部屋のオカマが増えました



 件名: ほんとうにゴメン!m(_ _;)m


 >ユカのことを傷つけちゃったよね……(T△T)

 本当に軽率なことをしたと思ってる

 いくらサエちゃんのほうから誘われたからといって、やっぱり二人きりで会ってたりしたらダメだよね

 ユカがショックを受けるのも分かるよ……

 でも、これだけは誓って、決して浮気とかそういうことではなくて、たまたま流れでそういうことになっただけで

 俺が本当に好きなのはユカだけだよ……(;д;)

 どうして電話に出てくれないの?

 ユカに会いたい。ユカの声が聞きたいよ……(T_T)


 「キッモ……」

 仕事終わりに更衣室で携帯開いた瞬間にこんなメールが来てたから、つい素で声に出しちゃったら、横でケイちゃんが 「どしたのユカりん」 って言うから、はいってメール見せたら、ケイちゃんは 「え~、めっちゃ謝ってるじゃん」 って言ってくる。

 いや無理じゃね?普通にキモいでしょ。って思いながら携帯を返してもらったら、その瞬間にプルプルと電話が鳴り出した。

 もちろんいっくん。

 改め市岡(呼び捨て)。

 いわゆる元カレ。

 現ややストーカー。

 パンチしてノして部屋を飛び出して以来、絶賛ガン無視中。

 「出ないの?」

 ってケイちゃんが言ってて、え、そりゃ出ないよキモいもんって感じなんだけど、ケイちゃんは 「え~可哀想じゃん。出てあげなよ~~」 とか言ってて、うん?普通に可哀想なのはわたしのほうであって市岡じゃなくない?

 「ユカりん超愛されてるじゃん。別にそんなこと一回ぐらいは許してあげればいいじゃん」

 うーん、相いれない価値観だ。

 って思いながら、とりあえずマナーモードにしちゃって携帯をカバンに放り込む。


 あれ以来、市岡からクソほどLINEメッセが来てウザいからブロックして、そしたらクソほどFacebookメッセが来てウザいからブロックして、さらにTwitterアカウントにDMがクソほど来るからブロックして、そしたら近頃じゃ滅多に使わないSMSとかいうものまで送ってきて、ああそういや携帯ってそういう機能もあったなって感じ。

 これメールの受信拒否ってどうやるんだっけ?着信拒否って端末のほうから設定できたっけか?

 わたしとしては、別れますとかそういう話であったとしても、もう一言たりとも言葉を交わしたくないので、なんか言葉に乗っかって変なものがうつってきそうで気持ち悪いから、一言たりとも言葉を交わしたくないので、このままガン無視決め込んで終わらせたいところなんだけど、市岡もなかなかしぶといというか粘着質というか。

 あと、結構意外だったのが、ケイちゃんに限らず「え~そんぐらい別によくあることじゃん」 とか 「男ってそんなもんだよ~いちいちカリカリしてたら誰も相手いなくなっちゃうよ~~」 とか言う子のほうが多くて、わりとカルチャーショックてきなサムシング。

 みんなわりとそんなもんなのか?普通に無理なんだけど。

 性規範乱れ過ぎじゃない?大丈夫かニッポンの未来。

 まあ少子高齢化とか問題になってるしじゃかじゃかセックスしてもりもり繁殖してくれたほうが日本の未来は明るいのかもしれない。

 日本の未来なんか、わたしの知ったことではないけれど。


 とか思いながら、着替えを済ませてプリプリと駅のほうに歩いていたら、百貨店の前でまたカバンの中でムームー携帯が鳴るから、うるせえ市岡!って思って電源切っちゃおうかとしたら、市岡じゃなくてサエコからだった。

 電話に出る。

 「もしもし?」

 「あ、もしもしユカ? 」

 電話口のサエコの声はなんだかくぐもっていて、ちょっと聞き取りづらい。鼻が詰まってるみたいな。風邪でもひいたのかな?

 わたしは片耳を指で塞いで、ショーウィンドウの脇の壁にもたれかかる。

 「ゴメンわたしユカに謝らないといけないことがあって」

 「あ、うん。知ってるけど」

 って、返事したところで、わたしの頭の中でなにかがピンピンピンと弾かれて、ん? と、ひとつ疑問が浮かび上がる。

 「えっと、このタイミングってことは、ひょっとして市岡からなんか連絡あったの?」

 「市岡って?」

 「いっくん」

 「ああ、うん。そうそう。いっくんから連絡があって、ユカにバレたから上手いコト言っておいてって言われて……あ!コレは言っちゃいけないヤツなんだ。えっと、そうじゃなくて」

