第一話(後半) ハイウインドの竜使い
/ ハイウインドの竜使い
風の王国、もしくは妖精の国とも呼ばれるハイウインド王国。
妖精と言われる種族の血を色濃く受け継いでいるハイウインド王家が統治する国だ。
世界の中心に位置するセントギア大陸の北方、世界樹と呼ばれる大樹に支えられた空中大陸を領土にしている。
二年前、文字通り国を支えている世界樹が崩壊しかかる、なんていう危機に見舞われたものの、今ではすっかり落ち着きを取り戻し、女王レナス=ハイウインド陛下の下、多くの国民が訪れた平和を享受していた。かく言う俺も、その平和の恩恵に預かっているものの一人だ。
俺の名前は、アレフ=クリフォード。22歳で職業は竜使い。
ハイウインド王国とは別のドラグスカイという国の出身だ。ハイウインド人に多い金髪碧眼ではなく、黒髪黒目だけれど、竜の産地であるドラグスカイからこの国に出稼ぎに来ている人は多いので、取り立てて俺が目立つということはない。
俺がこの国に来たのは17歳の時で、それから5年。今年ようやくハイランド王都の南に位置する広大な竜の放牧地の一角に、小さいながらも竜舎を構えること許された。ちなみに竜使いにとって、公的に竜舎を与えられる、というのは、その国での活動免許のような意味を持つ。
つまり、22歳にしてようやく一人前の竜使いとして認められた、ということになる。自慢するわけじゃないけれど、22歳で竜舎を持つ、というのは割りと異例の速さらしい。
……もっとも、最近は竜使い以外の仕事も多いのだけど。
それはさておき。
竜使い、とは文字通り、竜を使役することを生業とする人たちのことを指す。
仕事の内容は、竜を使った人や貨物の運搬。世界樹の上にあるこの国では、町と町が空で分断されていることが多いため飛竜による運搬の需要が非常に高い。だから俺のように別の国から出稼ぎにくる竜使いが多いのだ。
俺の愛竜である雷火の年齢は15歳。竜としてはまだ子供の部類だ。
仔馬ほどの大きさだけれど、身長が180センチ程度の俺がまたがっても十分に空を飛んでくれる。つい先日も、海の向こうの国ユーフォリアまで、俺を背中に載せて往復してくれたばかりだ。体は小さくとも竜使いのパートナーとして十分に活躍してくれているのだ。
ちなみに、大きさのことを言うのであれば、小型と言われる羽竜でも、古竜と呼ばれるまでに年を経るとちょっとしたお城ぐらいの大きさになるらしい。
「でも、そうなるまでには200年ぐらいかかるっていう話だけれどね」
「へえー」
と、俺のうんちくにカレンちゃんが、感動したような声をあげる。
「200年かあ。凄いね、長生きなんだね、雷火ちゃん」
「まあ、そこまで生きた古竜には俺も会った事はないけどね」
カレンちゃんにそう答えながら、俺は先ほどから続けていたブラッシングを再開した。
「よーし、よし。どうだ、雷火。気持ち良いか―?」
「きゅー」
ゴシゴシと竜の羽毛をブラッシングしていくにつれ、雷火が気持ちよさそうに目を細めていく。『雷火』という名前の由来になった額の中央にある一房の金毛も、どこか心地よさそうに揺れているように見えた。
「よしよし、最近忙しかったもんな。今日は念入りに手入れしようなー」
「忙しいのは結構だけど、手入れが疎かなのは良くないね」
「え?」
雷火の手入れに熱中していると、不意に背中からそんな声が掛けられた。少し不機嫌に聞こえる女性の声。
「雷火は気の良い子だけれど、忙しさにかまけて世話を怠ると愛想を尽かされるよ。アル」
「セフィ!」
聞き覚えのある声に振り向けば、そこにはくすんだ灰色のローブに身を包んだ女性の姿があった。
フードを目深に被り、顔には大きめの額縁眼鏡。レンズには薄くスモークが入っている。
まるで顔を隠すような出で立ちの彼女は、俺の友人のセルフィーナだ。愛称はセフィと言う。
ゆったりとしたローブと、分厚い眼鏡のせいで顔立ちも年齢がわかりづらいが、彼女は俺と同年代――おそらく20前後――のはずだった。
