第3話 ゴールデンウィーク。初デートである。

第三話 ゴールデンウィーク。初デートである。

待ち合わせは駅のホーム。学校もある翔吾の最寄り駅で特急に乗り変えないといけないので優羽もそこで合流する。

待ち合わせ時間は9時半。かなり早い。目的地はここからさらに1時間くらいかかる場所ということでこの時間に集合となった。

目的地は……、


秋葉原のメイドカフェ。しかも2店舗!


今はちょうど、『ご依頼したのはネコさんですか?』『ダンスアンドラバーズ』のコラボをしているということだ。

特に『ご依頼したのはネコさんですか?』のコラボは人気で、しかもゴールデンウィークということもあり、オープンの1時間前には並んでおいたほうがいということでこの時間の集合となった。ちなみにカフェのオープンは12時である。

ちなみに『ダンスアンドラバーズ』は腐向けの奴である。翔吾としても優羽が薦めるのとヒロインの女の子がいるので一応見ている。作画はすごくかわいいのだが、声優さんが棒でなんとも違和感が……。って、そんなこと今は良い。

そして、電車がやってきてそこに優羽もいた。電車から降りる優羽。

薄い水色のロングスカートのワンピースである。そして、腰に大きめのリボンがある。清楚さが一層際立つ。優羽にぴったりのデザインでありとても良く似合っていた。いや、似合いすぎて怖いくらいである。

「おはよう! 翔吾。」

「おっ、おはよう。」

「ちょっと、なんか歯切れが悪いわよ。ってか、そんなジロジロと見ないでよ。」

「ああ、ごめん。

そういや、私服は初めてだなって思って。」

「……、変かな?」

「違う違う! 逆だよ!

あまりにも似合いすぎてて見入ってしまってた。」

「なっ!?

べっ、別に今日のためにわざわざ夕子と一緒に服を買いに行ったとか、そんなんじゃないんだからね!」

まあ、そういうことらしい。そして、赤くなる二人。もじもじと可愛らしい。

そして、電車に乗りさらに何回か乗り継いでようやく秋葉原に到着する。

二人とも久々に来たらしい。相変わらずの独特な雰囲気に二人は心地よく酔っていた。

「よし、じゃあさっそく向かいますか?」

「そうね。もうかなり並んでいると思われるわ。」

そして、店につきエレベーターで目的の階に行くが結局は外のらせん階段で待つ。その待っている人がすでに四十人くらいはいただろうか……。

「せっかくエレベータで登ったのに、かなりの階数を降りちゃったわね。」

「うん。まさかこんなにも並んでるなんて思ってもみなかったわ。これは完全に出遅れてるな。」

「いえ、出遅れているはずはないのだけれどみんなが早いだけよ。

まあ、ここのメイドカフェってイベントが無くても朝から並ばないと入れないって聞くしね。

って、そうこうしているうちにさらに並んで来てるわね。やはり早く家を出て正解だったようね。」

「にしても、入口に置いてあったパネルは可愛かったな。頭にチョッピー乗っけてて、うーん、モフモフしたいね。」

「ちょっと、翔吾! 興奮しすぎよ!」

「っていう、優羽もテンション上がってるやん!

顔にやけてるし!」

「そうでもないわよ。失礼な!

って、ことはないわね!

これはさすがにニヤニヤがとまらないわね!」

そう言って、二人はニヤニヤしながら他愛ない会話をしながら待っていた。時間としては結構長く待っていたが、そんなことは関係なく時間は流れる。そして、入口に近づくにつれ、部屋に流れているアニメの主題歌やキャラソンがだんだんとはっきり聞こえてくる。たまらない時間である。

いざ、自分たちの番になった。

メイドさんに席に案内される。いろいろと説明を受けた後、最後に撮影について説明を受ける。

「写真撮影についてですが、店内のものを撮影される前は必ずメイドに申し付けてください。撮った写真をその場で確認をさせていただきます。今までの説明で何か質問はありますか?」

翔吾と優羽はお互いに顔を見合わせて同時に答える。

「ありません!」

二人の答えを聞いてメイドはにっこりと笑顔でその場を離れていった。

「それで、何を注文しようかしら?」

優羽はメニューを中央に広げて翔吾に尋ねる。

「キャラクターイメージのドリンクだけど、水色の子のやつ頼んじゃって良い?