 サエコって本当に頭スッカラカンなんだけど、とりあえずアホみたいに正直なところだけはわたしも本当に好きでさ。わりと憎めないんだよね。

 ついつい、フフっと笑っちゃう。

 「あのね、サエコ。とりあえずわたしはサエコには怒ってないから大丈夫」

 「あ、ほんと? よかった~。でね、いっくんがユカとどうしても連絡を取りたいみたいでさ」

 「その前に、ちょっと聞きたいんだけど、サエコはわたしの親友だよね?」

 「もちろんだよ!わたしってなんかあんまり人間関係長続きしないから、高校の時からずっと付き合いが続いてるのってユカぐらいだし」

 「じゃあ、ちゃんと考えてほしいんだけど、そのサエコの親友であるわたしが、彼女の親友と寝るようなクズ男と付き合ってるのってどう思う?」

 「え?ダメダメ!そんなの絶対にダメだよ!」

 サエコは即答でそう言ってから 「あ!そうか!」 と合点する。

 普段はなんにも考えてないところあるんだけど、ちゃんと考えてって言うと考えてくれるので、考える能力じたいがないわけではないっぽい。

 「じゃあ、わたしユカといっくんのヨリを戻させてる場合じゃないじゃん!」

 「そういうこと。で、ついでに聞きたいんだけど、なんでサエコといっくんが一緒に飲みに行くことになったりしたわけ?」

 「え~っとね、いっくんから仕事終わりに今なにしてるの~?みたいなメールが来て、なんか仕事の都合でちょうどミナミのほうに来てたっぽくて」

 はいはいギルティ。

 なにが流れでそういうことになっただけじゃ~~~~!!! おもっきり計画的な犯行やんけ~~~~!!!!!!

 まあ、どうせそんなところじゃないかと思ったけれども。

 「ふーん、それで?なんで市岡……いっくんの部屋に行くことになったの?」

 「うーん、どうだろうな~~?わたし結構酔っちゃってたからあんまり覚えがなくて。たぶんタクシーとかで一緒に行ったんだと思うんだけど」

 うん……?サエコって化け物みたいな酒豪じゃなかったっけ。記憶が飛ぶこととかそうそうなかった気がするけれど。

 「あ!でね、わたし自分がユカの彼氏と寝たせいでユカが彼氏と破局寸前みたいになってるのに自分がのうのうとマルコと付き合ってるのもフェアじゃないなって思って、そのことをマルコに正直に話したの!」

 「は!?」

 さっき一瞬なにかが頭の隅で引っかかった気がしたんだけれど、ビックリしてしまって全部吹き飛んじゃう。

 「え? なにそれ? マルコにサエコが浮気したこと話したの? 大丈夫だったの?」

 「ううん!全然無理だよ!顔面にパンチされて、いま鼻の骨折れてるんだよね!」

 それでなんか声がくぐもってんのかよ!

 大変なことじゃねぇかよ!カジュアルだなオイ!!

 しかも、当然サエコは鼻からブーブー血を出すし、その現場がお外だったので当然警察が来るし、マルコは警察に捕まっちゃうし、しかもなんか不法滞在かなんかだったらしくて強制送還になったらしい。

 「そんなわけで、もうどうやっても破局だよね!」

 いやぁ~、まあそんな不法滞在のGAIJINとは、強制的にでも別れられてむしろ良かったとポジティブに解釈するべきかもしれないけれど。

 あんなムキムキマッチョマンに顔面パンチされて鼻の骨折だけで済んでよかったな。普通に命に関わるぞ。

 ていうか、市岡マジで害悪だな。

 市岡が無駄に足掻くせいで余計なところにまで戦火が拡大して、結局誰も幸せになってないじゃん。全員くまなく損してるだけじゃん。

 って感じでまたプリプリと怒りながら、パパっと晩御飯済ませちゃおうって駅の立ち食いソバ屋で眉をツリ上げながらズルズル月見うどんを食べていたら、おばちゃんが 「はいどうぞ~」 ってちくわ天を載せてくれてるから、ウンなんぞ? っていう顔をしたら、おばちゃんは 「あちらのお客さんから」 ってカウンターの奥のほうを菜箸で示していて、ハゲの太っちょなおじさんがダンディなキメ顔をしてこちらに手を振っていたりする。

 わたしも苦笑いで手を振り返す。

 世の中、いろいろなことがあるものだな。

 ちくわ天はおいしかったです。 


 なんてことがあって、ちょっと怒りは収まったけど、そのかわりになんだか謎にぐったり疲れて家に帰ったら、今日も 「あら^~、どうしたのそんな象に踏まれたみたいなショボくれた顔しちゃって」 と、アッコが出迎えてくれる。

