第4話 優羽の親友、綾瀬夕子が来ますよー!

翔吾の高校は、公立高校ではちょっと変わった授業のコマ割があり、副教科の授業は普通に数時間あるが、それとは別に2時間連続で選択科目がある。

3クラス単位でバラバラに別れて、美術、音楽、水泳、道徳・奉仕、第二体育などが取得可能だ。美術、音楽は芸術ということで教科が別途あるので、被せて取得することになる。体育なども同様だ。そして通常授業よりももう少し踏み込んだ専門的な授業を行う。

この制度がかなりの人気で、若干遠い場所に住んでいてもこの学校を選択する生徒も多い。翔吾もこの制度の存在でこの学校の近くに引っ越して受験したのであった。

そして、翔吾は当然、美術を選択していた。

翔吾のクラスから美術を選択しているのは翔吾と夕子だけであった。今日はその選択授業の初日であった。そして、先生からの課題が与えられる。

「えっと、今日はまあ初日ということで、初日恒例の課題が他画像だ。たぶん、みんなまだ絵の具とかも無いと思うので鉛筆だけで描いてくれ。

あと、ふたりペアになって描いてくれ!

時間あるようだったら2枚描いても良いぞ!

まあ、初日なんでうるさくならない程度に楽しくやってくれたらよいよ。」

先生の言葉の後、男女だったり同性だったりどんどんとペアができていく。まあ、おな中で来ているメンバーがほとんどだからだ。

翔吾は完全によそ者でこの学校ではボッチだ。当然、現在は気軽ににペアになってくれる友達はいない。

なので同じクラスということと、たぶん優羽と付き合っていることは知っていてちょっとは抵抗少ないんではないかということで、勇気を振り絞って夕子にペアになってもらおうとした。ちなみに、この時期はまだ翔吾と夕子は一度も会話したことがなかった。

「綾瀬さん!

良かったら同じクラスのよしみでペアになってくれないかな?」

「はい。

こちらこそ。

お願いします。」

夕子は笑顔で快く答えてくれた。翔吾はとりあえずホッとした。

夕子のしゃべり方だがとてもゆっくりしている。ところどころ助詞を飛ばしてしゃべることもある。これがまたとても可愛い。

「マジで?

ありがとう。助かるわ!

オレ、この学校でまだ友達とかほとんどいなくて。」

夕子の紹介は以前にも少しあったが、身長は150センチも無いと思う。とても小柄で、顔もとても小さい。目がちょっとたれ目な感じで表情がとても優しい。見ていてこっちもほわーんと癒される感じだ。

そして、何と言っても漆黒という言葉がホントにしっくりくるほどの黒髪で、何の癖もない度が付くほどのストレートである。何も縛らない場合はお尻まである。

手入れがとても大変そうであるが、とても良く手入れが行き届いているおかげでものすごく綺麗である。

実は、夕子は登校する際には単に後ろで縛っているだけだが、学校に来てから毎朝優羽がスタイリングしているのであった。

と言っても、学校なのでそこまで本格的なことは出来ない。しかし、髪形を優羽が決めてセットするのであった。その光景を見るのがこのクラスの日課になりつつある。

ちなみに、今日の夕子の髪形はシンプルにポニーテールである。さらに翔吾は、よくよく考えたら美術の授業で女子とペアで女の子を描くなんて、これはこれですごいリア充イベントではないか?

とか思っていたが、口にすると変態カテゴリに入れられそうなので黙っていた。

「今日の髪形はポニーテールなんだね。」

「うん。

いつも、優羽に、

やってもらってる。

助かってる。」

「うんうん。とっても似合ってると思うよ。桝谷さんも凄いよね。髪をどんな形にもササッとセットしちゃうんだから。

じゃあ早速描き始めるね。」

「ありがとう。

私も始める。」

言葉だけでは良く分からないが、とても良い笑顔で答えてくれた。もしかしたら、セクハラ的に捉えられるかと思ったけど嫌な感じでは無いと思えた。

二人は絵を描き始めたがしばらくして夕子の方からしゃべりかけてきた。お互いを描きながらおしゃべりを始める。

「高橋君。

ちょっと、聞きたいことある。」

「ん? なに?」

「優羽とは、

付き合ってる?

