第11話 服よりもわたしを

 龍華さんが出て行ってすぐ。渡された本の1冊を取って開く。

「えと。この本がどこまでわかるか、だよね?」

 呟いて、読もうとした。けど。きゅるるるる、と音がした。私のお腹から。

 おかしいな。前なら丸2日くらいなら食べなくても平気だったんだけど。施設ではご飯出てきたから弱くなったのかな?

「合歓ちゃん、お腹空いたの?」

「そういえば。自分たちも、何も食べてない」

「そだねー」

「七夜? なに食べたの?」

「誤解だ! 何も食べてな……苺大福食べました」

「素直でよろしい」

「ほっとくとして。どうする?」

「んー、食堂はピーク過ぎてるし。どうしよっか」

 釘打がこちらに問いかけてくる。……たぶん、わたしがこんな容姿だから邪魔なんだ。薑だけなら、よく見ないと違いはわからないし。

「あの、わたしは待ってるから。薑だけでも連れてってあげて」

 大丈夫。わたしはひとりで待てるから。

「ダメだよ!」

 釘打が、思いっきり叫んだ。思わず耳がきーんとなる。

「ばか」

「あう。ごめん。でも、ボクは2人ともと仲良くしたいんだよ? だから、合歓ちゃんだけ除け者にするのはやだ」

「でも、わたしと一緒だとみんなも変な目で見られちゃうよ? 迷惑になっちゃうよ?」

「心配するな」

「隊長さん?」

 隊長さんが、わたしに笑いかける。その笑顔は、官九郎さんとそっくりで。

「誰も君たちのことを迷惑になんて思わない。その程度で一緒に居たくないなんて思わない」

 膝をつき、柔らかい笑顔で頭を撫でてくれる。触れる程度の優しい手つきなのに、そこからあったかさが伝わる。

「それに、ほら。隠したいならこうすればいい」

 撫でていた手が頭の後ろに回り、パーカーのフードを被せる。

「ほら、ただの可愛い女の子だ」

 彼はそう言ってにっかりと笑った。

「……うん」

 さっき感じた不思議な気持ちが、大きくなる。なんとなく、フードを握って顔を背けた。

「隊長。格好良く決めたとこ悪いけど、尻尾、隠せてない」

「あ」

 隊長さんから声が漏れる。そうだった。忘れてた。

「じゃあ、これを着るか?」

 隊長さんは、着ていた服を脱ぐとわたしに羽織らせてくれる。そして、袖を折ろうとしたところで。

「た、隊長さん! 待って!」

「どうした? 尻尾がきついのか?」

 尻尾は平気。そんなことより!

「隊長さんの服がシワだらけになっちゃう」

 隊長さんの着てた服はパリッとしてて、ヨレたりしてなかったのに。わたしのせいでくしゃくしゃにしちゃうなんて、だめ。

「いいさ。服のシワは伸ばせばいい。それに、俺も君と一緒に行きたいんだ」

 それじゃあだめか? と。そう問いかけられ。

「だめじゃ、ない」

 浮かぶ涙をこらえながら、そう答える。そうしたら、彼は優しく頭を撫でーーようとして、逡巡した後ほおをさすった。


「あの、薑危なく見知らぬ場所に1人で連れてかれるところだったんですが」

「やっぱり合歓ちゃんいないと寂しいかい?」

「いえ。……はい」

「どっちだい。ふふ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る