第5話 敏感な尻尾

 あの後、隊長さんはわたしたちがヘンな人の手に渡らないようにする、と言って何処かに行った。その時に、わたしたちがどうしたいか、という事を書いて欲しいとピンクの人に紙を渡されたので、隊長さんたちの隊(特3隊、というらしい)と一緒にいたいと書いた。


 それで、今は。

「神無。離して」

 また、神無に捕まっている。

「またまた。私たちと一緒にいたいんだろう? この甘えんぼさんめ」

「それとこれは、別!」

「祈。ほどほどにしとけな?」

 さっきのピンクの人も、注意はしても止めはしてくれない。隊長さん、帰ってきて。引き剥がして!

 他の赤い人と灰色の人は薑と話してるし。助けてくれる人がいない。

「そういえば合歓ちゃんって、耳だけじゃなく尻尾もあるんだね」

 神無が、無造作にわたしの尻尾を撫ぜた。瞬間。わたしは滅茶苦茶に暴れ、神無から抜け出した。

「合歓ちゃん!? 大丈夫です?」

 そのまま床に倒れこんだわたしを、ピンクの人が抱き起こす。

「だい、じょぶ、じゃない、っぽい」

 触られたショックでうまく口が回らない。その言葉の続きは。

「合歓は尻尾が敏感なんですよ」

 薑が引き継いでくれた。

「敏感って……どんなふーに?」

「本人の説明によると『傷にいきなり消毒液を塗られたぐらい』らしいです」

 みんながこっちを向いたので、こくこくと頷く。

「うわ。ごめん!」

「だいじょぶ。もう、平気」

 立ち上がって、口を開く。でも、騎士の人たちはわたしをじっと見たままで。

「? 平気だよ?」

「じゃなくて。服」

「なんで下着も何もないの!?」

 したぎ、って言われても。官九郎さんから渡された『びょういんぎ』はちゃんと着てるし。

「薑。したぎってなに?」

「キャミソールとかパンツとかですけど……」

「『きゃみそーる』? 『ぱんつ』? なに、それ」

「えと、合歓ちゃん。施設の前はどんな服着てたの?」

「前? お父さんのTシャツを『わんぴーす』にして着てた。あとは、冬には半纏も着てたし」

「その下は?」

「へ? 下?」

 体壊さないくらいに服は着ろ、って言われて着てたけど、その下なんてあったかな?

「全員。緊急会議」

 灰色の人が言うと、みんなが輪になって会話を始めた。なんか薑も行っちゃったし、疎外感。仕方ないから、その場で会話だけ聞いてみる。

『薑、あの施設どうなってるの』

『正直なんで無いんだろうとは思ってましたけど、キメラ前は普通に短パンだったからそういうところだと思ってまして』

『じゃあ、服は大T→普通の服(下着なし)→病院着ってこと?』

『施設時代が一番まともだけど、それでも短パンか』

『おしゃれ、させよう』

『少なくとも、下着の概念は植え付けようか』

『でも、そんなすぐに服なんて用意できるんですか?』

『大丈夫。騎士団の服を扱ってくれるところに超特急で頼むから!』

『デザインは私が行こう』

『ボクも行く!』

『自分も。あと、サイズ、任せて』

『乗り気だね。じゃあ、3人が選んでる間に服の知識を教えておくよ』

『手伝います』

 会話が終わり、全員がこちらを向く。なんか目つきが怖い。

「一葉知秋、察知」

 灰色の人が呟くと、その人の周りが発光した。

「サイズ、もらった」

「でかした矛盾! じゃあ祈、あとは任せた!」

「頑張って!」

 灰色の人、ピンクの人、赤い人が部屋を出て行く。そして。

「じゃ、お勉強の時間だよ」

「しっかり憶えてくださいね?」

 神無と薑が、威圧感のする笑顔でこちらに向かってきた。

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