オレ、水色の子推しなんだよね!」

「ああ、なるほど。翔吾ならではね。じゃあ私は紫の子で行こうかしら?

巨峰ってところに惹かれちゃったわ。後で一口ずつ交換で飲みましょうね!」

「おお、それいいな!

じゃあ、フードも2種類頼んで半分コする?

って、こんな半分コとかほんとにカップルだね!」

「なっ、ちょっといきなりなんてこと言ってんのよ!

べっ、別に付き合ってるんだから良いでしょ!」

そして翔吾は席にあるベルを取り、チリンとならしてメイドさんを呼ぶ。

「ドリンクなんですが水色の子と紫の子をお願いします。フードはこれとこれで!」

「ドリンクはいつのタイミングになさいますか?

すぐ、お食事のとき、食後と選べます。」

「すぐで良いわよ。早く写真を撮りたいしね。」

優羽が割って入ってきた。

「じゃあすぐでお願いします。」

そう言って注文は終わり、その後まずはドリンクがきた。

「すいません。さっそく写真撮りたいんですけど良いですか?」

翔吾は撮る気満々である。まあ、スマホのカメラなのだが。いくつかの角度を付けて写真をとってメイドさんに見せる。優羽も自分の携帯で写真を撮る。

「はい。結構です。お手数をお掛けました。」

そう言って、にっこりと笑ってメイドは去っていく。二人もにっこりと対応する。

「ところで翔吾!

どんな感じで写真撮れてる?

それって最新のスマホだよね?」

「そうだよ。今年の3月に出たばっかり。写真はメインが1.2ギガピクセル。

まあ、どんなんかは見たらわかるよ。操作わかる?」

そう言って翔吾は優羽にスマホを渡す。スマホを受け取る優羽。そして、電源を入れる。そしたら、

「ちょっと!

これって水色の子じゃない!」

「うん!

今日ここに来るから仕入れて設定しておいたよ。こういうところも含めて徹底的に楽しまないとな!」

「って、なにドヤって顔しているのよ。もう!

でもまあ、なんて言うか、

アリ!

っていうかその心意気、全力で支持するわ!」

優羽は親指を立ててGoodのサインを送る。そしていざ、先ほど撮った写真を見る。

「……。

いや、なんて言うか、言葉を失ったわ。最近のスマホってここまで綺麗に撮れるのね?」

「驚くのはまだ早い!

拡大できるんだけど伸ばしてみて!」

「えええ!?

これだけ拡大してもぜんぜんぼやけないわね?

ほんとにすごいわ!

っていうか、もうここまでくると気持ち悪いレベルね。これ、後でデータ欲しいわ。」

「うん。わかった。今日撮ったのはまとめて持っていくよ。」

そうこうしているうちに、ドリンクを一口も飲まないままにフードが来てしまった。

「すいません。フードも写真撮りたいんですが良いですか?」

そう言って写真を撮り始める。普通に撮ったり、ドリンクに絡めて撮ったりと何枚も写真を撮った。優羽も自分の携帯で何枚か写真を撮った。

「こんな感じに撮りましたけど大丈夫ですか?」

そう言って、翔吾はメイドさんに写真を見せる。優羽も同じく見せる。

「はい。結構です。こちらもお手数をお掛けしました。」

「そういやなんですが、キャラクターのパネルも写真撮って大丈夫ですか?」

「はい。もちろん大丈夫ですよ。その際もメイドに声を掛けてくださいね。」

またまたにっこりと笑ってメイドさんは去っていった。

「さて、食べますか?

じゃあ、まずはドリンクから一口貰っていい?

オレのも一口飲んでよ!」

そう言って、翔吾は自分の水色ドリンクを差し出して紫ドリンクを手にとる。そしてグラスに口を付けようとする。

「ちょっとちょっと。ストローがあるんだからストローから飲みなさいよ!

飲み方が汚いわよ。」

「え? そう?

じゃあそうするね。」

そして翔吾は一口飲む。優羽も一口飲んでお互いドリンクを交換する。その後、翔吾は待ってましたの自分の水色のドリンクを飲む。

「うーん。味的には紫のほうがおいしいね。」

翔吾は苦笑いする。そして料理を分け分けする作業に入った。その後、優羽も紫のドリンクを飲もうとして一瞬止まる。

『こっ、これってもしかして間接キ……!?

