読みやすい文章 ≠ 褒め言葉 (その2)
昔々、日本のお手紙やら書物は漢文で書かれまして、話している言葉とは乖離していたというのは有名な話ですが、それって、長いことそういう状態だったのにも理由があったってことかなぁなんて思っています。
話し言葉ってのは、文化圏というもので仕切られてしまっているので、全国共通じゃなかった、てのが大きいわけですね。訛りとかいれたら、薩摩藩と会津藩では言語が通じなかったなんて話もありますし。
明治になって言文一致なんて言い出したのだって、その理由は怪しいもんです。中国辺りに対してちょうど三国人とかの蔑称が出たあたりではないかな。(不都合な事実は不都合なうちは黙っておいて後の世に暴露すんのが日本人)
女性と男性で使う文体が違うとか、アレとかコレとか他にも理由はモニョモニョ。
戻しまして。
読みやすい文章というのは、ある文化圏においては非常に馴染んでいる文体ということなわけです。今、流通しているあらゆる文章はそういう意味でのどこかの文化圏に属した、その文化圏ルールに則った文章だということですね。
その文化圏を完全に把握している人だけに、スルスル読めるってことです。
ちょうどパソコンのソフトとドライバーの関係と同じです。ドライバーをインストールしている人にはスルスルと読めるけど、インストしてない人には引っかかって読みにくい、となるはずです。
勘違いしないでほしいのは、すべてのパターンの文章がそうで、例外はない、という点です。ミステリにはミステリ文化圏、ラノベにはラノベ文化圏、テンプレにはテンプレ文化圏、という具合。それぞれちょびっとずつでも重なってたりもするし。
ここの、ドライバーの不備が読みやすさに直結するって点が要注意なわけです。
文章にこだわってアレコレ書くようになって、ずいぶんとね、気に掛かるようにもなったんですよ、文化圏を跨いで複数のドライバーに対応した文章を心掛けちゃいるけど、ちゃんと出来てんのかなぁ、て。(笑
この言い回しは特殊形でここの文化圏でしか通用しねぇな、とかね、そういうことを考えるようになった、て話ですわ。
例えば、本格ミステリで人情モノをやっても、多くの場合はさほど泣けません。そっちの比重が少なくて、文量が足りてないせいってのが大きいと思うんですけど。ミステリはすべての文章がヒントになってるのが理想とされるので、泣かせるための丁寧な描写は理念をはみ出してしまうからかなぁ、なんて思ったりね。その点が、昔の評論の「人間が書けていない」のポイントですかね。
…事件を起こすのは「人間」なのだから人間を書かずに何を書くんだ、て不満はあるものの…余談でしたね、本題に戻します。(ここがアカンのですよね、私は。せっかくのトリックをツマか何かにしちゃう)
本格モノで、トリックの解法に集中したい読者にとっては、人情描写は、特にヒントでも何でもない誰かの描写なんてのは、邪魔でしかありませんわ。読者としての私だってそんなモノは邪魔だと思いますよ、ええ。そんなヘタクソなことしか出来ないのなら、止めとけ、と思うわけです。
それ踏まえて、自分はあえてそれをやりたいと思ってる書き手なわけなんで、ご大層な理想を掲げちゃいるけど、実力は追いついてきてんのかなぁ、という不安ですわね、それはあるよ、ということです。
読者に目論見が伝わるのか、てのもあるし。トリックに関わる部分を簡潔に書いてあるのが上等な部類、という価値観でくる読者のその価値観を、ひっくり返そうってんだから…ご大層な野心ですわ。(苦笑
トリックに関わる部分が中核にあり、その周囲に人間がある、本来の文学とは逆の構造をしていながら、書いている中身のコアは同じってのがね、「人間を書く」ということの手法の違いにすぎないってのが、最近到達した結論というか。
ホームズとワトソンのバディ関係で「人間を描く」てのは定着してきたけど、他にもまだまだあるだろ、てのは。犯人にスポット当てて、その犯人に肉薄する探偵役を通して、犯人の「人間を描く」だってアリでしょう?
それでも、推理モノは推理のトリックを評価されがちだという世間の噂です。
ヒロインの容姿を三行ほどしたとしましょう、魅力的なその見た目の描写を三行ね。ヘタな例ですが、アーモンド型の瞳がどうこうで猫のようにしなやかで、とかの文章を三行ほどね。十行二十行でもいいけど。
だけどこれは、トリックの解法には何にも関係がない三行ですよね。それが重なってくれば、読者の心の片隅にある「邪魔だ」という感想は膨れ上がっていくわけです。そのギリギリを攻めるのも手ではあるけど、スマートじゃない。
もっと直接に、事件と関連させてガッツリ描写することだって出来るんだから、というわけです。そういうのを、「技術」と言ってきたんですが、出来てても気付かれない類いの技術なんで、まぁ、仕方ないですわな。(苦笑
まったく同じ構図になってんのが、奇しくも「テンプレ異世界モノ」と呼ばれる界隈です。侮るなかれ、てのはそういう点ですね。従来とは真逆ながら、核心は同じ。そこを読み違えると、「なんで???」となるんで。
書いているものは「人間」なのだという点はどれも変わりないんです。
そこを留意して読んでみれば、読みやすいってのが実は大したことではないってことにも気付くわけです。大事なのは、「心に刺さるものがあるか」です。
「なんであんな作品が」てのはよく聞く文句ですが、これだって、その作品の序盤ではなく中盤とかに出てくる要素だったり、もっとヘタすれば、二次作品的な借り物の魅力で成り立つ作品であるかも知れないわけです。元ネタを知らないからファンと同じに楽しめないってのはアルアルです。
二次作品と一次作品。これもねぇ…(読者にも器用な読者と不器用な読者あり)
「心に刺さるモノ」と言って、ドの付くシリアスだとか重苦しいとか哀しいなんて、真面目なストーリーでなければならないってこともないからねぇ。のほほん、ほんわかでも、やれるだろうけどハードル高いってだけで。
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