本当なの?」

「おおぉ、いきなり直球だな。

うんまあね。実質はまだ友達以上、恋人未満ってところだけどね。そういや綾瀬さんは桝谷さんとすごく仲が良いんだよね?」

「うん。

親友。

だから、

優羽のこと、

良く知ってる。

とても素直で良い子。

だけど、行き過ぎると衝突する。

あと、意外に人見知りする。」

「へえ。人見知りってのは意外だな?

最初からかなりガツガツとしゃべってるけどね?

でも、猪突猛進なところがあるよね?

それは良くわかる。ハハハ。」

「だから、不思議!

最近の優羽、

ホントに楽しそう。

高橋君の話題、

たくさん出てくる。

どんな魔法使ったの?」

「魔法って!?

別に何かをしたわけじゃないけどね?

まあ、話すきっかけになったのはトキあるGのカードのおかげだけどね。

それで、お互いにオタク系であることをカミングアウトして今に至るってだけだよ。もしかしたら、今後めっちゃケンカするかもよ?」

「ああ!

トキあるG。

それ、わたしも聞いた。

中学の時、優羽モテてたけど、

同じ趣味の人はいなかった。

同じ趣味の人、

はじめてかもしんない。

しかも、

高橋君、人当たり良さそう!」

「人当たりって、それはどうかなあ?

ってか、最初から嫌われるような行動は取らないと思うけどな。オレもそれだけなんだけどね。」

「わたし、優羽のこととても好き。

高橋君の仲に妬いちゃうくらい。

あと、優羽、

今は本当に楽しそうにしてる。

中学はかなり辛かったと思う。

なので、

ひどいことはしないで欲しい。」

「おお、雑談してても良いとはいえ授業中にこんな話をしてくるなんて、よっぽど桝谷さんのことが大事なんだね。

でもまあそれは任せといて!

オレもちょっとだけ桝谷さんが中学で大変だったのは聞いてる。

まあ、たぶんだけど、たくさん問題は出てくると思うけどね。でもでもちゃんと乗り越えていこうと思ってるよ。」

「ありがとう!

優羽のこと、

よろしくね!

あと、

ついでにわたしも。」

そう言って、夕子はにっこりと笑った。その笑顔はとても優しかった。翔吾も笑顔で返した。

そしてまた、しばらく作業をしていたが今度は翔吾が声を掛ける。

「綾瀬さん。ちょっと悪いんだけど一回横向いて貰えない?

せっかくポニーテールになってるからそれも描きたいな。実は、もう一枚目終わっちゃって二枚目突入します!」

「!?

もう、描いたの?

すごく早いね!

うん。

わかった。

ちょっと待って。」

夕子はそう言って作業中だった手を止めて横を向く。

「これで、

いい?」

「うんうん。ありがとう。

もうちょっと下向いて貰った方が良いかな?」

意外に細かい注文を付けてくる翔吾であったが夕子は言われるままに対応した。

「ああ、そこそこ!

とてもいい感じ!

ちょっとだけそのままで!」

そして、ラフな感じで輪郭だけを描く。

「もう、大丈夫!

ありがとう!」

ここでチャイムが鳴る。とりあえず、2コマ目が始まるまで十分間の休憩時間が入る。引き続き翔吾と夕子はおしゃべりをする。

「でも、あれだな。こうやって女性を描くなんて、しかも目の前にモデルになって貰ってなんて、ほんと貴重な体験してるな!

これって間違いなくリア充イベントだわ!

勇気振り絞って綾瀬さんに声掛けて良かったな!」

「えっと。

モデル、私で、

ごめんなさい。」

夕子はちょっと赤らめて恐縮する。

「あ、ごめん。なんか変なこと言っちゃったかな?