あああ、それで翔吾は気を使ってグラスで直接飲もうとしたのね……。

ってことは、翔吾は間接キスってわかってるのに、私が口付けたストローをなんの躊躇もなくくわえちゃったのね。それはそれでなんだけどこっちはこっちでどうするのよ!?』

と、優羽はモヤモヤしていると翔吾はから催促が入る。

「ん? どうしたの? 飲まないの?

結構美味しかったよ。」

『もう、間接キスの気遣いはできるくせに女心はまったくわからないのね!』

優羽はモヤモヤしながらも、

「わっ、わかってるわよ。のっ、飲むわよ!

いい?

ほんとに飲むわよ!?」

そう言って、動揺と平静で分けが分からない状態でドリンクを飲んだのだ。

「あら? 意外といけるわね!」

「でしょでしょ?」

翔吾はにこりとしている。優羽も間接キスのことは心に留めて置いた。

そして、食事とドリンクを飲み終えて一休みも終わった感じである。翔吾としては最後の仕事が残っていた。

「さて、最後の仕事が残ったってところかしら?」

「そうだな。前半戦のクライマックスと言っていい。」

そして翔吾は席のベルをチリンと鳴らしメイドさんを呼ぶ。

「すいません。水色の子のパネルを撮りたいのですが大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫ですよ。」

メイドさんは笑顔で答えてくれる。それに翔吾たちも笑顔で対応して水色の子を撮り始める。

「翔吾! 良かったら一緒に撮ってあげるわよ?」

「え? マジっすか?」

と、このやり取りの時にメイドさんが割って入ってきた。

「でしたら、私が撮りますので3人で映ってみては如何ですか?」

「えええ? 私も?」

「本当ですか? ありがとうございます!」

翔吾は優羽がもじもじと迷っているのを問答無用で一緒に写真を撮ってもらった。

そして、お会計を済ませ、『ご依頼したのはネコさんですか?』メイドカフェを終了するのであった。


そして2店舗目へ向かう途中。

「もう。急に写真とかびっくりしたじゃない!」

「え? もしかして嫌だった?

良い記念になると思ったけど?」

「嫌じゃない……。

それよりも、なんていうかありがとう……。」

最後のほうはほとんど聞こえない声で言った。翔吾には聞こえていない。

「ほら。2店舗目来たよ!

優羽の今日の目的地!」

「キャー! 恭弥くん!」

入口を入ったすぐのところにそのキャラのパネルが置いてあった。レギュラーメンバーの中心核である。

優羽のテンションは恭弥のパネルを見た瞬間にマックスになった。

一方、翔吾はというと、なかなかにこのテンションについていけないでいた。というかそもそもとして落ち着かないでいた。

というのも、さすが腐向けアニメといったところだと思われるが客はすべて女性である。逆にスタッフはすべて男性でみんな執事の恰好をしている。

さらにさらに、タイミングが悪かったのか高校生らしき客は自分たちだけである。そりゃあ翔吾としては落ち着かない。

「翔吾! どうしょう?

店員さんみんなイケメンよ!」

「そりゃー、イケメンだろう。そういう店だし。っていうか、優羽ってイケメンには興味ないんじゃなかったっけ?」

「何言ってるのよ!

イケメンを見るのは好きよ。だってイケメンだもの!

まあ、だからとしてお付き合いするかどうかは別ってだけ。」

「なんじゃそりゃ?

まあいいか。ここを深く掘り下げるとこちらが被爆することになりそうだ。で、注文どうするよ?」

「わたし、もう何もいらないわ。この空間をただただ満喫したいわ!

ここにずっといる!」

さっきまではしゃいでいて、ちょっと落ち着いたと思ったらわけのわからないことを言い出した。頭の中はまだ向こうの世界にハマっている途中のようである。

そこへ執事がやってきた。

「おかえりなさいませ。おぼっちゃま。お嬢さま。」

イケメンに加えて、とても渋い良い声で囁かれた。優羽はまたまた目をキラキラさせる。

「わあ、イケメンに加えてとても素敵な声ですね!」

「ありがとうございます。お嬢さまもとても素敵ですよ!

