第1話-3 それは当然フラグである(フラグ回収編)

午後二時(十四時)。プールの更衣室裏。


今日は天気も良くて優しい風に木々が揺れ小鳥がさえずっている。まさに季節は春である。これからの高校生活をより期待を持たせるようなそんな穏やかな天気である。

そして、向こうのグランドでは上級生たちが部活に勤しんでいる。

そんな中、桝谷優羽はいた。

そこへ高橋翔吾もやってくる。


優羽は更衣室の壁側を向いており翔吾が来たことに気が付いていないみたいだった。そして、優羽はそわそわしている様子であった。

本当にはたから見たら告白をしているようにしか見えないシチュエーションである。そんなそわそわしている優羽に対して翔吾は意を決し恐る恐る声を掛けてみる。

「あ、あのう。桝谷さん?」

翔梧の声を掛ける音量も微妙な感じで震え気味であった。緊張が伝わってくる。

優羽は翔梧の呼ぶ声に気付いて振り向く。優羽のそんなに長くない髪なのだが、とてもさらさらしているので一瞬フワッとなびく。翔梧としても一瞬みとれてしまう。

振り向いた優羽だったが、振り向きざまの瞬間は翔梧の目を見たが、その後はそわそわしていて目も泳いでいた。

そんな優羽を見ている翔梧もとても緊張してしまう。周りの空気はどんどんと緊張で張りつめて行った。

「あ、あのう…、」

こんな空気を翔梧が男気を見せてぶち壊そうとした。

そしたら優羽はビッと手を前に伸ばして『ちょっと待って』というポーズだった。

一呼吸してから優羽はしゃべり出す。

「もう、いろいろと考えたけれど回りくどいことはしないで単刀直入に言ってしまうわね。

高橋君。

昨日、教室近くの廊下でカード拾わなかったかしら?」

「カード?」

やっとのことで口を開いた優羽だったが、あまりにも予想外な言葉だっただけに翔梧は処理するのに時間が掛かってしまった。

「そう、カード。

トキアルGってタイトルのゲームなのだけどその特典のカードなのよね。」

そう言った後、優羽は顔を真っ赤にしていた。

「あっ、ああ、あれね?」

「そうそう、あれ!

あれ、実は私のなのよね。だから返して欲しいのよ。」

「ああ、そういうことね。うん。わかったよ。」

「あ、ありがとう。」

だいぶ落ち着いた優羽であった。ほっとしたのか顔色もすっかり元通りになっていた。そして、笑顔で翔梧に対し手を差し出す。

「あ、ごめん。今日は持ってきてないんだ。

無くした人にとっては大事なもんだろうと思ったんで家に厳重に保管してる。明日持ってくるね。」

「なるほどね。それならそれで良いわ。」

「ああ、でも話ってこれか。そりゃそうだよな。

まだ学校始まって二日目だし俺は桝谷さんのことぜんぜん知らないし桝谷さんだって俺のこと知らないだろうし。そんなわけないとは思ってたんだけどね。」

「え? なんの話?」

「いやだってさ、このシチュエーションだけ見れば告白じゃん?」

翔梧のこの言葉にハッとなって顔が真っ赤になる優羽だった。まったくもってそんな意識は無かった。如何にしてカードを返してもらうか、そしてどのように口止めをするかそれしか頭に無かったのだから。

「ちょっ、ちょっと待って!

ご、誤解を与えちゃったのなら謝るわ。でっ、でも、べっ、別に、そんなんじゃないから!

かっ、カードを……。」

言葉はどもっているし手をパタパタさせていた。よっぽど動揺しているのがみてわかる。小動物みたいな感じでとても可愛かった。

「ハハハ。わかってるって!

俺もそんな勘違い野郎じゃないしなりたくもない!」

翔吾は笑顔で答えた。

「あ、あとね、カードの受け渡しについてだけど、学校じゃほかの人に見つかっちゃうかもしれないから駅裏のバーガークイーンでやりましょうか?」

「え? ああ、それで良いよ。」

翔吾はちょっと歯切れ無く答える。

しかし、別にカードを渡すくらい学校でも良いような気がした。それと、さらにこれは『デート』っぽくなってしまわないか?