気に障ったらごめんなさい。」

「違うよ!

モデル。

優羽のほうがいいと思って。

優羽美人だし。」

「いやいや、なに言ってんの!

確かに桝谷さんは美人系でモデルとしては映えると思うけど、綾瀬さんも可愛い系だと思うし綺麗な髪がとても印象に残るよって、綺麗な髪を描くって思ったよりも難しいけど描き甲斐があるよ!

オレって実は絵の勉強をしたいなって思っていて、選択授業が充実してるこの学校を選んだくらいだしね。」

「え!?

高橋君も?

私もだよ!

将来、

マンガ描きたい。

でも、今、

ぜんぜんダメで……。

この学校、

公立だけど、

芸術系、体育系、設備充実してる。

家から遠いけど、

この学校にした。」

「マジで!?

オレもイラストとかマンガとか描きたいと思ってるんだよね!

あと、ついでに聞いちゃうけど綾瀬さんも結構オタク系だったりする?

桝谷さんはかなりガチだったけど。」

「うん。むしろ、

優羽より幅広い。

私の場合、

見てるだけより、

自分で描きたくなってきた系?」

「あ、それわかるわ!

まあオレ、オタ歴はまだ浅いんだけどね。中学二年からだからまだ二年くらいだね。

でも、ハマった瞬間から自分もなんか描きたい衝動に駆られていろいろとやり始めてる!

ちなみに今ってどんな感じで描いてる?

ちょっと見せてよ!」

「ダメ!

まだ途中……。」

「ええ?

それでも良いから見せてよ!

あ、じゃあ、オレの一枚目を先に見せるからその後見せてくれる?」

そう言って夕子の返事を聞かずにさっさと一枚目を見せる。正面からの絵を描いている。夕子の特徴を捉えたとても良い出来になっている。

「すっ、凄く上手い!

でも、高橋君……。」

「え?

綾瀬さんのも見せてくれる?」

「違う!

えっと、わたし、

こんなに可愛くない。

盛りすぎ!」

夕子は翔吾のウマ過ぎ可愛すぎの絵を見て顔を赤らめた。

「え? そうかな?

オレ的には控えめなんだけどな?

それよりも二枚目を頑張ってるんだけどな!

ってか、オレのはもういいから綾瀬さんの見せてよ!」

夕子は嫌がってはいたが観念して翔吾に描きかけの絵を見せた。確かにまだまだ途中だがうまく掛けている。流石に自分でも描いていると言っていただけある。

「へえ、すごくいい感じで描けてるね!

しかも、オレもかなり増し増しだな。3割増しどころか3倍増しでイケメンになってるし。人のこと言えんよ?」

翔吾はそう言って笑った。

「そ、そんなことない!」

ちょっと怒った顔をする夕子。でもその後、すぐに笑顔になっていっしょに笑っていた。そして、二コマ目の授業が始まる。

翔吾は二枚目が終了する。夕子も一枚目を描き上げる。翔吾の二枚目は夕子の横顔で上半身が描かれていた。こちらもかなりのクオリティーであった。夕子の最大の魅力の長いポニーテールも躍動的に描かれていた。

そして、クラスのみんなは絵を一枚、ないし二枚描いていて課題が終わっていた人は他の人の邪魔にならない程度で雑談をしていた。

翔吾も二枚の課題をクリアしていたが、まだまだ描き足りないのか今度は自分のノートに三枚目を描き始める。

引き続き夕子にモデルになって貰ってイラストチックに三頭身で全身を描いていた。長いポニーテールも含めて可愛らしく描いていた。

特に夕子にはこの三頭身イラストがツボに入ったようで褒めちぎっていた。調子に乗った翔吾はノートを破って夕子にプレゼントしたのである。

コンサルティングに来る前の夕子とのちょっとしたエピソードであった。



そして、ゴールデンウィーク後、完全予約制になった部活。予約がすぐに埋まってしまうのだが、五月の中旬に夕子が本日最後のクライアントとして登場する。

「お邪魔します!」

そう言って夕子が部室に入ってきた。

「いらっしゃ……。」

翔吾が答える切る前に優羽が飛び出していった!

