第五章
期限前日、組立作業は最終段階を迎えていた。
結局、原因は歯車の劣化と機構の不具合、紐も劣化していたからだった。ただ、これらを判別するにはこの機械に対する知識が必要で、どの工場も依頼を受けないのがよく分かる。
最後に、箱の一面をずらし、ネジで固定する。
「終わった・・・・・・」
アールスが大きく息を吐く。
しかし、もちろんこれで終わりではない。最後の検査が待っている。
しっかり修理できていれば、正常な答えを出すはずだ。
カレンも固唾を呑んで見守る。
工房の蒸気機関にギアを介してつなぎ、動力を送る。そして、疲労しきっている頭を動かし、計算式を入力する。
「1+1・・・・・・」
確定のスイッチを押すと、結果を表示する文字盤に「2」の文字が現れた。
修理成功だ。
二人はなんともいえない達成感を味わっていた。もちろん、自分の物ではないが、しっかり動くとうれしいものだ。
「アールス、お疲れ様!」
肩を軽く叩きながら、ぐったりとしているアールスを励ます。何とか期日には間に合った。アールスの手袋は、油と金属粉と埃ですっかり汚れていた。
カレンはその日の夜、夕飯を豪勢にしてアールスの労を労った。
「あのさ、カレン。うれしいんだけどさ、これどこから持って来た食材?」
「無論、冷蔵庫よ?」
アールスは、豪勢な食事にうれしい反面、自分の家の食費がかさんでしまったことを嘆いた。
そして、期日の日。昼ごろに依頼主の男がやってきた。
カウンターに機械が置かれ、アールスが軽く説明をした上で詳細書を沿えて渡す。
男は満足げな顔を見せると、言われた分よりも多くのお金を払って店を出ようとした。
男が店から出る前に、アールスは質問を投げる。
「あの、その計算機を作った方にお会いできませんか?」
男はゆっくりと振り向くと
「残念ですが、もう話すことは出来ません。私の唯一の形見を直してくれて、ありがとう」
そう言って店を出て行った。
アールスはため息を一つつくと、晴れた顔をしていた。
工房のほうからそのやり取りを見ていたカレンだが、アールスが晴れ晴れとした気持ちであるのは、すぐに分かった。それと同時に、窓に広がる倫敦の街並みにも珍しく日の光が降り注ぐ。雲が晴れ、青空が広がっていた。
工房に戻り紅茶を飲もうとアールスが振り返ろうとしたとき、扉の鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
そうアールスが言った先には、同い年くらいの女子二人と、東洋人であろう同い年くらいの男子二人の四人が入ってきた。
終
アールス工房の計算機 哲翁霊思 @Hydrogen1921
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