と、内心ドキドキもしたし優羽にもその自覚があるのかどうかというところが疑わしくも思えた。

これは突っ込んどいたほうが良いのかとも一瞬脳裏をよぎる。

今のこの告白のようなシチュエーションでもこれだけの動揺だ。これはデートではないかと突っ込んだらどういう反応になるか予想が付かない……。

しかしながら翔吾としても年頃の男子高校生である。同級生とのファーストフードでのデート(ただのカードの受け渡しだが)というのに憧れがないわけじゃない。しかも相手は入学2日目にしてクラスや学年で話題になり始めている桝谷優羽ときたものだ。

これはそっと翔吾の心の奥底に眠らせておくようにした。

「高橋君。あとね、カードを大事に保管しておいてくれたお礼……。あ、いや、これもはっきり言うわね。

私がトキあるGのカードを持っていたということの口止めをしたいのだけれど私に出来ることならなんでもするわ。ひとつ何か言ってくれないかしらね?」

「えええ? いやいやそんなことしなくても黙ってるよ!」

「ダメよ!

まあ信用しないとは言わないけど、でも何か高橋君にも黙っているメリットがあるようなことが無いと私が安心できないのよ!

はっ!?

もしやこれをネタに高校の3年間ずっとゆするつもりなの?」

優羽はちょっとジト目になり翔吾を見る。

「いやいや、そんなこと無いって!

じゃあ、何かお願いする……。

って言っても、そんなすぐには出てこないよ。」

そして、一呼吸ついたところで、翔吾がハッとなり優羽に言う。

「じゃあ、明日のバーガークイーンをおごってくれる?

これで良いよ! どう?」

実際、翔吾としてはすでに優羽とバーガークイーンでデート(何度も言うがただのカード受け渡しです!)ができるだけでも十分にうれしいことで、さらに奢ってもらうことに気が引けていた。

しかし翔吾の提案に優羽は難しい顔をしている。

「え? いや、バーガークイーン?

一番高いセットメニューを頼んでも確か820円でしょ?

それは口止めとしてはちょっと心もとないわね……。

うーん、じゃあ、とりあえずバーガークーンはカードを拾って保管してくれていたお礼ということで。

それで、口止めの件は貸し1ということにしておくから高橋君が何か困ったことがあったら私に言ってね。私に出来ることなら全力で対応させてもらうから。」

そういうことで、入学式2日目にしていきなり衝撃な出来事が発生したわけだが、とりあえず明日の段取りを決めてこの日はお互いに家に帰ることになった。



翌日。

すでに学校は通常モードである。がっつりと午後まで授業があった。が、しかし、あっという間に放課後。

まずは、優羽が速攻で学校を後にした。もちろん、駅裏のバーガークイーンに向かうためだ。

翔吾は授業が終わってからもう少し教室に残っていた。そして、5分くらい後に自分も教室を出て、さらにトイレなどに行ってからゆっくりとバーガークイーンに向かった。まあ、念のため時間をずらしましょうということである。

店の脇に乱雑に自転車が所狭しと置いてある。翔吾もそこに無理やり自分の自転車をねじ込む。

いざ入口へ向かうとき、すでに入口の自動ドアの横で優羽は待っていてくれていた。しかしながら明らかにそわそわしていて挙動がおかしい感じだ。そんな優羽を見たら翔吾としても一気に緊張を貰ってしまった。

優羽は翔吾に気付いたらしく一瞬笑顔で迎えてくれた。しかし、やはりその笑顔もどこかぎこちなかった。特に言葉を交わすこともなく二人は自動ドアをくぐった。

店内は若干の混雑でレジも各列2,3人は並んでいる感じであった。

「じゃっ、じゃあ、オレは先に2階で席を確保しておくよ。えっと、注文はてりやきバーガーのセットで飲み物はコーラ。」

「うん。わかったわ。」

「あと、荷物は持っていくよ。貸して!」

「え? あ、ありがとう!」

そう言って優羽は翔吾にカバンを渡す。そして翔吾は二階へと登っていく。まあ、これだけ見ると本当に初めての放課後デートという感じである。

翔吾は二階に行き空いている二人席があったのでそこを確保する。そして優羽を待つのだがめっちゃ緊張していた。それというのも、優羽と会ったときに優羽のあんなにも緊張している様子を見るとどうしてもこちらも緊張してしまうものである。

でもまあ、公立高校に来て何か今までとは違うことがあるかな?