「夕子だ! 待ってたわよ!

もう、予約リストに夕子の名前が入ってから密かにテンション上がりまくりよ!

で、どうしたよの?

っていうかやっぱり夕子ってば今日も可愛いわね!」

そう言って、優羽は夕子に抱き着いてほうずりする。これを見た翔吾は目が点になっていた。想定外な出来事でちょっと驚かされてしまったようである。

「ど、どうしたの優羽?

おかしくなってっていうか、ダンラバカフェに行った時のテンションになってるけど?

久々に驚いたよ。」

「え? 何を言っているのよ?

夕子が来たんだから当然じゃないかしら?」

優羽は夕子に抱き着いたまま、さも何事もない日常のように語る。何がおかしいのかと言わんばかりである。

そして、夕子が話し出す。

「えっと、ふたりの時、

こんなテンションなることある。

でも、

わたしもだけど、

とても驚いた。」

夕子の驚きに残りのふたりも注目する。

「まさか人前で、

テンション高い優羽、

初めて見た!

これって、

高橋君って、

もう家族同然?

いや、家族以上?

もうここまで、

心開いてる?

どうなの?」

夕子の説明でハッとなる優羽。急に恥ずかしくなる。抱き着いていた腕をそっと外し、そして、夕子をちょっといい感じのソファーに案内する。

ちなみにだが顔が真っ赤である。

「べっ、別にいいじゃないのよ!

もう、早くコンサルティング始めなよ!」

最後に捨て台詞を吐く。

「そっか。

このテンションの優羽、

もう、わたしだけじゃない……。

ちょっと寂しい、

けど、

それ以上

嬉しい!」

そう言って夕子は優羽に笑顔を向ける。反対に優羽はさらに顔を赤らめる。

「え? なんか、事情がよく掴めないけど、もしかしてオレ、かなり素晴らしいことになってるってこと?

喜んじゃっていい感じなの?」

翔吾の問いに夕子は頷いた。そして、さらに優羽は赤くなりながら叫ぶ。

「もう、私のことはいいでしょう!

夕子ってたまにドSになるよね!

早くコンサルやりなよ!

時間無くなるわよ!」

「ハハハ。じゃあ始めるか?

で、今日の要件は?」

優羽いじりは終了にして翔吾は夕子に問いかける。

「えっと、

絵を教えて欲しい。

最初の美術の授業。

凄かった。

特にイラスト可愛かった!

あれは、絶対、

わたしじゃない!

でもやっぱり、

イラスト、可愛かった。」

「え?

って、なんかダジャレになっちゃったけどなんで?

美術の授業だとちゃんと描けてると思うけど?」

「実はわたし、

顔しか描けない……。」

「えええ? そういうことだったの?

……、なるほど。」

「どうしたら、

あんな風に描ける?」

「ちなみに、今はどんな練習してる?」

「えっと、

どうやったらいいか、

それも、

わからい……。」

「なるほど。そこからか……。

でもさ、美術の初日、オレの顔はすごく描けてたけど逆にあれってどうして?」

「普段、キャラが好きすぎて、

ずっとキャラの顔、

ひたすら描いてる。

なんとなく、

その雰囲気……。」

「えええ? ちょっと待って。

アニメキャラじゃないもの描くのって、あの美術の授業が初めてってこと?

初めてであれだけ描けるの?

逆にそれがすごいわ!

今も授業でいろいろと描いてるけど実際のところ初めてってこと?

