第6話 お店巡り


 通路を歩いて行くと、ブリッジ近くの区画に扉があった。

 ここが本来の搭乗口なのだろうか?

 そういえば、この船の区画ってどんなのがあるのか、まだよく分かっていなかったんだよな。このまま去ることになるかと思うと、ちょっと残念な気持ちになる。


 エアロックのような2つの扉を通ると、長い通路が続いていた。

 長方形の箱にも見えるから、空港の搭乗口みたいな感じだ。


「この位置だと、結構高さがあるのよ。この通路は安全対策も兼ねてるの」

  

 立止まって窓から下を覗いている俺に、フレイヤが教えてくれた。

 もっとも、下の方は暗くてよく分からなかったけどね。

 そんな俺達の傍を、ネコ族の女の子達がにゃあにゃあと楽しそうに話しながら歩いて行く。何時も賑やかだな。思わず笑みがこぼれる。


 通路を出ると、大きな広場があった。広場を真ん中で区切る低い柵に沿っていくつか作られたブースがある。そんなブースの1つにフレイヤが歩いて行くので、その後を追う。こんなところで迷子になったらどうしようもない。

 

 ブースでは、王都の役人が装置を使って手荷物の検査を行なっている。バッグを大きな箱に通すだけだが、それで御禁制の麻薬が検知できるらしい。

 そんな役人の前に、フライヤに習ってバッグを渡す。


「騎士ですな。両腕を見せてください。……はい。結構です。荷物も問題ありません。ウエリントン王国は騎士の来訪を歓迎いたします」

「ありがとう!」


 バッグを受取りフレイヤの元に向かった。

 まるで、入国審査だな。騎士と言う身分でいられるから、意外とすんなり入れるとはフレイヤが言ってたような気がするけどダメだったらどうするんだろうか?


「A-103はこの先よ。ヴィオレ騎士団御用達の集合場所思えば良いわ」

 

 俺の手を引いてドンドン先に進んでいく。

 長い通路を歩いて、俺達はA-1003の扉の前に付いた。だが何処にもドアノブが無い。扉の前に立っても開く事は無かった。


「このブレスレットをかざすの」

 

 フレイヤがブレスレットを部屋名称の金属プレートにかざすと、扉が横にスライドして俺達を通してくれた。


 部屋の中にはたくさんのテーブルが並んでいる。

 その前にカウンターが設えてあり、そこで何かを確認をしているようだ。


「ブレスレットをこの上に載せて欲しいにゃ!」

 

 ネコ族の娘さんに言われる通りにカウンターの上にある金属プレートにブレスレットをかざす。


「騎士、リオ・ヤガミ。確認しました。認識番号1091どうぞ、隣に……」


 隣にいる娘さんが、俺に名刺サイズのカードと小さな紙片を渡してくれた。


「教会のカードにゃ。リオ様は持ってなかったにゃ。これに給与が入ってるにゃ」


 どうやら、銀行のカードのようだな。一応ゴールドカードになってる。渡された紙には認定記号が書かれていたが、その文字は『ALICE』だ。そして、中身は600,000L(レク)とあった。

 この世界のお金の単位は『L(レク)』で1Lは10円位に相当するようだ。

 1年程、厄介になってこの値段だとすると、俺の基本給は50,000Lってことになる。

 だが、実際には採取した鉱石の分け前がプラスされるらしいんだが、まだその分け前に預かっていないからどれ位貰えるのかがピンとこない。


「余り貰ってないわね」

「大丈夫だ。この間、騎士団長からボーナスを貰ってる」

「ああ、例の発見ね。なら、ツアーはリオの驕りで良いわね」

 

 フレイヤもバッグからカードを取り出すと、カウンターの娘さんに渡している。

 返ってきたカードをバッグに戻すと、小さな紙片を見ながらにこにこしてるぞ。

 結構な額なんだろうか? ちょっと失敗したかな。

 