などいろんな想像(妄想?)をしていたが、まさか入学してからこの3日間でいきなりこんな高校生らしいリア充イベントをするとは思ってもみなかった。本当に衝撃の3日間だった。今日なんか授業はまったく頭に入ってこなかった。

しかしこれも今日トキあるGのカードを返せば無くなってしまう。そう思うとちょっと寂しいなと思った。

そして優羽がやってきた。

「お待たせ。どっ、どうぞ!」

そう言ってトレイを机に置いた。そして翔吾の向かい側に優羽は座った。しかしながら若干そわそわしている。

そんな優羽を見て翔吾もそわそわとしてしまう。ぎこちない二人である。本当にハタから見れば純情カップルそのものである。

バーガーにも手を付けずに気まずい感じでいたが優羽のほうからしゃべりかけた。

「えっと、あのね。昨日、夕子とメールのやりとりをしていて、今日のこれってもしかしてデートのうちに入ってしまうのかしら?

あ、夕子っていうのは私の親友のことね。」

『ああこのことか……。』

翔吾は心の中で、とうとう気付いてしまったのかと思っていた。もしかしたら迷惑なのかもしれないと思い、とりあえず否定しておこうと思った。

「あ、いや、別に違うと思うよ?

俺は普通に用事を済ませに来ただけだしね。」

そう言って急いで自分のカバンの中から例のカードを取り出した。普通の封筒に入れて置いた。その封筒をそっと机に差し出す。

「あっ、ありがとう。」

優羽はそう言って封筒を受け取った。ほっと一息入れた感じである。そして話を続ける。

「あ、いや、違うの!

デートが嫌だとか誤解されたくないとかそんなんじゃないの。

ただ私って同年代の男の子としゃべったことっていうか、ぶっちゃけてしまうと夕子以外に親友がいなくて夕子以外の同年代の子とあまりしゃべったこと無くてだからちょっと緊張してて……。

だからなにしゃべっていいかわからないっていうか……。」

優羽は若干顔を赤らめながら手も腕もパタパタさせて弁明する。

「ぷっ。」

翔梧は思わず吹いてしまった。今まで優羽の緊張を貰っていたのだがこんな優羽を見ていたら逆になんか吹っ切れてしまったようだ。

「別に普通で良いと思うよ。だって同級生じゃん。あと言っておくと、俺も同級生の女子とこうやってファーストフードで飯食ってしゃべるとか生まれて初めてなんだよ?

俺もめっちゃ緊張してたし、特に桝谷さんの緊張見てたら余計にね。

確かにデートって言われたら俺も年頃の男子高校生だし今のこの状況もそんなんだったら嬉しいなと思ったのは事実だけどね。でもまあそこまでは思わないよ。これ食ったらすぐに帰るね。」

そう言って翔吾は『いただきます。』のポーズを取り放置されていたバーガーを食べ始めた。若干冷めていた。

そんな翔吾の言葉に優羽もちょっと肩の荷が下りたような感じになった。そしてちょっと恐縮している。

「あ、そういや自分の話ばっかりでちゃんとお礼も言ってなかったわね。カードを拾ってくれて本当にありがとう。もう本当に私ってばそそっかしくてね。ある程度は自覚している……。

それでねついでにちょっと聞いておきたいと思うの。」

「ん?」

翔吾はポテトを口の中でもぐもぐさせ、若干お行儀が悪い感じになって答えた。

「私って、まあヲタクっていうか、まあ高橋君は知らないと思うけどこのトキあるGってのはその中でもかなり濃い部類に入っちゃうのよね?