わざわざ顔を隠すような出で立ちをしているのは、彼女いわく『古物商を生業にしているから、あまり若く見られるのは、宜しくない』から、だそうだ。
声は若々しいから、あまり意味が無いような気もするのだが、これも彼女に言わせれば『声色なんて相手に合わせていくらでも変えられる』とのこと。……本当だろうか。
「セルフィーナさん! こんにちわ」
「こんにちわ、カレン。お邪魔しているよ」
見るからに怪しい出で立ちのセフィにも、カレンちゃんは元気よく挨拶を交わす。そんなカレンちゃんに続いて、俺も雷火の手入れの手を止めてセフィに笑いかけた。
「久しぶりだね、セフィ。元気にしていた?」
「おかげ様でね。アルも変わりなさそうでなによりだ。雷火も元気だったかな?」
セフィはそう言うと、雷火の方に手を伸ばす。
「きゅー」
「……ふふ。よしよし、君も元気そうだね」
「きゅー!」
雷火の方も彼女とは顔見知りなので、特に彼女を避けることもなく、気持ちよさそうに撫でられている。
「ちなみに、アル。放っておかれると愛想をつかすのは竜も人も同じだからね」
「え?」
「私に一ヶ月も連絡をよこさないとはどういう了見なのかな」
「えーと、それは」
なるほど。
声が少し不機嫌そうに聞こえたのは、そういうことか。
「別にセフィを放っておいた訳じゃないよ。でも、連絡不足だったのは、その……ゴメンな」
「ふん。まあ、わかってくれればいいんだけどね」
どうやらこの友人は、つい先日までの一ヶ月間、俺が西方の国ユーフォリアに滞在していた間に、何も連絡をしなかったことがご不満らしい。愛想のない格好をするわりには、寂しがり屋のセルフィーナだから、らしいといえばらしい言動だった。
そんなセフィの様子に気づいたのか、カレンが興味深そうにセルフィーナの顔を見上げた。
「あれ? セルフィーナさんが拗ねてる?」
「拗ねていないよ、カリン。誤解を招く言い方は止めなさい」
「でも、一ヶ月、アルフさんと会えなくて寂しかったんだよね?」」
「別に、寂しいとかじゃない。黙って居なくなられると、こちらも仕事の手配のやりくりが困るというだけの話だからね」
「えー、素直じゃないなあ」
「だから違うと言っているだろう……君も、何を笑っているのかな? アル?」
「いや、セフィとカリンちゃんは仲がいいなあと、思ってね」
いつも表情を隠そうとするセフィだけど、彼女も率直なカリンちゃん相手では勝手が違うらしい。
「でも、セルフィーナさん。いつもはあまり竜舎の方にまで来ないよね? やっぱりアルフさんに会いたくてきたんじゃ――」
「だから、違うというのに。ここに来たのは、飛竜の手配を頼みたかったからだよ。カリン、空きの飛竜はいるのかな?」
「あ、はい! 大丈夫です。元気な竜がいつでも準備出来てます!」
セフィから仕事の話を振られると、途端にカリンちゃんは居住まいを正して言葉遣いを改めた。流石商売人の娘、恐ろしいほどの切り替えの速さである。
「どういう飛竜をご所望ですか?」
「そうだね。元気なのがいいね」
「ウチの子たちは、みんな元気ですよ!」
「君も含めて、ね」
「えへへ。はい、それがウリですから」
トントン拍子に話を進めていく二人。そんな二人に、
「って、ちょっと待って、ちょっと待って」
と、俺は慌てて割って入った。
「なんだい、アル」
「なんだい、じゃないよ、セフィ。飛竜の手配をするんなら、知り合いの竜使いが目の前にいるだろう?」
「んー。どこにいるのかな。一ヶ月も連絡をくれない竜使いのことなんて忘れてしまった」
「だから、それはゴメンってば!」
「ふふ、冗談だよ」
冗談と言いつつ、まだ微妙に怒ってそうなセフィだった。
「真面目な話、少し大きな荷物を頼みたい。さっき大型飛竜が飛んでいたが、アレぐらいのサイズを手配できるかな?」
「はい! じゃあ、あの子を手配できるように調整しますね!」
「ああ、それがいいね。是非、頼むよ」
「はい! お任せ下さい」