 適当なテーブルに着いて、しばらく待っていると騎士団長が現れた。

 ブリッジ要員が小さなパンフレットを皆に配布している。


 「それでは、次の航海は一月後の10月1日出航とします。9月30日の1500時にこの会議室に来ないものは騎士団を退団したものとみなします。騎士団を去ったものは2度と同じ騎士団に戻れなくなるから注意するように。以上、解散!」


 手元にはガイドブックのようなものが残った。

 後でよく読んでおかないとな。

 バッグに詰め込んだところで、フレイヤに腕を引かれる。


「さて、忙しくなるわよ。先ずはツアーガイドセンターに直行するわ」

 

 俺達がテーブルを離れようとしたところに、生活部の制服を着た女の子が駆けて来た。


「待ってください! ようやく間に合いました。これ、制服です」

 

 俺に小さなスーツケースを渡したかと思うと、直ぐにどこかに駆けて行って見えなくなってしまったぞ。


「制服というよりは、礼装なのよ。騎士なら皆が持ってるわ。公式の時にはそれで済むから楽なのよね。でも、間に合って良かったわ。ツアーでも使えるわよ」


 フレイヤは肯定的だな。

 まあ、貰って困るものでも無さそうだ。2つのバッグを持って、フレイヤと共に会議室を出る。

 

 ドンドン先に進むフレイヤを追うのが大変だ。

 通路が太くなるに連れて人も増えていく。見失ったら迷子になりそうだぞ。

 ついにフレイヤが通路の一角で立止まった。

 俺を見て手招きしている。

 

「ここからは無人タクシーを使うの。これを押せば直ぐ来るわ」

 

 そう言って、腰位の高さにあるポールの先端のボタンを押すとボタンが点滅を始める。

 1分も待たずに、俺たちの前に1台の無人タクシーが停車した。

 ハッチが開き、中にあるソファーに2人で腰を下ろす。

 

「ツアーガイドセンターをお願い」


 目的地を告げると、ゆっくりとハッチが閉まり、タクシーが動き出す。簡易反重力装置で動いているらしく、振動はまるで無い。

 トンネルのような通路を飛ばしたタクシーは数分もかからずに俺達を目的地に運んでくれた。

 料金表示が出たところで、フレイヤが銀貨を1枚トレイに入れる。

 お釣が出ないのが気になるところだが、さっさとフレイヤがタクシーを降りたので、俺も急いで降りて後を追う。


 繁華街らしく、かなりの人出だ。

 フレイヤがきょろきょろ見ている俺の腕を掴んで、大きなエントランスのあるビルに向かって歩き出した。


 エントランスに続くホールも人で一杯だ。そんな人達を気にせずに、フライヤはホールの左右にあるエレベーターを目指して進む。

 10基あるエレベータの1つに入り12階を選択する。

 降りたところから始まるホールは着飾った連中が沢山いるぞ。


「一応有名なツアーなのよ。さあ、行くわよ!」


 フレイヤの先導で、カウンターに行くと直ぐに係員がタブレットを持ってやってきた。


「ツアー番号A-05に、申し込みをしているフレイヤですが……」

「はい、受けております。既に船は接岸していますから、直ぐに乗船できます。これから向かいますか?」


「身なりを整えてから向かいます。夕食は何時からでしょう?」

「21時までは可能ですから十分間に合いますよ。それで、値段はお2人で70,000Lになります」

「それでは、これで……」

 

 腰のバッグから革袋を取り出して金貨を7枚並べる。


「確かに受取りました。これがツアーのチケットです。船はツアーガイド専用埠頭の10番に停船しています」

 