こんな女の子のことどう思う?」

「あああ、なんだ。それだったら俺の言うことはあんまり当てにならんと思うよ?

そういや、なんか言ってなかったけど俺もかなりのオタだから。いや、かなりって嘘。もの凄くガチ!

まあガチになったのは2年前なんで歴としてはまだまだ新参かもしれんけどね。一応、トキあるGのこともある程度は知ってるよ?

まあ、さすがに内容があっち向けなんでアニメは見てないしゲームもやったことはないけどね。」

「!? ほんとうに?」

そう言った優羽は一瞬固まった。

そしてここからは俺のターンと言わんばかりに翔梧が畳み掛ける。

「キャラもどんな内容かもぜんぜんわかんないんだけど中の人はわかるよ。

大御所っていうかレジェンドクラスで山寺宏一郎さんや速川奨さん、若手だと梶木裕貴さん、下野紘由紀さんが出てるんでしょ?

大御所と若手をくっつけるのは良いとしてもそこをくっつけるか?

ってことで話題になってたよね?

中の人は男女ともにそれなりにチェックしてるからそこはわかる!

あ、誰が誰の役はわからんけどね。ハハハ。」

「そうそう、山ちゃんは鉄板だったし、あと私ショタじゃないんだけどあの童貞ボイス紘由紀さんのはまりっぷりは半端なかったわ!

ってあなたもいけるクチなのね?

ちなみに今期のアニメは何見てるの?」

「ハハハハ。『今期のアニメ』って単語が出てくる時点で桝谷さんもかなりガチってのがわかるわ!

俺ってちょっと、いやかなり忙しい幼少期を送ったせいか日常系が好きなんだよね。あと普通にファンタジー系。

なので、今期はほんと待ってたんだけど、『ご依頼したのはネコさんですか?』の二期が超楽しみで一話は安心安定だったね!

先期の『のんびりした日常』からの流れでここ半年は超満足!

あと、『落第した魔法科学生』『学園のシャープ(#)』だけど、これネットでも話題になってたけど1話のシンクロ率が半端なかったね?

めっちゃ吹いたよ。

ちなみにだけど、とあるネットの有料会員やってるからアニメはほとんど見てるよ。あっ、でも逆にメジャーすぎるのは見てないんだけどね。」

「あああ、私もそれは見てるわ!

私も日常系は大好き!

女の子可愛いわよね。それとファンタジー系のふたつ。あれは確かに酷かったわね!

もちろん良い意味よ!

あれってほんとに別の会社が別々で作っているのよね?

或いは、絶対打ち合わせして作っているんじゃないかって思っているわ。私も大爆笑してたわよ。だが嫌いではないかしらね!」

「おお!

まあオタ趣味は隠すつもりは毛頭ないのでこの手の話題でも振られたらしゃべるけど、このラインナップを聞いて引くどころか食いついてくるなんて!

しかも桝谷さんみたいな女子が……。

逆にこっちがどのように反応してよいか迷ってしまうよ。」

「まあ、もちろん見てないアニメも多いけどね。あと、やっぱり腐系が中心になるわね。そういう意味では最近どんどんと枠が増えてきて嬉しいわ。

いやー、カード落としたついでにカミングアウトしたけど思わぬ収穫だったわ!

まさか、こんなところに同志がいるなんてね!」

「俺もまさかこんなところに!

というのはあるけど、それよりもまさか桝谷さんみたいな女子が腐の趣味持ってるなんて、見た目じゃ人の奥底はわからないものだなって思わされたよ。」

「フフフ。私って確かに身だしなみだけはちゃんとしてるしね。」

「いやいや身だしなみもそうかもだけど、桝谷さんって中学の頃はめっちゃモテてたでしょ?」

「そんなこと無いわよ。

まあ、たまーに男子からは告白はされていたけれどね。私に告白をしてくる意味がさっぱりわからなかったけれど、でも親の教育方針で見た目はちゃんとしてたからそのあたりかしらね?