実はすごい素質あるんじゃない?」

「確かに、美術の授業、

あれ、ぶっつけ。

でも、普段は、

キャラいっぱい描いてる、

だから、

なんとなく描けた。

今は、

コツみたいなの、

授業の最初、

教えてくれる。

だからちゃんと描ける。」

「いやいやいや。今日は二回も驚いたよ。本当の才能っていうものを見たわ。空間認識能力とその表現力がえげつないほど高いんだな。

じゃあ、コンサルティングを始めようかって言いたいところなんだけど、絵に関していうとオレが教えてあげられることなんて何も無いよ。

俺なんか自分で描こうと思って、いざ紙と鉛筆を持ったときってなにもできなかったもん。

で、まずはいろいろと本を買った。それに従っていっただけだよ?

でもあれだよ。

一応美術の授業でもあったけど、絵を描くにあたって基本的なコツみたいなのはあるからね。そういう技術的なところはネットで調べてもある程度わかるし本とかにも載ってることだよ。

オレからアドバイスできるって言ったら、そういうのをまずやるってことかな?

でもそれ以降、例えばどんなポーズをとるとか、どんな衣装でとか、キャラ同士の絡み方とかそういう見せ方。まあ、魅せ方って言ってもいいかもしんないけどそういうのはセンスだよね。

でも、綾瀬さんはそっちのセンスとかは間違いなくオレよりも良いもの持ってると思うよ。それにオタク歴もずっと長そうだし実際にいろんなマンガやアニメを見てきてるだろうしね。」

「なるほど。

わかった。

わたしもまず、

基本的なこと、

やっていく。

良かったら、

高橋君が勉強したこと、

教えて欲しい。

なんか、

高橋君、頑張ってきたスキル、

努力せずパクるみたいで、

厚かましいかもだけど……。

嫌だったら、

自分で調べる。」

「そんなことか!

確かにそんな言われ方したら教えるのが勿体ないのかもしれないけど、でも、綾瀬さんだったらぜんぜんOKだよ!

同じジャンルの絵描き仲間が増えるのはオレとしてもウェルカムだよ。惜しみなく教える。これから、少なくとも高校生の間はいっしょにやっていこうよ!

ひとりでやってると結構挫けちゃうことあるからさ!」

「うんうん。

わたしも、

一緒の仲間、

増えるのとても嬉しい!

高橋君だったら、

もっと心強い!

描いた絵、イラスト、

見せ合いして、

意見欲しい!」

「あ、でも一個問題があるな。本とか人形とか買ってるんだけど、これがまた結構カネ掛かるんだよな。

まあ、オレはおカネの心配はあまり無いのでジャブジャブ使っちゃってるけど、普通の高校生だったらまず難しい金額だよ。」

「……。

マンガ買ってるし、

あんまりお金ない……、

かも……。

でも、ちょっとはある!

貯金!

お年玉は貯めてる!」

「なるほど。まあ、本とかは見なくなったものから順番に貸してあげるよ。でも、人形なんかは絶対に自宅にあったほうが良いからね。個人で絶対に持っといた方が良いものと、そうでないものを分けてみるわ。

その上でどこに投資するか一緒に決めていこうか?」

「うん。

ありがとう!

とっても嬉しい。

えっと、最後、

もう一つお願いある。」

そう言って夕子はもじもじし始めた。翔吾は最近の学習でこういう時は罰ゲーム的展開になることが多いので嫌な予感がよぎる。

「師匠って、

呼んでいいですか?」

「うわぁ。またこういう系の展開かよ!

師匠って、絵だったら間違いなく三ヵ月したら抜かれるよ?

そうなったら師匠でもなんでもないし……。」

「違う!

絵もだけど、、

それだけじゃない!

同級生なのに、

人生経験ぜんぜん違う。

もう私、

すべての師匠。

尊敬しました。」

そう言って夕子は座ったままだがお辞儀をした。

「ちょっと待って! オレのこと盛りすぎだし!

ぜんぜんそんなんじゃないからさ!

ってか、あれだ!

なんかもう友達だと思うし絵描きの同士になるわけだし、お互いに名前のほうで呼び合おうよ?