そうやって瞬く間に商談がまとまると、カリンちゃんが「じゃあ準備してきます!」と元気良く告げて、駆けていった。
おそらく自分の家の――ラザフォード家の竜舎の方にいったのだろう。
「カリンは話が早くて助かるね。それで、君は何を落ち込んでいるのかな、アル?」
「竜1頭しかいない弱小竜舎の立場を思い知っていただけだよ」
「拗ねるな、拗ねるな」
ふふふ、と小さく笑うと、セフィは励ますかのようにポンポンと俺の肩を叩いた。
「雷火ならその内大きくなるさ」
「まあ、そう思いたいけど」
「あと100年ぐらいすればね」
「遅すぎるだろ!」
「冗談だよ。それに君と雷火は、昨日までの仕事から帰ってきたばかりだろう?」
「なるほど。仕事の疲れを気遣ってくれていたんだ。ありがとうセフィ」
「まあ、大荷物を運びたいのは本当だから、どのみち、アルに頼める仕事じゃないけどね」
話にオチをつけるようにそう言ってから、ちらり、とセフィは周囲に視線を向けた。
「……セフィ?」
雷火しかいない小さな竜舎。
カリンちゃんが走って出て行ったので、今、周囲には俺とセフィと雷火しか居ない。
それなのになお周囲の気配を探る様子のセフィに、俺は自然と眉をひそめた。
「どうかしたのか。周りに気になることでも――」
「それで? 仕事の方はどうだったのかな。アル」
俺の訝しむ声を遮り、セフィが少し声を潜めてそんなことを聞いてきた。
「仕事? ああ、それなりに上手く言ったけど……」
「なるほど。じゃあ、例の「お相手探し」は上手く行った訳だ」
「……セフィ」
彼女の言葉に俺は少し息を呑み、そして自然と周囲の気配に注意を向けた。まるで先ほどのセフィを同じように。
周囲に人が居ないことを俺も確認してから、「商売人」でもある友人に目を向けた。
色付きの眼鏡に阻まれて彼女の表情はよく伺えないけれど、その口元に笑みはなく、冗談で言っているようには見えない。加えて――冗談で口に出すような話題でもない。
「何のことかわからない――と惚けてみせるのは、時間の無駄、なんだろうね、きっと」
「その手の探り合いというのは、商売柄、嫌いじゃないけどね。ただ君とはそういう会話はしたくないかな」
「じゃあ、聞くけど、どうして俺の仕事の内容を、君が知っているのかな」
「最近は私も取引が増えたからね。耳に入ってくる噂話の量も増えたから、かな」
噂話、と来たか。
まあ、今回の仕事は確かに噂になりやすい部類の仕事だったけど。
「それで……実際、どこまで分かっているの?」
「おおよそ、全て、かな」
「……商人のネットワークって怖いなあ」
俺が請け負っていた仕事の内容を「全て」突き止めている、と言ってのけるセフィ。そんな彼女に軽く戦慄しつつ、俺は大げさにため息を付いてみせた。
「そこまで分かっているなら、これは気軽に口外して良い話じゃないってのも、わかるよね?」
「勿論、分かっているよ。私だって意味もなく口外するつもりはないさ。もっともアルがこれ以上、私の口が軽くならないように努力してくれることが前提だけどね」
「はいはい。今度、一緒にお食事でもいかがでしょうか。セルフィーナ嬢」
「誘い方に誠意がないね、クリムゲート卿。まあ今回は食事のお値段で口に重りを付けてもらおうかな」
「……お手柔らかにね」
セフィの口を重くするためには、随分とお財布が軽くなるはめになりそうだった。まあ、一ヶ月分の穴埋めと考えれば、それでもいいか。でも、今月余裕あったかな。
俺が財布の中身を思い出している一方で、セフィは俺の返事に満足したのか、薄い笑いを口元に浮かべた。が、それも一瞬で、すぐに彼女は笑いを消して話題を元に戻してしまった。
「それで、アル。実際「お相手」はどんな方だったのかな。火の国のお姫様は随分と評判が良いみたいだけど」
「む」
火の国のお姫様、と俺が実際に会ってきた人を言い当てられて、俺は少し口ごもった。どうやら本当に、仕事の内容は漏れているらしい。……情報の管理は大丈夫かなあ、この国。
