愛と正義をふりかざす押し付けがましい自己中心主義者

 信頼している著者先生の名を古本屋で見かけて即購入。『妬まずにはいられない症候群』この加藤諦三先生は、私が名前を覚えている数少ない著述家のお一人です。


 人間の三大悪感情の一つとすら言われる「妬み」についての本です。これ、ものすごくタイムリーな出会いで、今書いている公募作品のヒロインにぴたりと当て嵌まりました。たぶん、読者は読んだだけではヒロインの玲奈が嫉妬に苦しめられているとは気付かないでしょう。作者の私が気付いてませんでしたから。


 可愛そうなヒロインの類型の一つに分類出来るはずです。嫌な女じゃない。


 明確に、何が原因でどういう心の経緯があって結果的にこうなったか、という辺りのところがこの本を読むことですっきりと整理が付いた感じです。

 玲奈の役どころは、事件を持ち込む依頼人であり、高校生時分に探偵役の恭介と付き合っていた昔の彼女でもあります。

 複雑な家庭環境に生まれ、寂しさの埋め合わせに恭介と付き合ったものの、理想と違うと身勝手に別れてしまったという事を悔いています。その辺りの心理の補強にすごく役に立ってくれました、この本。(だからテーマ曲が竹内マリア)


 もう一人、重要なサブキャラの一人に女性が登場しますが、こっちもこの本で説明がつく感じでした。神経症的復讐者、と本の中に紹介されているタイプの女です。


 よく見る嫌な女のそのまんまで書いたんだけど、見事に当て嵌まってました。この本に登場する「妬み」の心理は、ほとんどの人が身近で見た覚えがあると思いますね。

 人生のうちに受けてきた衝撃が人それぞれ大なり小なりありますが、そういう過去の傷を乗り越えられない人が自己防衛的に取る態度、というものがキーワードです。


 例えば、自分に自信が無い、自己肯定感の低い人とかは、複雑な心理を抱くそうです。成功への異常な執着、それでいて表面的には謙虚に見せたり、虚栄的だったり。

 しかもその人にとっての成功とは「周囲の賞賛」でしかなく、成功の中身は見ていないのだそう。好きな事をして成功したいのではなく、賞賛されたくて成功したい。

 その人にとって大事なのは、周囲の人すべてがその人を受け入れ必要としてくれる事であり、自分が世界の中心にある事なのだそうです。セカイ系みたいスね。


 自己肯定感の低い人は、愛に餓えていて、自己実現欲求よりも自己承認欲求の方が恐ろしく高いのだそうで。これの悪いのは、承認されたい対象がとにかく「周囲すべて」なのが問題だそうです。

 なぜ全ての人に注目されたいかというと、注目してくれない人の存在が本当の自分を思い出させ、嫌でも自己と向き合わねばならないから、だそう。過去の傷を治療することから逃げているから、ですね。そらカサブタ剥がすのは痛いわな。


 表面的にはどうあれ、深いところでは周囲のすべての人が自分を賞賛し必要としてくれる事を望むので、自分を追い越していく存在が許せないわけです。その人にとっては、「承認される」ことが、「その人の全て」になっているそう。


 そこに発生する感情が「妬み」だというわけです。


 なので、自分より優れた人を素直に認めない。隠そうとする。嫌がらせをして足を引っ張る。頭角を表わそうとしている後発の人を妬むわけです。それは、自分が受けるべき賞賛をその人が奪っていってしまうと考えるから。

 妬む人にとっては、ちやほやされる人間は自分ひとりでないと許せないのだそうで、だから周囲に見える優れた人はすべて妬ましい、邪魔だ、となるそう。ここら辺の理屈がまだ充分に理解できてないんでアレですが。

 妬む人にとってもっとも許し難いタイプというのがあり、それは、周囲の評価に振り回されずに自分の人生を謳歌している人だそうです。その人は妬む人をそんなに重要視して見ないわけなので、絶対に中心になれない、だから憎む、と。

 この人が自分とは畑違いの人なら素直に賞賛するけども、同じ畑だと妬む。これがまた、成功を手にした妬む人ほど激しくなる。金持ち妬まずなんて嘘ですよ。精神のあり方の問題なので。寄付とかチャリティとかも見方が変わりましたわ。


 セカイ系が自分と相手の二人だけの世界になり、第三者が居ない事の説明にもなりそうです。邪魔者が排除された理想郷なのでしょうか。


 妬む人はまた、正義や愛情など、耳に心地よい正論の皮を被って、誰かを己の復讐心を満たすための犠牲にしようともするそうです。

 これがまた、読んでいると、多くの該当者が「自分は当て嵌まってない」とか思ってしまいそうなのが怖いとこです。とても多くの人が当て嵌まるだろうに、なんでだろう、自分は除外で考えてしまいそうな書き方。論説文だからかな。

 うっかりすると、自分はぜんぜん当て嵌まらないよなとか思ってしまうのが怖いです、いやいや思い切り掠ってんじゃん、とか思い返したりして。


 引用。

「ナルシシストは自己価値観が不確かで、相手を独立した個人とは認められず、単に『自己愛的な対象』として、自身の自己を拡充するものとして、何か自分自身を満たし、補足し、装飾し、高めるものとしてしか相手を認知できない。」


 つまり、妬む人は、自分を褒めそやしてくれる自動賞賛機械のような人を求めているという事が書かれていました。記号的キャラとかも関連しそうですね。


 面白い本だけど、もう一度くらい読み返さないとまだ理解が追いつきません。(笑


 エッセイ読み返すと、本にある意味とは真逆に纏まってしまったよーで悔しい。妬む人のイメージでフェイトの金ぴかが浮かんだかも知れないけど、アレは完全に外れますから! ワカメの方です、ワカメ! フェイトゼロの人物ほとんど嵌まるけど。

 金ぴかさんは「攻撃的な人」の典型。

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