特に、そのお召し物も良くお似合いでお嬢さまの素敵さをさらに輪を掛けていますよ!」

そして、白い歯を少し見せて微笑んでくれた。イケメンである。

「ありがとうございます! 私もうれしいです。」

優羽も笑顔で答える。テンションこそ大人しい感じだったが、頭の中ではしゃいでいるのが手に取るようにわかる感じである。絶対にそうであろう。

「さて、お飲み物は何に致しますか?」

また渋い良い声で聞いてくれた。

「じゃあ、オレはアイスコーヒーで。」

「私は、そうね。アイスティー。」

執事はさらに良い声で質問をしてくる。

「お砂糖とミルクなどは如何いたしますか?」

「あ、オレは無しで良いよ!」

「私も。ストレートで良いわ!」

「承知致しました。すぐにお持ちしますのでしばらくの間お待ちください。」

最後もとても良い声で答えてくれた。そしてまた、少しだけ白い歯を見せながら微笑んでくれてそのまま去っていった。最後もやっぱりイケメンであった。

「ちょっと翔吾! ここ凄い店ね!

みんなのイケメン、声、演技力すべて一流じゃないのよ!

もしかしてみなさん役者か声優の卵?」

「ハハハ。こりゃ苦笑いだけどね。気になるなら直接聞いてみればいいじゃない?

でも確かにすごいとは思うけど……。」

翔吾としても店の雰囲気に呑まれないように頑張っていた。が、なかなかきついようである。

お店のシステムが完全時間制で逆に助かった。いくら重度のオタクを拗らせているとはいえ、男子高校生にはこの空間は罰ゲームであろう。

優羽の普段は凛としていて軽くツンなのだが、この空間では終始デレデレでグダグダであった。こんなにさせるこの空間はほんとに凄いんだなと思った。


駆け足でメイドカフェを二店舗(厳密に言うと一店舗は執事カフェかもしれないが。)ハシゴしたふたり。さすがにちょっと疲れていた。しかし変なテンションなためか逆に活き活きしていた。

そして道をなんとなく歩きながら会話をする。

「いやー、楽しかったわね。でも、流石に疲れたわね。」

「そりゃー、あんだけはしゃいでたらそうなるわ。

にしても、優羽があんなにグダグダになるなんて。アニメだったらもう完全にキャラ崩壊じゃん!

ダンスアンドラバーズ、そしてあの執事さん達、恐るべしだよ。」

「なっ!?

べっ、別にしょうがないじゃない!

ダンラバよ?

それにあの声よ?

そういう翔吾だって水色の子の前じゃデレデレしてたじゃない!」

「ん? そりゃあそうでしょ?

みんなの妹、水色の子だよ?

あんな妹いたらピンクじゃなくても可愛がっちゃうよ!」

「なっ、あっさり認めたわね。ただ、ここは激しく同意せざるを得ないわね……。」

若干いつもの優羽が戻ってきた感じであった。その後急に優羽が叫ぶ。

「あっ、『ココサケ』の映画まだやってるんだ!

いやー、この映画ほんと良かったわ。」

映画館の前を通ったときラインナップにポスターがあったのである。

「ああ、あの『心の底から叫ぶんだ!』だっけ?

そういや中の人、水色の子の人だね。まだ見てないや。」

「え? 翔吾まだ見てないの?」

「うん。ブルーレイ出てからレンタルしようかと思ってた。っていうか、そもそもとして映画館で映画見たこと無いんだよね。」

「えええ?

それはもったいないわね。いろいろと。人生損しちゃうわよ?

よし。じゃあ一緒に見ましょう!」

「えええ? いいよいいよ!?

さっきの口ぶりからしたら一回見てるんでしょ?

わざわざ付き合ってもらわなくなって、ブルーレイ出たらレンタルするから。」

「いや、本当は3回くらい見たい勢いなんだけれどね。経済的事情で見てなかったのだけど、でも本当にもう一回見たいってのはあったの。

この映画ね、文字がシーンとして何回も出てくるんだけど、前回は後ろのほうの席だったからそれがあんまりよく見えなかったのよね。

だから行くわよ!

