“零” ᚦ
・・・・・・
「・・・・・・マリコルヌ、ギムリ、レイナール、ランス街道に向かってくれ。ぼくはラグドリアン湖へ向かう・・・・・・」
「・・・・・・ねぇ、ギーシュ隊長・・・・・・、一体これ、いつまで続くんだろうね・・・・・・」
虎街道での巨大ゴーレムとの戦い、アディールでエルフ相手の包囲戦・・・・・・学生の身でありながら数々の戦場に赴き成果を挙げ、トリステイン学院の誉れとなった水精霊騎士隊・・・・・・彼らは卒業した学院に未だ留まり、熱を増していく日々の中、方々を駈けずり回っていた。・・・・・・儀式が始まったあの日から、その空から少しずつ散り、消えていった雲や雨を補うため、日照りに苦しむ農村や町を巡るために。
「さあね。・・・・・・ほら、あと少しで日も暮れる、もうひと頑張りするとしようじゃないか」
ボソリと不満を漏らすマリコルヌを咎めることなく、努めて陽気にギーシュは答え、ゼロ戦の格納小屋を出る。・・・・・・学院の食堂に寄り、正門をくぐると・・・・・・外の草原では竜騎士たちが待っていた。
(それにしても我らが副隊長が、竜騎士たちと知り合いになっていたとはな・・・・・・)
ギーシュは思う。彼らが自ら協力を申し出てくれなければ、こうして各地の声に対応することは出来なかった。・・・・・・“フライ”で飛び回るには距離もあり、魔力も現地で水を練成するために温存しておかなければならない。・・・・・・竜騎士たちだけで行ったとしても、1人で生成できる水の量は限界があるし、事態が事態なので相応の説明や“水精霊騎士隊”“アルビオンの英雄”などの看板を引っ張り出さないと、農民たちは簡単に納得してはくれなかった。
(・・・・・・なあサイト、きみがこの現状を見たら、きっと自分のせいだと思うんだろう。でも勘違いしないでほしい。ぼくたちはきみを助けてるんじゃない、みんなまた、きみに会いたくてたまらないからこうして動いてくれてるんだ。きみがこの世界で繋がり、絆を結んできた人々がきみを助けてるんだ・・・・・・だからまた、みんなで美味いワインを飲もうじゃないか・・・・・・)
「隊長殿、次は何処へ?」
恰幅のいいルネの言葉に、ギーシュは軽く頭を下げる。
“名門グラモン家の人間が、下位の貴族に頭を下げるとは何事か!”
・・・・・・父や兄たちがこの場にいればそう叱咤されただろう。しかし、ギーシュはもうそんなことは少しも気にかけてはいなかった。
「ラグドリアン湖へ。・・・・・・それと、堅苦しい挨拶はよしてくれ、同じ友を助けたいと動いてくれる仲間だろう? 炎天下待たせてすまなかった。よろしく頼むよ」
「・・・・・・分かった、それじゃあ乗ってくれ」
促されるまま風竜の背に跨り、ギーシュは空を見る。見渡す限りの青の中、ルイズの頭上にだけ一塊の雲が浮いている。・・・・・・それはまるで世界が警鐘を鳴らし彼女を排そうと、その場所を教えているかのようだった。
・・・・・・空はどこまでも続き、人の口にはたとえ始祖であろうとも戸は立てられない。事実幾人もの人々が不満を訴えに、雲を目印にルイズの元へやって来ているし、今だって腰に手を当て怒鳴り散らす農夫に、シエスタが何度も頭を下げている。
「・・・・・・悪いが前を向いてくれるかい? そんな体勢だと落っこちるぜ」
「すまない、これでいいかい?」
ルネの言葉に、余所見をやめたギーシュは姿勢を正す。間に入ってやりたいのは山々だが、そんなことをしても気休めにしかならない。農民たちだって不作になれば生活が困窮し、果ては命に関わるのだ。必死になるのはごく当然のことだ・・・・・・
「・・・・・・ところで、差し支えなければ教えてくれるかい。どうしてラグドリアン湖へ? 水の精霊に、雨乞いでもお願いしに行くのかい?」
「・・・・・・それが出来たらよかったんだけどね。まあやることはそう変わらないよ」
「変わらないって?」
先ほど食堂から持ってきた“彼女”の協力の対価となる手土産を見つめ、続けてギーシュは苦笑いと共にこう呟いた。
「頼るのは精霊じゃなくて竜、ってだけの話さ」
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