなくても。そんな環境でめげずに頑張ってきたんだろうことは、よく分かる。……わたしは、諦めちゃったから。

 昔、両親がいた時。生まれてきたことを罵られて。舌打たれて。自分で自分を、否定して。絶望して。諦めて。たまに気まぐれで下賜される愛を啜って。そうして生きてきたわたしには、諦めない素晴らしさがよく分かる。

 二重と、釘打のーー矛盾と、灯の精神の強さが。

 だから、わたしは。

「わたしも負けずに、頑張るからね」

 今は心が弱くても。何度へこたれても、くじけても。この人たちと、幸せになろう。そう誓おう。

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