ノックスの十戒に出てくる「中国人」に関する推理

 ノックスの十戒の、五番目に出てくる「中国人を出してはいけない」であるが、これはいったい何だろうか。


 なんで名指しで「中国人」なのか。


 なにかのメタファーが隠されているとしか思えないのだ。古い書き方読本にはもっと明確に、「謎の中国人」が奇術めいたことを行ってはならない、と書かれてあり、これは二番目の「超自然現象を出すな、」という苦言と同じである。


 にも関わらず、なぜ「中国人」なのか。


 調べた。手掛かりは「中国人 怪人 ミステリ」あたりであろうか。


 色々なキーワードで、それっぽいサイトを発見して、そこに何やら満州事変とか日本軍とかの絡みで、当時は超有名だったらしいヴィランの名を見いだす。










 結論だけ先に言おう。


 この中国人とは、おそらく「フー・マンチュ博士」である。


 どんな人物かはオペラにもなってるみたいなのでそれ参照のこと。

https://www.youtube.com/watch?v=Z0Ye6DsL2lc

『怪人フー・マンチュー~不死と不死身のレクイエム~』


 彼は中国人で、犯罪の天才とされ、祖国を蹂躙する白人主義に対する復讐に燃える殺人鬼として描かれるらしい。不名誉なこととして中国人の間では不人気だったらしいが、今の感覚でオペラを鑑賞した限りでは一周回って「カッコいくね?」て感じだった。煽り文句が「天才悪魔」だよ。すげぇ。


 そして何より、原作小説は当時、とんでもない大ヒットを飛ばした作品だったことである。色んな作品にも影響を与え、ちらほらとゲスト出演を果たしていたりするらしい。ジャイアントロボにまで出てるそうだ。そのくらいのヒット作だった、ということです。時代が時代なので、差別表現もバリバリらしいのだが。


 この時代、「黄禍論」なる、「恐怖の東洋人」というレッテル貼りがあったそうで、おそらくはそれが関連すると思われる。


 ノックスが十戒を発表した1928年にはすでに映画としてシリーズ化が始まっており、空前の大ヒットだったことは容易に想像出来る。


 つまり、ノックスの十戒における「中国人を出してはならない」は、この悪魔博士フー・マンチュのような万能怪人を登場させてはならない、ミステリ以外のジャンルになってしまうぞ、という意味だったと思うのだ。


 今、Wikipediaを読んで確認してみたが、やはり欄外にはちゃんと、フーマンチュとの関連が書かれている。Wikiの記事を読めば読むほど、この博士、とんでもない人物である。西のモリアーティ東のフーマンチュといったところだ。


 おそらくノックスは、ちょっとしたジョークを交えて「中国人を出してはならない」を、博士への敬意も込めて、書き記したものと思われる。



 …いや、とんでもない人物掘り当てたわ。(笑



 令和の今、ぜんぜん伝わってないの、逆にすごいよね。



 これ、翻訳本も数少ないながら出ているらしく、だけど翻訳は割とムニャムニャらしいんで、履修しといた方がいいのかどうかは微妙って感じだ。往年のクリストファー・リーが主演で映画やってるらしいんで、そっちでもいいのかも知れない。

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