今度は前のほうの席でね。」

そして優羽は翔吾の手を引いていく。優羽としては男の子の手を引くなんて後から考えると恥ずかしさMAXのはずであるが、その時はそんなことも気にしなくそれよりもココサケを見たい一心であった。


そして映画を見終わったふたり。映画館のロビーでちょっと余韻に浸りつつ会話する。

「で、どうだった? 良かったでしょ?

あのミュージカルのところは泣けちゃうのよ。あと、文字のところも良く見えて良かったわ。あんな会話していたのね。」

「いやいやいや、マジで半端なかったっす!

人生損するとこでした。マジ感謝っす!

しかし、あの声優さんあんな叫ぶ演技もできるんだな。かなり水色のモフモフした演技のイメージついちゃってたからね。新鮮だったわ。」

「確かにそうね。そういや、映画の舞台になっているのって家からもそんなに遠くないわよね?

聖地巡礼とか行ってみたいわね?」

「おお、それいいかもな!

オレららしいわ。おっと、そういや少し暗くなってきたけど何時だろ?」

そう言って翔吾はスマホを取り出す。

「私は一応、晩御飯を食べて9時までに帰るって言ってあるわよ。」

一応、お互い事前に晩御飯をいっしょに食べて帰りましょうねと打ち合わせてある。しかし、翔吾がスマホをいじっていて浮かない顔をし始めた。

「ううう。非常に申し訳ないんだけど、家に帰らないといけなくなった……。」

「えええ? どうしたの?」

「いやね。今日は母親が家に来ることになってるんだけど、俺んちの鍵を忘れて家に入れないって連絡入ってる。鍵無いんだったら実家に帰れよ!

って交渉はしてみたけどそれは無理っぽい。父親に怒られるそうだ。

一人暮らしの条件が週一で母親来ることが約束なので、それが守られなかったらオレも怒られる。そう考えるとオレが家に帰ったほうが丸く収まりそうってところ。

ほんとごめん!」

「なるほどね。残念だけどそういう事情ならしょうがないわね。とりあえず家のほうへ向かいましょうか。」

そして二人は駅の方へ向かう。

「ホントにゴメン!

せっかく今日一日すごく楽しんでいたのにこんな結末になっちゃって。」

「もう、そんなに謝らないで!

こっちも今日は楽しかったんだから。」

「あと、あれだよね?

晩御飯は家には無いよね?

やっぱり、親に家の鍵渡したらまた合流しようか?」

「そこまでしなくても良いわよ。駅のファミレスか、それかコンビニでなんか買って帰るわよ。」

「うーん。それもなんか申し訳ないからなあ……。

じゃああれだ! 優羽も家に来ちゃう?

母親もいるし安全だよ!

って、さすがにこれは冗談です。っていうか、二人よりも親に会うほうがハードル高いよな!

ハハハハ!」

「!? それだわ!」

「!?


え???


いやいや、さっきのは冗談だって!

そんなのに無理やりのっかからなくて大丈夫だし。」

「いえ。本気よ!」

「そんなん、普段の優羽なら言わないでしょ?」

「そうね。確かにいつもの私ならこんなこと言わないかもしれないわね。でも、今日はいつもとは違うのよね。

アキバに来てテンションが上がってるのもあるけど、翔吾のお母様だったらとても興味があるわ。これも何かの縁でチャンスかもしれないわ。ってか逆に翔吾!

一度口にしたことを撤回するのかしら?」

「ぐぬぬ。

こういう時の突進さはほんと勢いあるよな。じゃあ、わかった!

ちょっと母さんに連絡してみる。もう一回聞くけどホントにいいんだよね?」

「ええい! しつこいわよ!

そんなに言われたらこっちも考えちゃう余裕が出来ちゃうじゃない!

さっさと連絡してよ!」

そして、翔吾は母親と絆をやり現状をやり取りする。

「連絡取れたよ。家だと大したもの作れないのと親も自分が迷惑かけてる自覚はあるみたいね。ステーキ奢ってあげるから駅前のステーキのファミレスに向かいなさいだって。

もう言っちゃったからな! 後戻りできんぞ?」

「うっ……。だ、大丈夫よ!

いっ、行きましょう!」

優羽は明らかに動揺している。しかし、それは置いといてという感じで翔吾についていくのであった。

さっきのメイドカフェとはまた違ったテンションであった。


そうこうしているうちに翔吾の最寄りの駅に到着した。そしてファミレスへ向かう。

「ううう。ダメだわ。急に緊張してきた……。

自分で言っておきながらなんだけどホントにどうしようかしら?」

「ちょっ!

