ラノベ・キャラ文芸・文芸・文学…「人間の生々しさ」

 リアリティなどという横文字を使うから、誤解が生じやすいのだと思う。ジャンルを隔てる条件って、作者読者の間でもまちまちだけれど、それでも底通するものがあって、分布のような感じで大多数が使っている分類法を取るべきと思っている。


 例えば、ラノベ読者が多く集うような場所ではラノベに都合の良いモノサシを勧めてくるだけなのでアテにならない。曰く、レーベルによって決まるだとか。そんなわけあるか、と思うのだけど。むしろ、ラノベを嫌う幾多の読者はレーベルの違いなど知らない人の方が多いと思うよ。自分自身、レーベルで選ぶのか、と考えればいい。レーベルの違いなどでジャンルの区分は出来ていない、読者をナメた意見と個人的には思う。


 自身の体感だと、むしろ登場人物がどの程度描かれているのか、という部分で分けられているような気がしている。リアリティ、と言ってしまうとどうもバイアスに引っぱられてそれぞれの都合読みに誤読されやすい気がするが、「生々しさ」とか「生臭い」と表現すれば、伝えたいところに近付くと思う。


 主に負の感情、これの取り扱いというか。


 文学は多く、人間性=負の感情として切り離すことはしないが、他のジャンルは必要に応じてというか、夢や希望を優先して現実を曲げているところがあり、そこを測るべきかと思う。


 都合の良い部分がどれだけ含まれるかで、ジャンルは決まっていると思うのだ。


 文学は、人間そのものをテーマに書くジャンルなので登場人物をご都合で動かしたりは出来ない。ナマの人間同様に、「汚い部分」というものも必ず書くものだ。汚いというのも語弊が生まれそうだから言い換えると、「生臭い部分」というべきか。それこそが文学のテーマにも思う。


 これがけっこう、読者には負担だったりする。ニオイがキツい、というわけだ。出来の良い文学となるほど身構えて読まねばならないのも、それがクサヤの干物のごとくとなれば納得もいくだろう。癖が強いということは、ハマれば極上の味ということだ。


 大沢先生は編集者との対談で、新宿鮫がキャラ文芸の元祖と聞いて、ちょっと都合の良い書き方をしているというようなことを仰っていた。理想が入り込んでいるということだ。理想が入るということは、現実から少し逸脱するということだ。


 理想の含有量が大きいほど、少なくとも文学からは遠ざかる。嘘が多い。嘘というものは実がない。つまり、先に挙げたクサヤの干物のような充足感には欠ける。ご都合主義的とも言うが、そういう作品は共通で、読後に残る糧は少ない。ふわふわの綿菓子だ。それが根幹である人間部分においてそうであるなら、読む価値を問う読者が出てくるのは無理のない話だ。


 物事を考える時、方法論の間違いとして陥りやすいのは逆算で、結果から導き出そうとするとたいがい間違う。ラノベと文学で、特にラノベファンはこれをやる。


 ラノベは文学の派生から出てきた枝の一つだ。そこを間違って、ラノベから逆順で辿ったところで正解になど辿り着けない。文学はクサヤであり、その強烈なニオイは読者を選ぶ。だが、その味は万民が好むところのものを確かに含んでいる。文学から派生した幾つかのジャンルは、その旨味だけをなんとか取り出せないかと先人達が苦心して産み出したものと考えれば、「人間を書く」という根幹を薄めたり抽出したりの結果でジャンルの区分が出来たと考えるのが妥当に思う。


 持論であるが、文学は「生臭い」ものであり、一般文芸は「生臭さをハーブで誤魔化している」もので、キャラ文芸もその一派、しかしラノベとなると明らか方法論が変わり、「旨味を諦め調味料で誤魔化す」手法が採られている。元から絶たなきゃだめ、というヤツか。もはやクサヤは使われておらず、人間は書かれていない。アンチからご都合主義と揶揄される理由はそこへ集約される。


 漫画の話になるが、漫画でもクサヤは使わず「理想」あるいは妄想という化学調味料だけで味を作り出している作品はある。もちろん、律儀にクサヤを使っている漫画も多いし、むしろ特大ヒットを飛ばすような作品はクサヤ使用だろう。

 読者のうち、普段読まないようなタイプはクサヤ使用を上質の創作と思っているし、このクサヤが巧いこと癖を抑えて旨味だけ凝縮してあれば、飛びつくのは当然というべきか。化学調味料を下に見るのは料理と変わらないという事情もあろう。その判断も個々の裁定で決まるのだから、ブランディングの根は深い。


 新宿鮫の主人公、鮫島は、文学レベルの深い人間性を描かれている上で、ほんの少しの理想という嘘の調味料が付されている。これがスパイスと呼べるほどに効いているから、絶大の支持を得たのだろうと思っている。


 嘘という調味料が、スパイスの役割を果たせているかどうかが分かれ目か。設定に嘘を入れるのは簡単だが、その嘘が嘘以上の何に化けるかが肝心、というか…


 多くは化学調味料程度、ヒットする作品ではスパイスになり、味を誤魔化すのではなく、深みを与えるに至る、……の、だと思う。

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