「……セフィ。この件は、もう口外はしないんじゃなかったの?」
「勿論口外はしないよ。でも詮索しないとは言っていない」
「できれば詮索もしてほしくないんだけど」
「それは難しいね。何しろ、私にとっても「友人」に関わることだからね」
「む、そうきたか」
確かに今回の俺の仕事は「ある人物の将来」に関することで、そのある人物とは俺とセフィの共通の友人だったりする。
商売人としてではなく、友人として詮索している、と言われれば、俺としてもあまり無碍にはあしらえ無いけれど……どうしたものか。
そう考えることしばし。
結局は隠してもあまり意味が無い、と諦めて俺は大きく息をついてから応えることにした。
「まあ……噂通りの人だったよ」
「それはまた抽象的だね。もう少し具体的な意見がほしいな」
それでも少しは話しをぼかそうとする俺に、セフィはなおもグイグイと詰め寄ってくる。そんな彼女の態度に、俺は少し気圧された。
ここまで彼女が踏み込んで聞いてくるとは思わなかったけれど……俺が連絡しなかったことを殊更すねてみせたのは、ここで強気に出る意味もあったのかもしれない。
「噂通りは噂通り、だよ」
「要するに評判に違わぬ美人だった、ということかな」
「そうだね。美しいというより、可愛らしい感じだったけど」
「内面の方は?」
「そっちも噂通り。優しくて誠実な方だったよ」
俺がそう答えると、何故かセフィは「ふーん」と拗ねるような声を上げた。
「ふーん? ふーん? ふーん?」
「……いや。何、その反応は」
「いーや? なんだか随分と、かの姫君のことに詳しくなっているようだからね。どうしてかなーと」
素直に答えたはずなのに、何故か声に不機嫌さを滲ませて、セフィが眼鏡越しに俺の目を覗いてきた。薄いグレーのレンズ越し、仄かな赤い瞳が俺の目を捉える。
「な、何? ちょっと近いよ? セフィ」
「アル。まさかと思うけれど、君はかの姫を口説いてきた訳じゃないだろうね?」
「…………はい?」
唐突なセフィの疑問に、俺は思わず間の抜けた声を漏らす。
「だから、西の姫君を口説いてきたんじゃないだろうね?」
「あのね、セフィ。いくらなんでも、それは無いだろう。どうして俺がそんな事……」
「だって君は、姫の内面まで調べてきたんだろう? つまり、それなりに交流を持った、ということじゃないか」
「まあ……挨拶程度はね」
「挨拶程度で内面がわかったりしないし、君はそんないい加減な調査はしないだろう」
そう断言して、またズイ、とセフィは俺の方に詰め寄ってきた。……だから、近いってセフィさん。
「ねえ、セフィ。君、色々と誤解していないか?」
「誤解? 誤解ね。そうだね。私の誤解、邪推、杞憂ならいいけどね。なにせ、君は意外と手が早いからね」
「人聞きの悪いことは言わないでくれ」
俺がいつ、誰に手を出したというのだろうか。
まあ、セフィの言うように多少の交流は図ったけれど。別にやましい事をしてきたわけじゃない。
大体、今回の仕事の内容を、ぼかさずに言ってしまえば――「王子様のお見合い候補の情報収集」なのだ。
ともすればこの国のお姫様になるかもしれない女性に、ちょっかいをかける度胸も甲斐性も持ちあわせてはいない。ついでに言えば、姫君と吊り合うような容姿も身分でもない訳で。
「だから、セフィが想像しているようなことはないよ」
そういう事を遠回しになんとか伝えると、ようやくセフィは納得してくれたようだった。
「容姿や身分、というあたりには少し異議をはさみたいけれど……でも、まあ、それもそうか。ゴメン、変に疑ってしまった」
「わかってくれたなら、いいよ」
「いや、最近、アルが調子乗っているという噂を聞いたからね。ついつい確認したくなったんだ」
「その噂の出処を教えてくれ」
「私だけど」
「あのねえ」
平然と言ってのける彼女に、俺は苦笑いしながら肩をすくめた。さて、どこまでが本音で言っているのやら。
「ともかく彼女とは少しお話をしてきただけだって」