いまさら怖気つかないでよ。オレだって結構緊張してるんだからな。あんまり親に人を紹介するなんてないんだしね。」

「でもだって、しょうがないじゃない!

冷静に考えれば考えるほどこのシチュエーションって漫画やアニメでもよくあるご両親に彼女を紹介するってことじゃない?

そりゃあ誰だって緊張するわよ!」

優羽はそう言って一層アタフタする。翔吾も気が気じゃなくなってきている。

「まあ、うちの母親はかなり気さくで人懐っこいから大丈夫だと思うよ。じゃないとオレも簡単に会わせようなんて思わないから。これが父親なら話は別だけど。父さんはほんとにめちゃくちゃ怖いからな。」

「そ、そうなのね。」

そして目的のファミレスに到着する。翔吾は母親が座っている場所にすぐに気付いた。

ウェイトレスさんにはその旨を言って母親のところへ行く翔吾。母親も途中からは翔吾に気が付いていたのだが明らかに目が点になっている様子だった。

「ども。こちらがさっき連絡した人で桝谷優羽さん。」

「初めまして。桝谷優羽と言います。

今日は突然押しかけるようなことになってすいませんでした。また、食事に誘って頂いてありがとうございました。」

優羽はここで一礼する。そして翔吾に耳打ちするように言う。

「……えっと、お姉さんも来たってことなの?

お母さまがいるって聞いてたけど?」

「なに言ってんの? だからこの人が母親!

また若く見られて良かったな。」

優羽はホントに普通に溶け込むように目の前にいる人をお姉さんだと思った。

「あら。やだわ!

一応翔吾の母親でみさこって言います。これでも47歳なのよ。3児の母。もう可愛いわね。おこずかいあげなきゃかしら?

って、私のことはどうでもいいのよ!

翔吾!

一緒にいる子、女の子じゃない!

しかもこんな綺麗な子。ぜんぜんそんなこと言ってくれないんだから!

びっくりしたわよ。もう!」

男ひとり、事情はすべてわかっている。そして、びっくりしてもそんなに驚かない人なのでひとり平然としている。

しかし、女性二人はお互い情報が無いものだからギャップに対し、本当にびっくりしていたのである。

「えっと、つばさちゃんだっけ?

とりあえず座って座って!」

みさこに誘導されて反対側の席に翔吾と一緒に座る。そしてさらに話を続ける。

「もう、うちのしょうごりんったら私に似ないで頭はすごく良いんだけどね、でも、こういうことってめったに話してくれなくてね。今日だって遊んでくる。先に家にいてってことしか言われてないからね。」

「ちょっと母さん。別にそんなこと今はいいでしょうが!

さあ、注文しようよ! もう腹減ってしょうがないし。」

そう言って翔吾はウェイトレスを呼ぶ。

特段、他愛のないやりとりを見ている優羽であった。なんだか学校や部活での翔吾とはまた違うプライベートな一面を見たような感じである。心がほっこりしていた。緊張はしたが、というか今も、もの凄く緊張はしているのだがこれを見ただけでも来た甲斐があったってものだ。

「じゃあ、このサーロインステーキの300グラムで!

もう、奮発しちゃうわよ!

ほんと、今この瞬間、奮発しない理由がまったくもって見つからないわ!」

みさこは若干興奮気味でオーダーしたのだ。この店で一番高いメニューである。翔吾と優羽の意向はまったく関係なしであった。

「なっ、なんかすいません。これ一番高いメニューですよね?

いきなり押しかけておいてこんな立派なもの……。」

「いやいや、いいよそんなこと気にしなくて。子供なんだから大人のいうこと聞いておきなさい!

まあ、その代わりと言っちゃなんだけどね、今日はおばさんのお話し相手になってね!」

「はい! それはもちろん!」

優羽は返事をする。そしてとても不思議な魅力を感じていた。なんだかいつの間にか引き込まれている感じがする。それに、とても可愛らしくてとても47歳には見えない。普通に見ても20代後半ってところだろう。

ほんと、残念ながら容姿、特に顔はぜんぜん似なかったようだ。母親に似ていればもっともっとモテたであろう。ただ、なんとなくの面影はわかる。翔吾は可愛い感じの人であるがそれは母親の遺伝を少しは貰っているようである。

「じゃあとりあえず、学校のこと聞かせてよ!

