第15話 ぶつりの ほうそくが みだれる!

 翌朝。夜更かしをしたせいか、薑に起こされた。顔をすすいで、歯を磨いて。みんなのところに行く。今日もご飯を持ってきてくれていたのか、おにぎりとおかずが並べられていた。

「えと。負担になるなら、食堂行けるよ?」

「いや。負担にはなってないさ」

「せやせや。どうせ訓練所はこっちの近くだしにゃ」

 うーん。まあ、好意には甘えるようにしよう。昨日幸せになるように努力することにしたんだし。

「祈と千夜一夜がそう言うなら」

「ん?」

「あれ。合歓ちゃん、祈さんのこと下で呼ぶようになったのですか?」

「うん。ちょっといろいろあって」

 あの時は勢いで下で呼んだけど。やっぱり冷静になると照れちゃうな。祈はどう……うわ。すっごい誇らしげな顔してる。すこし殴りたいレベルで。

「仲良くなっちゃったぜ☆」

「うらやましい。ぐぬぬ」

 あ、釘打が「ほっといて、食べちゃおっか」って言ってる。二重もおにぎり持ってるし。そうしよっか。いただきます。

「合歓ちゃん! 実は私、合歓ちゃんに『カナシ』って呼ばれないと頭痛が痛くって」

「何その『頭が悪い』みたいな言い方は」

「あ、つい必死になりすぎちゃって。……あれ? 今けなされた?」

「気のせいじゃない? カラシ」

「やった! 下の名前で……ん?」

 千夜一夜と軽口を叩きながら、おにぎりをぱくつく。なんだかんだ、千夜一夜がいれば空気が軽くなるあたりムードメーカーなんだろう。

「いのり〜。合歓ちゃんの当たりが強いよ〜」

「お茶がこぼれるから後にしようか」

「あつつ!?」

 というか、わたしよりぞんざいに扱ってる気がするんだけど。いいのかな?

「いいんじゃないですか? 楽しそうですし」

「そう、だね?」

 見れば、じゃれ合いながらもみんな笑顔。本当に、あったかい人たち。


 で。食べ終わった後、龍華にお勉強を教えてもらうため部屋に戻る。

「……なんで千夜一夜が付いてくるの?」

「仲良くなりたくて」

「仕事しなよ」

「仲良くなるのも仕事だよ!」

 サムズアップしながら笑いかけられる。実際、大丈夫なの?

「なんでカナシがいんだ?」

 部屋に入ってきた龍華も同じこと聞いてきたし。

「魔術の勉強なら、使える人がいた方がええやろ?」

「そうか。まあいいや」

 いいんだ。

「んじゃ、勉強始めるぞ。最初は、魔術についてだ。お前らが身を守るために最優先で習得すべきものだな」

「魔術? ……ってなに?」

「魔術は……まあ、すごく不思議な能力って感じだな。いまだになぜできるのか解明されてないし」

「しょうがないよね。できるからできるんだし」

「一応理屈としては、人体のこの部分」

 そう言って、千夜一夜の右胸を指差す。

「ここにある岩臓がんぞうという臓器から魔力ってエネルギーが血に溶けて巡って流れて……まあ、なんだ。別にいいか」

「明らかに面倒になったろ」

 ツッコミが入る。正直、理論はよくわかんないや。

「なあ? 使えりゃいいんだよな」

「そ、そうだね! 使えればなんでもいいよね!」

 理屈なんかわかんなくても大丈夫大丈夫!

「……もしかして合歓って、脳筋さん?」

「っぽいよね」

 のうきん? なんだろ。

「龍華。魔術はどうやって使うの?」

「さあ?」

「そこで投げるのですか!?」

「いや、私魔術使えないし。そもそも使えるのなんて100人に2人かそこらだし」

「え。じゃあわたしたちも使えないんじゃ」

「あ、そこは平気。血を検査すりゃすぐわかるから。使えるってさ」

「う、うん。よかった?」

 いまいちその『魔術』がよくわかんないから、喜ぶべきかどうかよくわかんない。

「で、魔術が使えるこの七夜さんの出番なわけだよ」

「ああ。それでだったんだ」

「じゃ、よろしくお願いしますです」

「うん! まずは、血管やその岩臓から出る魔力を感じてみて」

 声に従い、目を閉じて自分の内側の音を聞く。心臓の反対側から、臓器が動く音がする。その辺りから溢れ出そうな熱を感じる。

「これ、かな?」

 それとほぼ同時に、薑からも「魔力を、捕らえたのです」と声がする。

「じゃあ、その魔力がどう形になろうとしてるかを感じ取ろうか」

 どう形になろうとしているか。それを知るため、そこに感覚を伸ばす。

 針のような? 球のような? ぐにゃぐにゃの?

 どんどん形を変えていくけど、少しずつ感覚がつかめてきた。その感覚のまま、自然と口が動く。

「星をも覆う夜の闇」

「風華、象るは鉄拳。拒絶する風牢」

 同時に、薑の方からも声がする。

「月も無き漆黒は全てを飲み込む」

「業風、感ずるは罪人つみびと。断罪の風刃」

 熱が、形をなす喜びに打ち震える。

「ニュート・ブリリアント!」

「ハイヴァーナル・フロイド!」

 そして、熱がはっきりとした像を描いた。

「……断末魔すら、消え去ってゆく」

「……風葬、弔うは魂」

 その熱を収め、前を見る。すると。

「……きゅう」

 千夜一夜が、血だらけになっていた。

「ちょ、ちょっと千夜一夜!?」

「どうしたのですか!?」

「……2人とも、私はもうダメだ。最後に、名前で呼ばれたかった、な」

「か、七夜! 七夜! 死んじゃヤダ!」

「起きてください! 目を開けて!」

 やだよ。七夜ともまだ一緒にいたいよ。

 その時、龍華が近づいてきて。

「茶番やってねーで起きろバカ」

「あだ」

 七夜を蹴り飛ばした。

 あまりの仕打ちに呆然としていると、七夜は何事もなかったように起き上がり。

「ギャグパートでよかったぜ。シリアスパートAnotherなら死んでたな」

 そう、嘯く。

「七夜、死んだはずじゃ」

「ギャグパートだったから平気平気。死んでないよ」

 …………。

「ねえ龍華。魔術って1個だけなの?」

「いや? 他のも使えるだろ。やってみれば?」

「わかりました。やってみますね」

「え? ちょっと。待って。こっち向いて集中してるよね? ちょっと名前で呼んでほしい欲が出ただけなんだ。茶目っ気を出したんだよ。だからって、そんな怒気を出さなくったっていいじゃないか。割に合わないよ。足が出ちゃうよ……みぎゃーーーーーー!」

 このあと滅茶苦茶魔術使った。


 ちなみに。わたしは土と闇、薑は風と闇の魔力を持ってるからそういう魔術が出るようになるって七夜が言ってた。

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