オレのことは翔吾って呼んでよ。オレも綾瀬さんのこと夕子って呼ぶからさ!

それでいいでしょ?」

「わかりました。

夕子って呼ばれるの、

とっても嬉しい!

実はこの後、

言おうと思ってた。

これから、

よろしくお願いします!

翔吾師匠!」

「翔吾師匠って、師匠辞める気まったく無いでしょう?」

翔吾はやれやれという表情で答える。この後夕子はずっと翔吾師匠と呼ぶことになるのであった。

ここにきてようやく優羽が話に割ってくる。

「ちょっと、なんかいい雰囲気になっているんだけど、もしかして夕子も翔吾のことを……、ってそれは流石に無いかしらね?

夕子ってばめっちゃ面食いだしね。翔吾は残念ながらイケメンではないからね。」

と、しゃべる優羽だがここで翔吾がさらに話に割って入る。

「えっとですね、実はもう下校時間過ぎてるからとりあえず帰りの準備して!

学校側もこの辺うるさくってね。」

そして、三人は帰り支度をして自転車置き場に向かう。そして自転車で3人が一緒になったところで優羽が提案する。

「ねえ、この後ちょっとだけバーガークイーン行かないかしら?

さっきは翔吾と夕子ばっかりしゃべってて私しゃべり足りないわよ。

って、部活で私がしゃべることはないのだけどね。ハハハ。」

「まあ、オレはいいけど?」

翔吾は答える。しかし、夕子は、

「私、

もうすぐ、

門限。」

「あ、そうだったわ。そういえばこの時期だと六時に帰らないといけないんだっけ?

もう、いくら何でも早すぎよね?

それなら私から連絡しておくわよ。私が一緒ならあと一時間くらいは大丈夫でしょ?

これでも私、夕子のお母さんからは絶大な信頼を得ているからね。」

そして優羽は電話を始める。

「はい。そういうことなので私が家まで送ります。よろしくお願いします。」

といった感じで優羽は電話を切る。

「ということで、七時までなら良いって言っていたわ!

早速行きましょうか。」

優羽はニコニコで答える。

「ありがとう。

優羽!」

そう言って三人はバーガークイーンへ向かう。そこでまず翔吾が質問をする。

「優羽はポテトも頼むでしょ?」

「そうね。

確かにお腹減ってきたわね。」

「じゃあオレもそうしようかな。ポテトとコーラで!

お金はあとで払うよ。先に席取っとくから荷物貸して!」

そう言って翔吾は優羽と夕子の荷物を持って二階に上がっていった。

他校の学生も含めて高校生で賑わっていた。そして、翔吾も4人席を確保する。その後、優羽たちがやってくるがどうもポテトが一つしかないような気がした。

「あれ? ポテトは?

一個しかないけど?」

「あ、いや、そのね。

夕子に太るよって言われちゃってね。エヘヘ。」

「なっ!

『エヘヘ』って、ここにきてなんという裏切り!

まあいいや。はい。お金!」

翔吾はそう言ってお金を渡し、むしゃむしゃとポテトを貪り始める。

そして、夕子と優羽は翔吾の反対の席に座ろうとした。すると夕子が突っ込みを入れた。

「優羽!

なんでこっち?

翔吾師匠の横。」

夕子に言われるままに優羽は翔吾の横に座りなおす。若干、恥ずかしそうにもじもじしていた。

そんな優羽を見て夕子はニコニコ(たぶんニヤニヤなんだろう)していた。

「ところで翔吾。ほんとにおいしそうに食べてるわよね。ポテト。

自分だけズルくないかしら?。」

優羽は普通に真顔で翔吾に言う。

「なっ!!!

優羽が勝手に頼んでなくて、いや、むしろ裏切っておいてさらにオレのせいなの?

酷すぎるし横暴だ!

これが孔明の罠ってやつか?