 しかも 「あら^~、なにこの子かわいいじゃない。気の強そうなツンツン猫目が素敵。このお部屋の主?」 とか言って、なんか知らないオカマも増えている。

 イケアのダークブラウンのダイニングテーブルの向こう側、アッコの隣に、肌がこんがり小麦色で金髪でラッシュガードに海パンっていでたちのアンチャンが座ってる。

 でもオカマ喋りだし、アイラインとリップだけは引いているので、たぶんオカマ。

 もちろん、こっちも霊である。

 いわゆるゴースト。

 だって、身体が透けてるし。

 しっかし、やたらと健康的な身体つきをしているな。死んでるくせに。

 「いや、アンタ誰よ……」

 わたしが疲れ果てたトーンと言うと 「あ、こっちの汚い顔したオカマはね……」 とアッコが紹介しようとして 「そういや、アンタ名前なんてったっけ?」 と増えたオカマに聞いている。

 「アタシ? アタシはリサ」

 「リサ? アンタ、リサっていうの? なんていかその……わりとナウい名前ね」

 アタシはアッコね。ヨロシクね? なんてやりとりを、今さらやっている。

 いや、なにアッコも知らないオカマなの? なんか知らないけど見ず知らずのオカマが増えてるわけ? いや、アッコだってもともとは見ず知らずの全然知らないオカマなんだけど。

 「そうなのよ~、なんか気の流れ? だか、風水てきなナニカ? みたいなアレで、死んだオカマはここに引き寄せられるみたいなのよね~」

 「閻魔様のところに呼ばれるまでの、オカマ専用の待合室みたいな感じらしいのよ~」

 え? なにそれ。めっちゃ迷惑。

 それにしてもホント、オカマ受けのする内装よね~この部屋。アタシ好きだわぁ~。みたいなことをリサが言ってて、いや、確かに内装はじぶんてきに頑張ったつもりだし気に入ってくれるのは素直に嬉しいんだけど。

 そうか。オカマ受けのする内装なのかコレ。

 わたしのセンス、オカマなのか。そうか。

 わたしがダイニングテーブルのこっち側に座って、ぐったりとテーブルに伸びていると、アッコが 「またなんかあったの? あ! ひょっとしてその元カレと寝た親友のほうとなんかあった?」 とか言ってきて、まあまったく勘のいいこと。

 「うーん、なんかあったって言っても、別に全然、関係としては良好なんだけど」

 「だけど?」

 「なんか鼻の骨が折れたって」

 「「あら^~~」」

 と、オカマのステレオサウンドがハウリングする。ワワワワー。

 「ちょっと話が一足飛びすぎじゃない? 鼻が折れるってなに? どういうミラクルでそういうことになるのよ」

 ってリサが言うから、サエコとマーク=フランクの話をする。今度はオカマがステレオサウンドで爆笑する。ワワワワー。

 「あ^~、たしかに! アンタが元カレは許せないけど、ほとんど同罪みたいなもののはずなのにそっちのサエコのほうには全然怒ってないっぽいの、なんとなく分かるわ~」

 「アタシもそういう刹那的に生きている正直な馬鹿って、嫌いじゃないわ。まあでも、身近に居ると迷惑なことは迷惑よね~」

 なんて言ってて、まあ、そうなんだよね。

 馬鹿だし、ちょいちょい迷惑なんだけど、なんか全然怒るって感じじゃなくて。

 なんとなく、サエコはそういうもの、みたいな感じ。

 「まあ、なんにせよ飲みなさいよ。飲むのがいいわよ。飲んで適当にやり過ごしていれば、明日はまたやってくるんだからさ」

 とかなんとか、それもどうなんだ。あんまり建設的じゃないような気がしないでもないけれど。

 「んあ~! しゃ~ないな~! 今夜も飲むか!」

 「そうよ! 飲みましょ! 飲んで心のアルコール洗浄よ!」

 って、そんな感じで今日もわたしは冷蔵庫から緊急時用改め、常用消耗品のエビスの350缶を出す。

 アッコとリサにもロックグラスにちょっとずつビールを注いで、お供えする。

 「はいは~い! じゃあ今日もおつかれさまでした~!」

 と、またひとりでカチンと乾杯しようと思ったら、リサのほうのロックグラスがちょっと勝手に動いて、差し出したわたしのタンブラーにカチンと当たる。

 うわ、びっくりした。なにこれ心霊現象?

 いわゆるポルターガイストてきなサムシング?