と勝手には思っていたけれど、でも、私ってどうもひとめぼれとか信用できないのよね。

そりゃー、外見は重要だと思うわ。外見がちゃんとしていないと、その人のいい加減さが伝わってくるから。

でも、それだけで人を判断するのはちょっとどうかと思うのよね?

って思うのは、ソースは私のことなんだけれどね、私って中身はかなりディープなんだけどその辺ってやっぱりしゃべらないとわからないと思うのよね。

だから告白してきた男子には私の中身のディープさの片鱗を言うのね。そしたらほとんどが引いちゃってね。なので断っていたわ。

あ、逆に向こうが告白したその後に瞬間で振られるっていうのもあったわ。いやいや、告白してきたのあんたでしょう!

とか心の中で突っ込んでしまったこともあったけどね。」

「なっ、なるほど……。

俺も中学までは大変な思いをしてきたと思っていたけど、でもまた違う意味で大変なことがあるんだなって思った。まだまだ俺の世界は狭いわ。」

翔吾は、優羽としてはモテないと言っていたがモテるのはそれはそれで大変なんだなということで解釈していた。告白される理由もそこじゃないと心の中で突っ込みながら。あと優羽としては本当にモテているという認識ではないことも意識していた。

「そうそう、ついでに言っておくとね、友達も夕子以外いなかったのよね。初めにちょっと言っていたけどね。

ある時、サッカー部のエースの人から告白されてね。その人は女子にすごく人気にある人だったらしいの。でも同じような感じで結局断って……。

そしたら、夕子以外の女子からは総スカン食らっていたわ。基本的に敵を作ってしまう体質らしいわね。

って、あらごめんなさい。

私ばっかりしゃべってしまって……。

それに、ちょっと暗いどうでも良い話題だったわね。なんだろう。高橋君ってすごくしゃべりやすわ。とても聞き上手なのね。」

「いや、聞き上手って……、確かに体質的なところでそういうのがあるのも事実だけど大抵は技術の一環だと思うよ。

っていうか、オレとしては桝谷さんのほうがしゃべるのが好きなんだなって思うよ。身だしなみも清潔だし明るくて可愛くて好感度が凄く高いよね。なんで今までが嫌われていたのかわからないくらい。よっぽど酷い何かをしてたんだね。じゃないと嫌いになる理由がないし。」

「ちょっ!

なっ、なんてこと言ってるのよ!」

優羽は赤くなりながらアタフタする。そしてさらに話を続ける。

「ねえ、私たちって同志でもあるし、昨日からクラスメイトだし、このまま友達にもなりましょうよ!

がっつりアニメやマンガの話ができる相手がいるのはうれしいわ。っていうかあれだわ。これ、このまま行ったらたぶん私、高橋君のこと高確率で好きになっちゃうと思うから恋人になることを前提に友達になりましょうか?

私って、まあ単純なところあるし今のこのシチュエーション絶対にフラグだわ。

またそのときに悶々とするよりも今からそのつもりで付き合ったてた方が絶対に楽だわね。ひとめぼれは無いって言ったけれどなんか近いものがあるわね。これって。」

一方的にしゃべる優羽。いつの間にかずっと優羽のターン状態であった。翔吾はポカーンと聞いていた。

瞬間、会話内容の処理に時間を有してしまったが翔吾がびっくりして優羽に切り出す。

「って、えええ!?

いやいやいや、まあオレも友達になるのはぜひぜひお願いしたいところではあるけどね、でも、いきなり恋人とかそんな軽いノリで大丈夫なの?」

「うん。まあ大丈夫じゃない?

今回はこのフィーリングを大事にしたほうが良いって感じているわ。だいたい私って課題とか問題を先延ばしにすると絶対に後で拗らしちゃうタイプなのよね。」

「いやいや、でも……。」

翔吾は圧倒的に突進してくる優羽にタジタジ、アタフタして躊躇している。

「あれ?

もしかしたらもう付き合っている人とか好きな人とかいたかしら?