ねえ! そうなのか?」

「優羽。

確かに……、

酷い。」

夕子もそう言って、そして笑い出す。

「アハハハハハハ!

ヤバいわね!

今のやりとり、私相当酷い人よね?

自分で言っておいてホント思ったわ!

ハハハハ!」

そして三人で大爆笑していた。そんな中、翔吾が笑いながら言う。

「あーあ。ほんと笑ったわ。こんなに笑ったのホントに久々だわ。

どんだけポテト欲しいねんってことやね。じゃあ残りのポテト食べていいよ!」

「翔吾師匠、

ポテト分けて、

ホントはやさしい。

でも、

今の対応、

あきらかにペットに

エサをあげてるだけ。

さらにツボ!」

夕子もクスクスと可愛らしく笑っている。

「ハハハ。

あ~あ、まだおかしいわ。

ホントは部活の続きをしたかったのに!」

三人は一呼吸ついてちゃんと話ができるように整える。そして、優羽がしゃべりだす。

「夕子って、絵のことこんなに真剣だったのね?

まずそこだわ。全然知らなかったわよ。」

「うん。

まあ、今は下手。

誰も言ってない。

今日、

初めて口にした。

今日、

相談して良かった。

本当に。

翔吾師匠、協力してくれる。

とても心強い!」

その言葉に今度は翔吾がしゃべる。

「協力はいくらでもするよ。さっきも言ったけど、同じジャンルの絵描きさんがいるってのは心強い!

あとね、予想では絶対に夕子のほうが凄い絵を描くことになりそうなんだよな。悔しいと思うけど才能とかにはやっぱり勝てないよな。でもでも、一人の読者としては楽しみでもある。」

この翔吾の言葉に夕子は目をキラキラさせている。

「あ、でもあれだ! 出来たらオレもちょっとお願いがあるかな?

せっかく髪が綺麗で長い夕子と、そしてそれを綺麗で上手くスタイリングできる優羽がいる。これはもう髪形のモデルになって貰うしか無いと思うんだよね。

ダメかな?」

翔吾のお願いに対して夕子はかなり顔を赤らめている。

まずは優羽から答えた。

「まあ、私は良いわよ?

髪の毛いじるだけだしね。しかも夕子の髪だしね。」

優羽はそう言ってなにやらニヤニヤし始めた。

「ううう。

正直、

とても恥ずかしい……。

でも、

翔吾師匠のお願い。

だから、

出来る範囲で頑張る。」

「おお? マジっすか?

それはとってもうれしいし助かるわぁ!

頑張ってちゃんと描くからね!」

夕子の返事に喜ぶ翔吾であった。

「優羽!」

夕子は急に優羽を呼ぶ。

「はい!」

突然だったが、呼ばれた優羽は返事する。

「翔吾師匠と別れるのダメ!

絶対!

物凄いスペックの人。

もう、優羽の人生で出会えない!

別れたら、ガチおこ!

ってか、絶交!」

「え?

急にどうしたの?

ちょっと恥ずかしい話じゃないのよ。」

「もう、わかってるの?

翔吾師匠、

将来、間違いなく、

ちょー凄い人なる。

ぐずぐずすると、

わたし、取っちゃうから!」

「だ、ダメよ!

夕子相手だと私、負けちゃうから!

それにしても凄いわね。面食いの夕子が翔吾にここまで興味持つなんて。」

「確かに、翔吾師匠、

イケメンではない。

でも、

すごくかわいい!

絵の協力してくれる。

さらに、

もう一回言うけど、

凄いスペックの人。

こんな人、

なかなかいない。

私も初めて会う。

別に、

好きになっても不思議じゃない。

ぜんぜん!」

「まあ、そりゃあ、そうなんだけどさ。」

夕子は今度、翔吾に向かって言う。

「翔吾師匠!

これ、前も言った、

優羽、

見ての通り、凄い美人!

スタイルも良い!