「……彼女? 随分と気安く呼ぶじゃないか?」
「だから、そんな事ないってば!」
「本当かなあ」
何故か、なかなか信用してくれないセフィだった。
「じゃあ、アルが例のお姫様に手を出したのがバレて、牢獄に放り込まれる、なんていう心配はとりあえずはない、ということかな」
「放り込まれてたまるか。まあ、この件は昨日報告書と写真を提出しね。当分は――」
この件に関わることは無いはず。そう言いかけた俺の言葉は、
「アルフ殿! アルフ殿はおられますか!!」
と、竜の放牧地に響き渡る呼び声に妨げられた。
低く太く渋みのあるその呼び声は、カレンちゃんの可愛げのある声とは似ても似つかない。
「……本当に、やましい事は無いんだね? アル?」
「無いよ!」
「アルフ殿! アルフ殿! アルフ殿は何処に!!」
なおも俺を呼び続ける声には聞き覚えがあった。今回の依頼の窓口だった人物――ハイウインド家執事クリフォードさんだ。
「随分と必死に探している様子だね……ねえ、アル? 本当に、本当にやましい事はないんだね?」
「だから無いってば!」
「……そうだね。やましい事はないよね。うん、私はいつだって君を信じているよ。アル」
「そう言いながら、なんで俺から距離を取ろうとしてるんだ、君は」
「大丈夫、大丈夫。差し入れにはきっと行くから」
「何が大丈夫なのか、ちゃんと話しあおうじゃないか」
「アルフ殿! いや、クリムゲート卿、クリムゲート卿はいずこに居られますか!!」
「呼ばれているよ、クリムゲート『卿』」
「その呼び方は止めてくれ」
「爵位を賜ってもう一年だろう。いい加減慣れたらどうかな?」
「形式だけの爵位に慣れるもなにもないよ。やっぱり、落ち着かない」
そもそも「爵位(そんなもの)」を賜ったおかげで、今回、西の国の姫様に会う、なんていう仕事を引き受ける羽目になったんだから。
「クリムゲート卿ー! お願いします! 出てきて下さーい!」
どんどんと必死さというか、悲壮さを増すクリフォードさんの声。その声の調子に、キリキリと胃が痛くなるのを感じる。
セフィに言ったようにやましい事はない。
そうやましい事など、何もないのだが――。
「どうしよう。すごく嫌な予感がする。どうしよう、セフィ」
「私はこの件に関しては口外も詮索もしないし、できない立場だからね」
「さっき詮索はする、って言っただろ!」
「はて? そんな記憶はないけどね。そうだろう? ねえ、雷火」
「きゅー」
セフィはポン、と雷火の額を撫でるように叩いてから、わざとらしく息をついて顔を伏せた。
「20年ぐらいかな……」
「何?! その年数は何のつもりなのかな!?」
「他国の、とは言え、王族への不敬だろう? 死罪でもおかしくないけれども、幸いにも爵位という盾ができたからね。差し引きして刑期はそのぐらいじゃないかな、と」
「刑期とか言わない! 俺は別に何もしてないんだから!」
「大丈夫。私は待つよ」
「待つって何を! ねえ、完全に遊んでるよね、セフィ!」
「さてね」
まくし立てる俺の言葉を、そう小さく笑っていなして。
「さて、では私は飛竜の手配をしてくるとするよ。アルはまだまだ忙しそうだしね」
だから、頑張ってね、クリムゲート卿と。
セフィは俺の肩をポン、と軽く叩いて、竜舎から立ち去ったのだった。
「クリムゲート卿! 王城までお戻り下さい!」
そんな不吉極まりない、クリフォードさんの声から逃げ出すかのように。
/
アルフ=クリムゲート。22歳。
昨年ようやく自分の竜舎を許されたばかりの竜使い。
主な仕事は人・モノ・情報の運搬や、護衛任務――だったのだけど。
昨年、何の因果か、ハイランドの爵位なんていうものを賜ることになった結果、
「王子様の件で、至急、お話が――!!」
王子様のお世話係――なんてものが、今の俺の仕事になっていたのだった。
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