第17話 初めての戦い
「……どうしてこうなったの?」
練習場の片隅で、わたしと薑は1人の女性と向かい合っていた。相手は。
「実践訓練」
右に大剣、左に大砲を持って。思いっきり臨戦態勢の二重だった。
「実践も何も、矛盾さんの武器は鉄製で薑たちのは木製じゃないですか!」
「訓練用武器、
「っえ? そうなのですか?」
「そう」
ドン、と耳に残る低音が響き。薑の手甲に
「普通の木。今のでヒビくらい入るはず」
確かに、すごく速かったし。そうなのかな。
「いきなり撃たないで……いえ、なんでもないです」
薑が、何かを言おうとした後。わたしと二重を見てやめた。なんでだろ?
「それに。剣は一応刃を潰してある。問題ない」
「頭とかノーガードじゃないですか」
薑が色々ぼやいている。その瞬間、薑の額に同じ×が撃ち込まれた。薑の体が、後ろに飛ぶ。
「魔力で体を強化すれば、このくらい大丈夫。頑張って」
「……だから、いきなり撃つなって言ってるじゃないですか!」
あ。薑が怒った。
「合歓。矛盾さんにちょっと痛い目見せてあげよ?」
「わ、わかった」
怖い。薑がすごく怖い。
そして。少し遠くに控えていた七夜が、声を上げる。
「はい、よーいスタート」
それに合わせて、二重が魔術を唱えた。
「意気軒昂、活性」
それに合わせるように、わたしたちも魔術をーーあれ。そういう感じの魔術あったっけ?
「合歓ちゃん! 薑ちゃん! あれあれ、
そういえば、そんなのも教えてもらったっけ。
「薑! 行くよ!」
魔術で仲間を害さないようにする魔術。心をつなぐ魔術。それを意識すると、自然とお互いの口が言葉を紡ぐ。
「背を預けられる友への絆」
「今織り紡ぎ奇跡と成せ」
『トゥジュール・アンサンブル!』
その時、わたしたちの間に一瞬線が伸び。繋がっている感覚がそこから伝わってきた。
「先手。もらう」
二重が、大砲から弾幕を張ってくる。それに対して、わたしは槌を叩きつけ。
「グレード・インブレナブル!」
鉄の壁を作り出し、その陰に隠れた。バチバチと、壁に弾が当たる音が聞こえてくる。
「どうしよ。これじゃ、近づけない」
薑も守るような大きなのを作ったから、こっちの動きは見えないはずだけど。
「合歓。行くよ」
「え!?」
隣まで来ていた薑に、胸ぐらをつかまれて地面に引き寄せられる。眼前の地面が近づく。思わず目を閉じると、耳元から「アンブル・オーラ」と声がして。次の瞬間、大砲の発射音が近くから聞こえてきた。
「あれ?」
目を開けると、そこは二重のすぐ真後ろで。
「一発目、です!」
薑が綺麗なフォームで二重を打ち抜いていた。
「……後ろから!?」
二重が、勢いを利用して回転しこちらを向く。でも、それと同時に薑は再び「アンブル・オーラ」と唱えると、一瞬で二重の前に移動していた。
「前。もしかして、影!?」
「正解、です!」
確かに、2回とも影を踏むようにしていた。わたしの影から、二重の影へ。
「とと。わたしも戦う!」
薑が思ったより好戦的になっていたから、圧倒されていたけど。わたしもやらなきゃ。
「土より這い出し巨人の
詠唱と同時に、目の前から大きな腕が飛び出してくる。
「行っけ!」
槌を振り下ろすと同時に、その掌が二重に迫り。地面とサンドイッチにした。
「あ。やばっ! やりすぎちゃった!?」
慌てて駆け寄ろうとすると。
「黒風白雨、瀑臥!」
二重の声が聞こえ。大量の水流を体に叩きつけられた。空中でバランスを立て直して着地するけど、水流に打たれた場所が痛い。
「合歓。仕留める前に、迂闊に近寄っちゃダメ。いいね?」
声のする場所には、平然と立っている二重の姿があった。
「薑!」
魔力の線を通じて、するべき
「空駆ける鳥も地に堕ち」
「鋼の牙により砕かれん」
『ラーメ・トライネー!』
紡ぐと同時に。二重の周りに大量の黒い手が生え、二重を地面に拘束し。合わせて地面に槌を叩きつけると、そこから地割れが起こりその隙間から鉄の刃がせり上がる。拘束された二重は、それをまともに受けた。
「次です! ラーメ・インビジブル!」
薑が追撃を唱えると、二重の体が空を不規則に舞う。その間に詠唱をする。
「ごめん……。地獄の番人よ。盟約を果たし彼の者を食せ。クラッキュメント!」
落下する二重を、黒くて可愛らしいぬいぐるみがかじりつく。
そして。その落下地点へと2人で移動し。
「過酷なる運命の大流」
「この拳で打ち砕かん!」
打ち上げ、打ち落とし。移動しながら様々な方向への打撃を加え。二重の軌跡が幾何学模様を描く。
「道を切り開く真なる武器は」
「我らが心にあり!」
そして、その中心へと体を打ち上げ。
『カノン・フィリッパー!』
地面へ打ち落とすように、2人合わせた殴打を叩きつけた。
二重の体が地面に叩きつけられ、土埃が盛大に舞う。
「……やっぱり、やりすぎちゃったんじゃ」
「うう。頭に血が上っちゃいました」
薑も冷静になったようで、落ち込んで顔を覆っている。
「鬼哭啾々、狂瀾怒濤!」
「! グレード・インブレナブル!」
土埃の中から、かすかに声が聞こえた。慌てて、前に壁を張る。でも。飛んできた氷の刃は、易易と壁を切り裂いてわたしたちを吹き飛ばし。
「閉じよ、無間!」
続けて飛んできた大きな氷弾に飲み込まれ、わたしたちは氷塊に閉じ込められた。
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