しょうごりんったらぜんぜん学校のこと話してくんないんだもん。」

「そうですね。まあ、まだ始まって1か月ですのでそんな大きい出来事はないのですが、でも、校内の中学までの学力テストでは5教科450点で、学年で10番台だったわよね?

やっぱりすごいなあって思いました。」

「えええ、しょうごりん手を抜いたでしょ?

公立高校の学力テストだったらほぼ満点取れるんじゃないの?」

みさこはジト目で翔吾を見る。

「まあ、ぶっちゃけ簡単だったし495くらいは行けたかもね。理科と国語でわからないところがあったけど。

でもまあ、部活があれなんで目立ちたくないんだよね。とは言えあんまり成績悪いとそれはそれで部活に影響あるし。ってことでその辺に落ちつけといた。」

「えええ? そうなの?

私なんか、難しくてぜんぜんわからなかったわよ?

かろうじて平均点は超えたけど……。平均点って、確か300点くらいだったでしょ?

ちょっとまた見方が変わったかも……。

あ、それと部活の話が出ましたがこれがまた凄いんです!」

と言ったところで料理が運ばれてきた。話はいったん中断してしまう。

「うわぁぁぁ。さすがにスゲーわ!

ファミレスとは言え、単品値段3580円だもんな。300グラムだしな。」

翔吾は感心した。が、しかしながら、ぶっちゃけ翔吾は父親の会社の人についていった時にはもっと凄いものをたくさん食べている。

続いて優羽も感想を述べる。

「そういえば私、この店でサーロインステーキとか初めて注文したわよ。自分の目の前にこれが置かれる日が来るなんて思ってもみなかったわ。

そうだ! 翔吾!

これもばっちり写真に撮っておいてよ!」

最後にみさこが笑いながら言う。

「アハハハ。

いやいや、合計1万円強でここまで喜んでくれるなんて、これはお金の使い甲斐があるってものだわ!

さてさて、食べましょう!」

「はい。頂きます!」

「いただきます。」

翔吾と優羽は手を合わせて、それからフォークとナイフで肉を切り出す。

「わあ。すごい肉汁だわ!

こんなお肉初めてかも!

って私、はしゃぎすぎちゃってはしたないわね。」

「いいのいいの!

せっかくみんなでご飯してるんだから、なりふりなんてどうでも良いのよ!

より美味しくより楽しく食べられればね!」

「すいません。恐縮です。


んーーーー!


美味しいわ!」

優羽はというと、恐縮したばかりだというのにそんなこともお構いなしにまた叫んでしまった。

一方、翔吾はというと言葉こそは出ていないが満足そうに肉をほうばっていた。

そして各々食べ終わった。みんなお腹いっぱいで満足そうである。

「ドリンク飲みますよね?

私、取ってきますね! 何がいいですか?」

「あらあら。つばさちゃんってばとても気が利くのね!

じゃあお願いしようかしら。私、オレンジジュースね!」

「あ、オレも行くよ。」

ドリンクを取り行く二人。にこにこと見送るみさこである。

そして、翔吾、ホットコーヒー、優羽、ホットコーヒー、みさこ、オレンジジュース。

子供たちがコーヒー(しかもブラック)で大人がオレンジジュース。絵面としてなんかシュールであった。

「だって、私ってばコーヒー飲めないんだもん。お子ちゃまだしね!

まあ、それよりもさっきの話の続きしてよ。部活の話!」

「そうなんです!

生徒会の特例で始まった部活でコンサルティング部っていうんですが初めてのクライアントで稲穂さんっていう先輩が来たんです。」

そして、優羽は部活と稲穂のことをみさこに話し始めた。

「へぇ。そんなことやってたんだね。しょうごりん。でもまあ、かなりしょうごりん向けの部活なのかもね?

しょうごりんってお兄ちゃん達とはまた別の賢さってあるもんね。お父さんに高校のことを説得したあの時はほんとに凄いと思ったわ。

相手を説得するっていうか納得させるっていうか……。

ホントに中学生なの? って思ってたくらい。

っていうか、ホントに普段はぜんぜんこんな感じの話してくんだいんだもん。今日はつばさちゃんが来てくれてほんと良かったわ。こんな可愛い子とご飯出来て、さらにしょうごりんの話も聞けて。」

「ってか、もうオレの話はこれくらいでいいだろう!