 そう言うと2枚のカードを渡してくれた。フレイヤが受取ってくれたから、任せておけば大丈夫だろう。


「それでは良い旅を」と言って頭を下げる係員を尻目に、フライヤが次の場所に俺を連れて行く。


 次に向かったのは大型のスポーツ店だ。

 テニスウエアのようなシャツと短パン、それにソックスとシューズを手に入れる。

 大型のバッグを購入してその中に俺の手荷物と一緒に詰め込んだ。


「服は上下で3式あれば十分だわ。Tシャツも3枚あるからね。船にもあると言ってたから足りなければそこで買えるでしょう」


 そんな言葉を俺に告げて、次に向かったのはブティックのような場所だ。

 ここで水着を買ったのだが、どう考えても布の少ないフレイヤの水着の方が高いのが疑問だな。

 薄手のロングドレスを1つに、サングラスが2個と帽子が2つ。それに俺用のサイフを購入すると、さっきのスポーツ店とあわせて金貨2枚が飛んでいった。


 最後に向かったのが銀行だ。

 

 俺の残金を預けるらしい。とは言っても、サイフには金貨2枚と銀貨を数枚を入れて置く。

 ATMのような機械にカードと硬貨を入れると新しい残高が表示された。

 全部で845,000L。これだけあれば1か月なら贅沢に過ごせるだろう。腰のバッグにある革袋にもいくらか残ってるしな。


 フレイヤは逆に硬貨を引き出している。

「チップがいるでしょう。あのクラスになると結構かさむのよ。リオも25L硬貨を20枚程準備しときなさい」


 20枚ではなくて40枚用意しておく。

 よく分からない時には大目に用意しておいた方が良いに決まってる。


「これで、全部ね。時間は1900時だから、今から船に向かえば丁度いいわ」

 

 通りに出ると、人込みを掻き分けて無人タクシー乗り場へと向かう。

 何基かあるタクシーのプラットフォームのポールの押しボタンを押す。

 

 目的地を告げると、先程と同じように通りからトンネルに入って行く。

 道理で地上に車や人がいないわけだ。皆地下を利用してるとはね。


「地上の気温は日中なら30℃を軽く超えるのよ。暑くてたまらないわ」


 そんな事を言ってるけど、クルージングだって似たようなものだと俺は思うな。


 唐突にタクシーが停車する。

 フレイヤが会計を済ませると、降り立った場所には中型の双胴船が停泊していた。

 ジッと、船を眺めている俺達のところに、ツアーガイドらしき女性がやってきてチケットを確認する。


「フレイヤ様とリオ様ですね。船はこちらのメリーエン号になります」


 ポケットから小型の通信機を取り出してどこかと連絡を取り合っている。

 直ぐに、やってきたのは水兵服を纏った犬族の若者だ。


「私が案内いたします。荷物はこれだけですね。運びますから付いてきてください」

 

 どうやら、この若者もツアーガイドの1人らしい。

 タラップを上ると直ぐに船内に入る。それ程大きな船では無さそうだぞ。

 通路を進んで行くと突き当たりに扉がある。

 

「この部屋になります。ツアーチケットがカードキーになっていますから無くさないようにお願いします」


 去っていこうとするツアーガイドにフレイヤがチップを渡す。

 ちょっとした事でチップを弾んでたら、結構な散財になりそうだな。


 フレイヤが扉を開くと、部屋の内側にあるスイッチを操作して室内灯を点けた。

 へぇ~なんて言いながら中に入っていったので、俺もバッグを持って中へと足を踏み入れた。


「中々豪華ね。ベッドも大きいし。それにここからだと前方がよく見えるわ」


 ちょっと変わった配置に思えるな。

 奥まったところにベッドがあるわけではなく。そこはソファーが置いてある。窓は前方と左側に繋がっているから、双胴船の片方の舳先部分だと思う。

 ツインベッドの横にある扉を開けると、小さなベランダ風の作りになっていた。

 風呂がジャグジーなのはありがたい。シャワーはあまり俺には向かないようだ。


「ここにパンフレットがあるわ。食事が終ったらゆっくり読まないとね」

「そういえば食事は2100時までだと言ってたぞ。直ぐに出かけよう」


 早速、買い込んだテニスウエアモドキに着替えると、腰にガンベルトだけを付ける。小さなバッグ付きだから小物も入れられるし、無いと何となく落着かない。

 フレイヤが小さな円筒形のバッグを持ったところで、簡単な船内の案内図を見て食堂に出掛けることにした。

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