1−3話

〜2〜

 3月1帰り道

 結局最後の別れの挨拶もできず、僕は学校から去った。

 クラスではこれからお別れ会をやろうという話になっていた。だけど、このクラスに何も思い入れのない僕にとっては、そのお別れ会に行ったところで何もない、それどころかその場にいるだけで僕は再び悪夢のような時間を過ごさないといけないことになる。

 自分をいじめていた奴らのいるところに自分から行くなんて自殺行為はしない。それどころか誘われもしなかった。

 目的を果たせないまま去ってしまったことにわだかまりを持っている反面、これから幸せな人生を彼女に送って欲しいという喜ばしい気持ちもあり僕の心はよく分からない気持ちで自分の家へ帰っていた。

「仁くん、飲み会行かないの?」

 はぁ〜、どうやら彼女に対し未だに最後の別れの挨拶をできなかったことへの未練があって、幻聴が左耳から聴こえてくる。

「……どうして無視するの?」

 すると、贅肉(ぜいにく)のついた僕の左横腹からつねられたような痛みを感じた。

「え?」

 どうやら幻聴に聞こえていた声は本当の本人の声だったようだ。

 彼女は友達に誘われてクラスの飲み会に行ったはず……。

「え? じゃないよ〜、突然どっかいっちゃうんだもん」

「い、いや〜、ところで、クラスの飲み会に行ったんじゃないの?」

「ん〜、これから一くんの家に行くの、なにか話があるみたい」

「そ、そうなんだ」

 ーチク。

 僕は心臓に痛みを感じた。この痛みはなんなのか?

「そ、そうだ」

 心臓にチクリとした痛みを感じながら、学校では言えなかった言葉を言う。

「に、妊娠おめでとう……少しこの言葉をいうのが遅くなったけど……」

「ありがとう! 本当は私から真っ先に仁くんに話すべきだったんだけど、話す前から学校に広まっちゃって……それから、仁くんとも距離ができちゃったみたいで……」

 それは僕から距離をとってしまったからだ。

 薫が妊娠した……これは僕には衝撃すぎて、そして、それを喜ぶことができなかった。

 自然とそれは行動に出ていて、薫から距離をとることになった。

「だけど、お腹の子供があの『東一(あずまはじめ)』だっただなんて、薫は最初全然気にもしてなかった相手だったのに」

「うん……」

 薫は頷くとなんとも言えな顔に一瞬なった。

 好きな相手の子供なのに、この一瞬の顔はなんだろう。

「最初は全然気にも留めていなかった……一君なんて……」

「そうか……それが今では薫の『旦那』さんだもんな」

 旦那さん、僕の口から出てきた言葉。さらに僕の心臓の痛さが増していく。

「……」

 薫は返答してこなかった。僕は彼女の横顔をちらりと見た。

 彼女の顔は……『なんとも言えな顔』になっていた。

 今まで薫とは何百とこの帰り道を歩いてきた。だけど……。

 僕と彼女の間には……重い何かがのしかかっている感じがした。

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