ほんとにとんだ罰ゲームだわ。あと優羽!

そろそろ帰らないといけない時間じゃない?」

「あら。ほんとうだわ。もうこんな時間になっていたのね。ぜんぜん気が付かなかったわ。楽しくって美味しくてほんとそういう時って時間の経つの早いわね!」

「えええ! もう帰っちゃうの?

あっそうだ!

だったら今日は家に泊まっていけばいいよ!」

「って、無茶言うなよ!

常識的に考えてもそうだけど、そもそもとして家にそんな物理的なスペース無いだろうが!」

「大丈夫よ!

つばさちゃんは私が抱っこして寝ればいい!」

「ってバカか!

もう、これじゃどっちが子供かわからんな。ほんと。」

「アハハハ。流石にわかってるわよ。」

「ホントにわかってんの?

もう、母さんはどこまでが冗談かわからんからね。」

「じゃあつばさちゃん!

今度またゆっくり会ってくれる?

私としては別にしょうごりんいなくてもぜんぜんOKよ?

なんか、つばさちゃんのことすごく気に入っちゃったわ。もう、本当に可愛いんだもん!

家も娘ひとりいるけど容姿に関してはねぇ、お父さんに似ちゃって可愛くないんだもん。」

「って、何気に酷いこと言ってるな。姉さんにチクルよ。ほんともう。」

「あはは。冗談に決まってるでしょ?

お腹を痛めで生んだ自分の娘が可愛くないわけないじゃん。で、次に会った時はしょうごりんの昔話とか聞かせてあげるわよ!

さっき話題にも上がった中学の時のお父さんとのやりとりとかね!」

「!?

そ、それはめちゃくちゃ興味ありますね。ぜひお願いします!

なんか、私もみさこさんのこと、お姉さんみたいな感じでとても大好きになりました!」

そう言ってお互い軽くハグをして、その後、絆の登録をしていた。

「って、ホントにオレ抜きでも会うつもりなの?」

「もちろん!」

翔吾の問いにふたりは同時に息ぴったりで答える。本当に直接やり取りをする気である。

「すっかり遅くなっちゃったわね。つばさちゃんって家はどこなの?

良かったらお車使っちゃう?」

「お車って、もしかしてタクシーですか?

いえいえそこまでして頂かなくて大丈夫ですよ。ここから電車で2つとなりの駅で、駅からも4,5分のところなので。」

「そうなのね?

じゃあ私は先に家に行っているからしょうごりんはつばさちゃんを駅まで送っていきなよ。」

「うん。わかった。じゃあとりあえずこれ鍵ね。ちゃんと鍵は開けといてよ。」

「はいはい。わかってますよー!」

そう言ってみさこは鍵を受け取って家に向かった。翔吾と優羽は駅へ向かった。

「いやー、とても素敵なお母さまね!

しかもほんとに若いわ!

たぶん、私の親よりも歳は上だと思うけどそれよりも若く見える!

家のお母さんもかなり綺麗な人なんだけどね。」

「ハハハ。

まあ、家の母さんはあんなんで、すぐに誰とも友達になっちゃう人だからね。それよりも優羽が逆に引かないか心配してたくらいだよ。」

「ハハハ。

確かにグイグイとくるタイプよね。なんか稲穂先輩と比べちゃうけど、稲穂先輩はなんかこちらが敵対心になっちゃうけどみさこさんは仲間で良かったわ。って、なる感じよね。

ってもう駅の階段だわ。送ってくれてありがとね。今日は本当に楽しかったわよ。翔吾のお母さまも含めてね。

また遊びに行きましょうね!」

「うん。オレもほんと今日一日でこれまでの15年間の娯楽を体験したかもしれん勢いで、ホントに楽しかった。ちょっと一日に詰め込みすぎたかもな!

ハハハ!」

「ちょっとそれは盛りすぎじゃないかしら?

じゃあまたね。次はGW明けの学校かしら?」

「うん。そうだね。

バイバイ!

近いかもだけど気を付けてね!」

そして二人はお互いを見送った。

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