 「え? なに幽霊ってそういうのもできるの?」 ってリサに聞いたら 「やってやれないことはないわよ。すごく疲れるっていうか、なにかを消耗するけど」 とか言ってて。

 なにかってなによ。霊力てきななにかか?

 「なんて呼ぶのかは知らないけれど、たぶんアタシたち自身がいまはその霊力みたいなもので出来ているから、自分自身を消耗しているって感じかしらね?」

 うん? つまりアレでは? 霊力で構成されている自分自身を消耗するってことは、あんまりやり過ぎると消滅しちゃうとか、そういうことなのでは?

 乾杯ごときでカジュアルに消耗してていいのかソレ?

 「なに言ってんのよ! これから飲むっていうのに乾杯もできないなんてオカマの信念に反するわ! 命削ってでも乾杯しないと話が始まらないじゃないの!」

 なるほど、その心意気やよし。

 まあ、命を削るもナニも、お前はもう死んでるんだけどな。

 

 「しっかしなぁ~、ひょっとしてもしかして、単にわたしの心のほうが狭いのか~?」

 と、わたしがブーブー言ってると、リサが 「なに? 誰かに何か言われたりしたの?」 と、聞いてくる。

 「う~ん、誰かっていうか、わりと、みんな? わたしは絶対に許さんぞ~って感じなんだけど、だいたい話を聞いた人はそれぐらい許してあげなよ~みたいなノリのほうが多くてさ」

 ケイちゃんだって、別に特段に貞操観念の壊れたフリーセックス思想とかそういうわけでもないし、わりと普通寄りの子だし。

 まあ、現代的な普通の女の子ってぐらいに貞操観念は緩めなんだろうけれど。でも、せいぜいそういう水準。

 わたしは常識的に考えて、普通に絶対に無理だと思うんだけど。

 「そのへんはどうかしらね。まあ、人それぞれに色々とあると思うけど。要するにケースバイケースよね」

 「そうそう。一般論としてコレがダメとかアレがダメとかそういう話じゃなくて、要は人間ふたりの関係性の問題だから」 

 「だから、アンタの常識的に考えて普通に絶対に無理っていうのが正しいとか合ってるとかってわけじゃないし、許してあげるべき、みたいなのが正しいわけでもないし」

 アッコとリサは、やっぱりビールをお供えするとちゃんと酔うみたいで、ちょっと顔を上気させながら、あーでもないこーでもないと話をグルグルグルグルとさせている。

 酔ったオカマの話は長い。

 「んあ~、つまりやっぱわたしの心が狭いのか~」

 わたしが椅子の背もたれに体重を預けて上を向きながらうめくと、アッコが 「まあ、たしかにアンタの心は相対的には狭いほうかもしれないけどね……」 と、言う。

 言って、しばらく溜めをつくる。

 「でもね! 心が狭くちゃダメっていったい誰が決めたっていうの!!」

 溜めをつくってから唐突に爆発する。

 酔ったオカマは唐突にキレる。

 「アンタの心はこの部屋と同じ。そんなに広くはないけれど、広くないのを知っているから中に入れるものは厳選されていて、よく整理整頓されているわ」

 「そうね、アタシもこの部屋好きよ。よく手入れがされているし、必要なものは揃っているけど、不要なものがあまりないもの」

 そう? ありがとう。なんて、いちおーお礼は言うんだけど、オカマ受けのする部屋って言われて、イマイチ納得のできなさがなくもないこともない。

 「広くもないのに、アレもコレもなんでもかんでも受け入れていたら、整理整頓が間に合わなくなっちゃうでしょ。アンタは自分のことをよく分かっていて、いらないモノはいらないってちゃんと切り捨てられている。そういうのって、とても大事なことだと思うわ」

