記号化は一番カンタンで誰でも書ける

 着ぐるみショーという比喩をよく使うわけですね、私。身振り手振りが大袈裟で、感情が大袈裟で、喜怒哀楽が大袈裟で、なんとゆーか、漫画チック。


 いや、漫画チックというのは、漫画に失礼なわけです。なにせ、漫画は「デフォルメ」された省略形の絵柄を使って、非常に削ぎ落とされた表現範囲の限定縛りを受けた中で、それを最大限にまで活用するために、着ぐるみショー的大袈裟を使うわけなんで。


 着ぐるみショーというのがそも、無表情な顔、細かな演技を不可能にするボディという制約を付けられた中で、いかにパフォーマンスで視聴者に伝達させるか、というところから始まった、立派な技法ですわな。バカにするなかれ。


 で、この着ぐるみショーと同じ制約を持つのが、漫画なわけです。あるいはイラストレーションとかも入るし、Web小説に現われたものもそう。描写をちまちまやったら読まれない、スキマ時間での読書に併せてどんどん文体が簡素化していった流れはもはや説明もいらんですわ。

 そういった背景で、この着ぐるみショー的技法が取り入れられたのは、いっそ必然だったでしょう。くどくどと書かなくても伝達されるように、デフォルメが加えられ、身振り手振りが大袈裟になった。感情の動きがかなり簡略形になった、文学に見るような機微というところを棄てて、最大公約数的な伝達を取ったことから、記号化といわれるほどバリエーションが犠牲になったわけですから。


 これ、現在はまた反動というか揺り戻しで、バリエーションを求める方向に行ってますわな。それは、かつてはリーダビリティで効率良く読み込める簡素な文章であるほど良いといって、あきらか描写がスカスカでもウケていた時代が終わったことで、潮流が変わったと解かるわけですよ。

 現在、Webの人気作には昔のような、文章スッカスカなのに大人気って作品を探すのは難しいんで解かるわけです。2~3行も読めばその程度は解かるじゃん、て。


 アニメとかで、髪の毛の色をピンクとかにするの、あれの意味です。あれが着ぐるみショー的パフォーマンスです。表現の幅に元から制限が掛かっているために、ああなっていくわけです。ナマの人間の顔のバリエーション、アニメがデフォルメきつくなるに従って、このバリエーションが削られるのですよね。その対策です。


 数少ないバリエーションしかないという制約の中での表現手法として確立したわけなので、これを使って記号を記号として書くなんてのは、小学生にでも出来る。漫画家やイラストレーターが四苦八苦するのは、これで記号を超えようとするからです。


 着ぐるみショー的、このパフォーマンス技法には、成立の背景から必然として、簡略化によってそもそもの記号化を越えねば成功とは言えない、という点がついて回るわけです。


 私は、小説は計算であり、技法であり、職人世界であり、パフォーマーだと思っています。一行のこらず意味があり、一行の無駄もない、それが至高だと信じる。


 ラノベやWeb小説の書き方は、この着ぐるみショー的技法です。簡素にして、描写を極力抑えてリーダビリティを上げ、なおかつ、スキマ時間にも対応させようと言う機能性重視の文体。展開ごとの文章量はギリギリまで抑え、その代わりにイベント数を増やしているから、Web小説の連載は非常に長い。

 いちいち大袈裟に動作を示して伝えるのだから、機微の方はひとつブロックという感じにイベント数でこなされる。読者の補完に委ねられもする。講座でも書いたけど、従来の小説の描写手法とは逆だ、ということですわ。


 読者が補完する部分までコントロールし、先回りで制御していければ、この手法をマスター出来たと言えるわけですわ。それはまた、文豪がよく使う手法にも通じていく。この形式文章の完成形はすなわち、文豪文体です。


 まず、描写を尽くして読者にイメージを伝達出来るようになったら、次にはどんどん描写を削っていく。形容詞、装飾語、助詞、そんなレベルで文章が確たる設計の元に構築されていれば、非常にシンプルな文体にまで削ってしまえる。一文の強固さが並外れている、それは文豪の文章を批評した書籍を読めば理解するのは簡単だよ。




 …………そんなトコまで到達出来るのは、本当に才能ある一握りだけどね。ふつうは、装飾語や助詞のレベルでの読みにはとても耐えない文章だよね。そんなトコまで計算を行き渡らせて書いてなどいないもの。(巨大ブーメランが!)

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