それなら恋人ってのは諦めるけど。」

「いやいや、それはないけど。って、さっきからオレは『いやいや』しかいってないな……。

情けないというか。いやはや……」

「じゃあ、良いじゃないかしら?

それとも私じゃダメかな?

まあ、付き合ってみてダメならダメでその時にまた考えましょうよ。最初から否定するのは良くないと思うわよ。」

優羽は上目づかいからその後にっこりと笑う。普段はキリッとした感じの優羽だが、とても優しい笑顔だった。はっきり言ってこの一連の動作はとても可愛かった。これには誰も逆らえるはずがない。

「よし。わかったよ。オレも腹をくくる!

桝谷さんがここまで言ってくれてるんだからね。その、『恋人になることを前提にして友達になる』ってことだよね。

こちらこそよろしく!

いやー、それにしてもこの3日間は人生で一番びっくりした3日だわ。いろんなことを経験してきたって自負あったけどぜんぜんまだまだだな。っていうか生活に偏りがありすぎってことなんだろうな。」

「あははは。変なこと言うのね。そんなの当たり前じゃない!

なんだかんだでまだ15年しか生きてないのよ。80まで生きるとしてもまだ65年残ってるんだから。まあ、ケンカとかしちゃうかもしれないけれどこれからよろしくね!」

「こちらこそよろしく!」

そう言って、ふたりはがっちりと握手を交わした。ちょっと恋人になるような雰囲気ではなかった。まだお店に入るときのシチュエーションのほうがそれっぽかったところはある。

「じゃあ高橋君! とりあえずメアド交換しておく? アドレス教えてよ!」

「あ、そういやさっきから気になってたんだけどなんでメールなの?

もちろんメアドも教えるけど絆はやってないの? あっちのほうが連絡手段としては楽だと思うけど綾瀬さんともそっちでやりとりしてないの?」

「あ、ごめん。

私、絆はやっていないのよね。ほら、私ってガラケーだしできないのよ。」

「え? ガラケーだしできないってどういうこと?

確かに昔の機種はできないのもあるかもしれないけど最近のガラケーなら間違いなく絆はできるよ?

うちの母親はガラケーだけど俺とのやりとりは絆でやってるよ?」

「……? えっ?」

「えっ? て、まさか知らなかったとか……?」

「なっ、なに言ってるのかな?

もっ、もちろん知ってるに決まっているでしょ!」

優羽は動揺しながら赤くなりながら視線をそらしながらそれでも強がって答えた。中途半端なところでツンキャラが出てくるようである。

「あと、高橋君って部活はどうするのよ?

うちの学校は必ずひとつ以上入らないといけなかったでしょ?

さらに、掛け持ちが許されていたはず。私、手芸部には入るつもりなのだけど高橋君の入る部活にも入りたいわ。」

「ああ、部活ね。それはもう確定しちゃってるんだよね。しかも、生徒会がその権限において発足させる部活に参加しなくちゃいけないんだよね。

社会貢献の内申点を満点にしてくれるってことでね。っていうかほぼ強制的だったけどね。」

「え? 生徒会が発足させる部活?

それって特例措置じゃなかったかしら? 確か生徒手帳に……。」

そう言って優羽はもらったばかりの綺麗な生徒手帳を取り出し調べ始めた。そして目的のページを見つけるとさらに話を続けた。

「ああ、これね!

『現生徒会の全員が一致して学校に必要かつ相応しいと認める場合において部を開設することが可能である。

その場合は既存の規則に従う必要はなく生徒会にて部活動の条件を定める。

開設する部は教員による拒否はできず、これは生徒の自主性を育成するための条項である。』

ってあるわね。

高橋君。こんな特例のことをするなんていったいどんな部活をするのよ?

それに実はすごい人だったりする?」

そう言った優羽はただただびっくりして目を丸くして翔吾を見た。

「いやはやなんていうか……。

ほんとはこんなことやりたくないんだけどね。美術部か絵に関する部活やりたいと思ってたんだけど。

部活は……。」

そして翔吾の高校での部活ライフが始まるのであった。

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