第1章 お兄さんとおっさん、そして少女
第2話 2人の女の子として
あの施設から子供たちを救い出してから7時間後。官九郎が言っていたように、残りの子供たちはただの人間だった。その子達は、今日起きたら軽く聞き取りとカウンセリングをして、今度はきちんとした民間の孤児院に引き取られるらしい。
だが、あの時の2人の子供ーー亜麻色の子は、
そのまま民間施設に送ってしまうには危険が高すぎる。蔓茱萸も木蓮も、官九郎の残したデータによると、『身体能力も高水準、魔術も2属性を得意とし、戦闘能力の期待大』とあった。それに、彼女達はまあ、正直美少女と言っても過言ではない。その上キメラ化となると変態に狙われるだろう。
護衛をつけて民間に、というのも現実的ではない。護衛にそれほど人員を割く余裕がない。それでは守りきれないかもしれないし、守れたとしても奇異の視線は免れないだろう。それではダメだ。
逆に、権力を持つ人の庇護化に入ってもらう? だが、そんなに頼める伝はないし、頼めたとしてもやはり同じ問題に突き当たる。
いっそ、王達に報告して投げてしまおうかとも考えた。だが、官九郎に頼まれたのは俺だ。あの子達が安心できる環境にできなければ、俺はあいつに顔向けできない。
どうするか。どうするか。
「えい」
「あだっ!?」
いきなり、頭頂部から突き抜けるような衝撃が走る。
「二重。お前、大砲で殴りやがったな!」
「潰す気だった」
「反省の色なしか!」
しれっとした顔で、
「まあまあ隊長。矛盾ちゃんのやったことも少しわかるし……」
「分かる、って?」
「さっきから隊長4時間くらいはそうして悩んでるんだよ? あーでもない、こーでもないって。しかも、10分間隔でおんなじこと言ってるし」
「書類作成もずっと私たち。これはもうボコボコ案件だわ」
横にいた
「だいたい、解決の方法あるのに」
「方法って?」
「ああ。それってもしかして!」
「うん。この隊であの子達を引き取っちゃえばいいんだよ」
女子たちが盛り上がる。だが、それで本当にいいのか?
「それでも、問題がある」
「問題ない。……とはいえない。だけど、少なくとも15人いればあの子達を逃がすことくらいできる」
「勉強なら、ボク達が教えたり、来て貰えばいいし。ボク達なら、自衛の手段や魔術だって教えられるよ!」
「灯以外がな」
「そうだった! あはは!」
確かに、一応国家機関である騎士団なら攫ったりはしづらいし、一理あるだろう。だが。
「こんなところじゃ、友達もできないだろうし、街に出してやれなくなるだろう」
「隊長。言っちゃなんだけど、もうあの子達に普通に友達を作るのは難しいよ」
「千夜一夜! お前」
「カナシでいいって。いつも言ってるけど、長いでしょ? あの子達を見る目は大きく分けて2つ。見世物を見るような好奇心か、『かわいそうな子』にかける一方的な憐憫だ。隊長みたいな『ただの女の子』として見る目は、少ないんだよ。……残念ながらね」
そう語る千夜一夜の肩は震え、手からは血が滴り落ちていた。
いつも情に流されがちな俺を叱ってくれるこいつに、何度心無い言葉を言わせれば気がすむのだろう。
「……悪い」
何度繰り返し、何度この言葉を吐いただろう。
「いや。隊長はそのままがいいんだよ」
その度にこう言われる。
『大地は情に篤い。だからこそいいんだ』
そんな声が蘇る。そう言ってくれたのは、官九郎だ。……ああ。俺はこんなままでいいんだろう。友が認め、部下が認めてくれるままで。
「それに、あの子達は外にあまり出たくないみたいだったよ。『うるさいのは苦手。酔うから』だってさ」
「もう起きてたのか!?」
7時間前に護送する途中、眠ってしまったのに。
「もう、って。11時間も経てば起きるでしょうに。悩んでた時間吹っ飛んでた?」
呆れた口調に、慌てて時計を見れば確かに11時間経っていた。
「今は
ああ。俺はなんて部下に恵まれているんだろう。
「さっきから呟いてた案、提案されそうな案、まとめて比較検証する形、書類まとめといた。最終的結論、本人達、任せる形。だけど、さっき以上の案なさそう」
「あの子達に会いに行こう!」
部下達が俺を無理やり立たせて引っ張り上げた。あの子達の元へ。
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