第14話 清らかな夜

 あの子達を見送ってから、俺は一人、書類の処理をしていた。整理といっても、見回りの報告書や隊員の日誌をチェックし判を押すだけ。

 全員分のものに一通り目を通し、伸びをしていると。扉が開き、零が顔を見せる。

「よう」

「よう」

 短く挨拶すると。零はその辺の椅子に座り、コーヒーを一気飲みする。って。

「おい、それ俺のコーヒー」

「あー? 別にいいだろ。それとも間接キスとかいうほど初心でしたか童貞くん?」

「童貞関係ねぇだろ。……別にコーヒーくらい淹れっから。座っとけ」

 ちょうど座り仕事で体が凝ってたところだし。ちょうどいい。そう思いつつ、席を立ち2人分のコーヒーを淹れる。

「んじゃま、夜のプロレスでもするか?」

「断る」

「つれないなぁ。ま、いいや」

 粉を溶くだけのコーヒーを淹れ終わり、零に手渡す。

「そういや、さっき白刃さんに会った」

「親父に?」

「ああ。子供が居ることは通達しとくってさ」

「そうか。なら、いちいち不審がられることも無いか」

 毎回『なんだあの子らは』となって質問されるよりは、子供が居ること自体は周知してもらったほうがいい。

「で、ここからは私の用事だ。あの子らの資料を貸せ」

「資料って、どれだ?」

「全部だよ全部。一応教育係だからな。一通り共有できる情報は共有しておきたいんだよ」

 それに、気になることもあるしな。と、小声で付け足された。

 まあ、頼んだのはこっちだし。断るほどでもないしな。こいつなら、どんなことがわかっても受け止める寛容さがあるし。そう思い、纏められた資料を手渡す。

 零は、その資料を読みつつ、時折「ふーん」とか「へぇ」とか呟く。そして、数分後。読み終えた零から声をかけられる。

「あの子ら、2人とも同じ街で保護されたのか」

「ああ。といっても、蔓茱萸はスラム街。木蓮は人身売買組織で高級寄りの場所。施設前に会った可能性は無さそうだけどな」

「そうだな。……ふむ」

「ん? なんだ?」

「いや、木蓮って苗字になんか引っかかってて。そうそうあるもんじゃないだろうが……」

「昔あの子に会ったとかか?」

「そういうわけじゃないんだが。あー! 気になる!」

 叫びながら、頭を押さえ振り回す。コーヒーに当たったら大変だし、少し寄せておこう。

「……まあ、そのうち思い出すだろ。それより、明日魔術について教えようと思うんだけど」

「魔術についてか。わかった」

 護身の術は早めに教えておきたい。どうせなら、その後に武器も持たせてしまうか。手配しておかなくては。

 その後も、少しその辺を具体的に詰めていたりするうちに夜は更けていった。

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