第16話 それはまるで恋人のように
魔術の使い方を教えてもらった後。龍華と別れて、わたしたちに武器を渡すから、それを選ぶためにと部隊のみんなのところに行くことになった。なんでも、ある程度自衛できるようにはなっておいて欲しいんだとか。
「武器は装備しないと効果がないぞ」
「え。いきなり何?」
「いや。武器は攻撃手段の他に魔術の補助効果もあるからね。割と重要なんだよ」
「そっ、か?」
武器を持つことになるなんて未だにピンとこないな。
「ついた。ここが訓練場だよ」
そこでは、隊長たちが各々の武器を使って打ち合っていた。見ると、みんなの他に食堂であった男の人たちもいる。
「じゃあ、2人の武器を選ぼうか」
そこを通り過ぎ、倉庫のようなところに案内された。その中には、たくさんの木でできた武器が箱の中に乱雑に収められている。
「とりあえず、この中から決めて。引退した先輩のとかあるから、種類は豊富なはずだよ」
「いきなり『決めて』と言われましても……」
「へーきへーき。なんかこうティン! とくるのを持てばいいんだよ」
七夜が変な擬音で説明してくる。要は、直感で選べってことかな?
「みんなはどんな武器使ってるの?」
「んー。いろいろかな。2人が知ってる人だと私は片手剣、祈が双剣、灯は斧、矛盾は大剣大砲、隊長が大剣。他の隊員も槍とかもいるし」
うーん。ホントにみんなバラバラで参考にできない。とりあえず、適当に漁ってみる。
「薑。武器って、どんなのがいいと思う?」
「気に入ったのでいいんじゃないですか? どうせどれも素人なんですし」
「でも、選んで『やっぱり合わない』なんてことになったら迷惑かけちゃうし、やっぱり無難なのを聞いて」
「合歓。それは違うのですよ?」
「え?」
真剣に言われて、思わず武器を漁る手を止めてそちらを見る。
薑は、こちらをまっすぐと見て。笑みを浮かべながら優しく語りかけてくる。
「誰にでも合う武器なんて存在しません。万人受けする武器だって、合歓に合わない武器である可能性はゼロじゃないです。誰もが使いこなせなかった武器だって合歓が使える可能性もゼロじゃないです。だから、武器が合わないのは迷惑じゃないですし、異質な武器を選んでもいいのですよ」
「……薑」
「なんて。受け売りなんですけどね」
そう言って、照れ臭そうに笑う。
「いや。それは武器を選ぶ上で重要だと思うよ」
離れて見ていた七夜も同意する。
「武器は人の視線を気にして選ぶものじゃない。あくまで自分の相棒として、長く付き合っていくものだからね。自分が惚れ込んだ武器ならそれでいいんだよ」
七夜が腕を組みながら話す。
わたしが惚れる武器、か。……あれ。あっちにも何かあるみたい。
箱から離れて、落ちていた棒を拾おうとする。すると、その棒には先端に円筒が付いていて。手へ重さがしっかりと伝わってくる。その重さを確かめるように、23回ぶんぶんと振ってみた。……これ、いいかも。
「これ、両手ハンマー? こんなのあったっけ」
「……ダメ?」
「んにゃ。止める理由はないよ」
「薑も決まりました」
薑の方を見ると、相変わらず空手の姿がある。
「あれ? 薑、武器は?」
「ふふふ。これなのですよ!」
じゃーん、と。その両手がこちらに伸びる。その両手には、ダンゴムシのような手甲が嵌められていた。
「ああ。こっちは見たことある」
七夜はそう言うと、頬を掻きながら「それにしても、2人とも殴打系の武器だね」と呟く。
「……あ。確かに」
でも、これがいいから。しょうがないね。
「さて。じゃあ武器も決まったところで練習しようか」
「素振りとかですか?」
「んにゃ? 実践」
「ふぇ?」
薑が虚をつかれたように声を出す。
「頑張ってね。ふへへへへ」
その笑う姿は、まるで悪人のようだった。
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