 「そうよ。それに、海のように広い心とか言うけどね……」

 リサもそう言って、アッコみたいにしばらく溜めをつくる。

 「人間なんか男だろうと女だろうとオカマだろうと、海に突き落としたら溺れて死ぬのよ!!!!」

 溜めて爆発。

 酔ったオカマは連鎖的に唐突にキレる。

 しかも、リサがキレると連動して食器棚のグラスとか窓のサッシとかがガタガタと揺れる。

 ポルターガイスト現象をバンバン引き起こす。うーん、あんまり暴れないでほしいなぁ。

 「あ、アタシさっきから気になってたんだけどさ。アンタってそのカッコ、ひょっとして海で溺れて死んだわけ?」

 と、アッコがリサのラッシュガードに海パン一丁というファッションを指差して言う。

 酔ったオカマはキレるだけ好きにキレておいて、急に素に戻るし気分でコロコロ話題を変える。

 「なに言ってんのよアンタ!世紀のビッグウェーブよ!オカマだったらね!命賭けてでもやらなきゃいけない時があるのよ!」

 よく分からないけれど、どうやら伝説の大波ビッグウェンズデーに挑んで溺れて死んだオカマのサーファーの霊だったらしい。


 「やっぱな~、男と女ってのは永遠に分かり合えないものなのかもしれないな~」

 などと、わたしは適当に思いついたことを言ってみる。

 「そんなの、男と女に限った話じゃないわよ。人間同士が理解し合うことなんて、永遠にないわ」

 「オカマ同士だって分かり合えないものね~」

 「そうよね。アタシもわざわざ自分から大荒れの海に出て行って溺れ死ぬオカマの気持ちなんか分からないもの」

 「分かってないわね~アンタ。これは漢の世界なのよ」

 「アンタはオカマじゃないの」

 わっはっは、とオカマがふたりで爆笑してて、連動してまた部屋中のモノがガタガタと揺れる。

 「人と人は理解し合うんじゃないの。理解できないまま、ただ受け入れるだけ。受け入れられるものとそうでないものがあるだけなの」

 「そうよね。その証拠に、アンタだって、そのサエコの価値観は全然理解できないみたいだけれど、それでもまるっと丸ごと受け入れているじゃない?」

 そう言われれば、そうかもしれない。

 サエコは本当に困った子で、迷惑をかけられるのもこれが初めてってわけじゃあ全然なくて、むしろ四六時中なにかしらの面倒ごとを持ってくる天然のトラブルメイカー体質なんだけど。

 でも、わたしはそんなサエコが、全然嫌いじゃない。

 友達だと思っている。

 かけがえのない、友達だと思っている。


 てところで、フと気が付いたんだけれど、なんだかリサが随分と薄くなっている感じがする。

 「ねえ、リサ。なんか最初に見たときよりもえらく薄くなってない?」

 「あら、ホントじゃない。アンタ、そんな気さくにポコポコと霊力を使うから」

 たぶん大変なことだと思うのだけど、アッコもリサも、そんなに危機感とか緊張感とかがない。

 「宵越しの霊力は持たないのがオカマの心意気ってものよ。最後に派手にパーッと使って、使い切って逝くほうがオカマらしいじゃない?」

 なんて、言っている間に、薄くなったリサの身体がホワーッと金色に輝きはじめていて、どうやら本当の本当にお別れの時間が迫っているらしい。

 え? ウソ。やっぱオカマの霊も成仏しちゃったりするんだ。

 いや、さっき会ったばかりの全然知らないオカマだけどさ。

 ウチの部屋に勝手に居座って心霊現象を引き起こす迷惑なオカマの霊だけどさ。

 それでも、なんかそんなに急なのは、ちょっと寂しいよ。

 「アンタはホント、いい女よね」

 リサはそう言って、笑う。金色に輝いてだんだん薄れていきながら、笑っている。

 「アタシね、本当はひとつだけ嘘をついていたの。伝説の大波に挑んだのは、別に漢の戦いなんかじゃなかったの。実は悲しいことがあって、自分で死んでしまおうと思ったのよ」

 え、なんかそういうの。本当に最期の告白っぽいし、やめてよ。ちょっと。

 「でも、自殺したなんて思われるのは癪だから、それで命を惜しまずに伝説の大波に挑んだの。全然自分の力量では太刀打ちできないって、分かってたんだけど。でもね、アタシ本当に立ったのよ。最後の最期に、本当に伝説の大波に乗ったの。その光景を、ちゃんと覚えている」

 とても美しかったわ、と、リサが呟く。

 アッコは黙って、リサの最期の告白を聞いている。

 わたしはなんか、すごく泣いている。

 「悲しかったことも、つらかったことも、最後の最期で綺麗サッパリ消えてしまって、今は本当に良い人生だったって、そう思ってる」

 今生の最期にアンタたちに会えて、本当に良かったわ。

 「アタシ、生まれ変わっても、またオカマに生まれてきたい」

 最期にその言葉だけを残して。

 細かい光の粒子になって、リサが消えてしまう。

 細かい光の粒子は、渦を巻きながら昇っていって、虚空に消えていく。


 チクショー! 勝手に現れて勝手に好き勝手言って勝手に満足して成仏してんじゃねぇよ~~!!!って、わたしはまたビャービャー泣いていて。

 泣いているうちに、またそのうちにスッと眠ってしまっていたらしくって。

 気が付いたら自分のベッドで横になって眠っていて。

 悲しいんだけど、なんかグルグルと渦巻いていた雑念みたいなのは綺麗サッパリ消え去っていて。


 やっぱりそのあとめちゃくちゃ金縛りにあった。

 

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