1−1
〜3月1
学校生活の最後の行事、卒業式を一通り終わってみんな校庭に集まる。
最後の別れをする人、友達同士で写真を撮る人、みんなと群れることなく帰る人、この最後の行事で3年間の全てが現れると言える。
もう会うことのない人達、今まで友達と思っていた人が何も告げることなく自分の元から離れる。これは今まで自分と相手の気持ちの通じ合わず、ただ相手にとって自分は外面の友達でただ話していた人形のような存在、捨てる時は捨てる。
僕はいじめを受けていた。この3年間は本当に辛いことが多く、耐えた。
本当はすぐにこの校庭、学校から離れたかった。だけど、僕は彼女に最後の別れを言いたかった。
校庭の隅に一人で突っ立っていると、自分のクラスの女教師の声が聞こえた。
「は〜い、3年4組集まって〜、最後の集合写真を撮るよ〜」
校庭の所々にクラスの集団が固まっているところがあった。
各クラス最後の別れに記念写真を撮っている。
俺は思った。なぜこのタイミングで写真を撮るのか。
この学校になんの思い入れのない生徒は帰っている。それに気づかないのか?
担任も学校では生徒をまとめる大人だが、学校を離れると男と女、一般人、キツイ、面倒を避ける。
この担任も面倒くさいことには巻き込まれたくないと思っているのだろう。
面倒なことに巻き込んでいる生徒、巻き込まれている生徒、巻き込まれている生徒の助けに耳を傾けず知らん顔をする。見ているはずなのに、見ていないふり、それも巻き込んでいる生徒のご機嫌をとるかのように、自分に面倒を飛び火しないように。
この担任はそんな面倒な生徒をこの最後の大事な行事にも見て見ぬ振り、私には関係ないと言わんばかりに、むしろ、今まで僕をいじめていた生徒と楽しそうな顔で話している。だけど、生徒に向けている笑顔も今日で最後だろう。明日からは赤の他人になるのだからと言わんばかりに。
僕はクラスの集まっている輪に行かず、ただ、見つめていた。僕がここにいるのは彼女に別れを言うためだけだ。それ以外は関係ない。
「仁くん、何してるの?」
僕は驚いた。
注目していたところとは関係のないところからいつも耳にしていたある声が聞こえたからだ。
そこに居たのはまさに、今日の目的の人だ。最後の別れを言いたい人。これから会うことのない人。
「クラスで記念写真撮るみたいだよ?」
彼女の胸元にはたくさんの花束が抱えられていた。おそらく、彼女のことを祝った人たちからもらった花束だろう。
「ぼ、僕は行かない……、それより!」
僕は彼女に伝えたい、最後の別れを、しかし、僕の言葉を遮るかのように彼女が僕の腕を掴んだ。
「ほら、行くよ」
「ちょっ」
そして、僕の腕を掴んだままクラスの輪の中に連れて行かれた。
彼女の力強い手、もう子供ではない彼女の背中、一人の大人となった女性、そう、彼女のお腹の中には……。
子供が宿っているのだから。
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