まあ、性格に難、

ちょっとある。

でもでも、

とても良い子。

私が大好きな人。

よろしくお願いします!」

夕子の言葉に翔吾がしゃべろうとしたが優羽が先にしゃべりだす。

「夕子、どうしちゃったのよ?

こんなしゃべるキャラじゃないわよね?

なんか、今日はテンションが変よ?

それになんだか、お父さんみたいになっているわよ?

まあ、私は可愛い夕子の声がたくさん聴けてうれしいけれどね。」

「もう。

今だから言う。

中学の時、

本当に心配してた。

女子に嫌われたとき。」

「まあ、確かに中学のあれは自分でも酷いなあ。って思ったかしらね?

でも、夕子がいてくれたし、あとはなんて言うか興味ない外野での出来事だったから。なんて言うか、そんな言うほど気にはしてなかったのだけれどね。」

「もう!

そうかもだけど!

でも、私はすごく心配!

それで、

高校はどうかな?

思ってた。

そしたら、

いきなりだよ!

彼氏できたとかいう。

びっくりした。

ホントにもう!

あと、

若干、嫉妬もした。

私の優羽に!

でも、美術の授業、

はじめて翔吾師匠としゃべった、

けど、

すごく良い人!

好感度高い!

この人なら、

優羽任せられる。

翔吾師匠!

私と、優羽。

出会ってくれてありがとう!」

そして、夕子は優しくにっこりと笑う。

優羽は夕子のところに駆け寄ってそして抱き着く!

「夕子!

ほんとありがとね!

もう、ホントに大好きだわ!」

優羽はちょっと涙腺が緩んでいた。

そして、ここで満を持して(?)翔吾にターンが回ってくる。

「こちらこそ!

いやー、なんだかオレらの付き合いってこれからだけど、でも始まる前からスゴいハードル上がっちゃってかなりのプレッシャーだわ。

でもな、今夕子が言ったことな、そっくりそのままお返ししてやるよ。

オレも中学まではホントに勉強と習い事の毎日だったしね。さらに父親の仕事関連のところへ連れまわされる日々。

うわべで付き合いのある人はちょいちょいいたけど、親友みたいなのはもちろんいなかったし、女子とも親戚以外はほとんどしゃべったことないしね。

そしてあれですわ。オタクになっちゃったしね。もう、リア充ライフはおろか一般的な生活に関しても諦めたさ!

そしたらいきなり入学式でトキあるGのカードを拾うわ。ラブレターまがいのメモが入ってたり入学式の二日目でなんと彼女ができたり……。

そして今日!

夕子が相談に来てくれて絵の同士が出来て、もともと優羽の親友だからオレも仲良くしたいなあと思ってたんだけどね。

今世の中で、ごくごく一部に発生しているというリア充オタクというものになることができたよ。

これも優羽と夕子がいてくれて、オタクになってくれて今ここにいる。こちらこそ、そりゃもう『ありがとう』の言葉しか出てこないよ。」

翔吾は言った後、感無量なのか目をつぶっていた。

「もう、ホントに今日はおかしな日になってしまったわね。泣いたり笑ったり感動しちゃったり。

ホントに忙しいわね。もう。」

優羽はぼそりと言った。ちなみに夕子を抱きしめたままである。

そんな中、翔吾は言う。

「あと、とても気になることが出来た。何度も話題になっている中学での優羽だけど、夕子がここまで心配してたんだから相当だったってことでしょ?

逆に興味が沸いてきたよ。」

「うん。

スゴい大変だった。

そう思う。

私じゃ、

絶対耐えられない……。」

「今日はもう時間が無いけど、今度ゆっくり聞かせてよ。」

夕子と翔吾で話を進めていると、優羽が間に入ってきた。

「ちょっと勝手に話を進めないでよ!

私のことなんだから!

大したこと無いんだから言わなくても良いわよ!

ホントにもう!

さてさて良い時間だし、今日はもう終了よ!」

翔吾はちょっとショボくれるが、今日のところはみんな店を後にするのであった。

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