第5話 ポロリ借り物競走

 さあ、体育祭も佳境に入り、各クラスの応援も俄然熱を帯びて参りました。

 放送部による「体育祭実況生中継」。ここからは放送部部長である私、渡辺が白熱する競技の模様をお送りいたします!


 さて、次の競技は二年生男子による借り物競争。

 ここでの注目選手は、なんといってもA組の田所君でしょう。彼は同じクラスの水野さんに告白した際「体育祭で一番になったら付き合ってあげてもいい」と言われたそうです。足が速いとは言えない田所君が唯一、一番になれそうな競技。それが借り物競争! 果たして彼は見事一着となって水野さんのハートを射止められるのか!


「放送部がなんでそんなこと知ってんだよ!」


 おーっと、グラウンドで待機中の田所君からヤジが飛んできました。怖い怖い。

 しかし、田所君が熱くなる気持ちもわかります。明るい性格の水野さんは、誰からも好かれる人気者。しかもバストはGカップという巨乳美人。ナイスバディな彼女と交際したいと思うむっつりスケベな男子生徒は数知れず――


「ちょっと! なに勝手なこと言ってるのよ!」


 おーっと、応援席の水野さんからヤジが飛んできました。怖い怖い。

 そんなことをしている間に借り物競争の準備が整ったようです。各選手、スタート位置について、よーい……


 パン!


 号砲一発、各馬一斉にスタートだ!

 おっと、さっそく先頭の走者が借り物ゾーンに差し掛かった。地面に落ちているカードを拾い、そこに書かれている品物を持ってゴールへと向かう。それがおなじみ、借り物競争のルールです。

 おや? しかしトップの選手がカードを拾った直後に硬直、微動だにしません。後続の選手が追いつき、続々とカードを拾っていきますが……これはどうしたことか。やはりどの選手も硬直したまま動きません。どうした田所君! そんなことでは水野さんのハートは射止められないぞ!


 と、競技の途中ですが、ここで臨時ニュースです。

 今回の借り物カードには、校長先生直筆による「擬音」が記されているそうです。「きゅん」「シャキーン」「ネバネバ」「でろでろ」など、カードに書かれているこれらの擬音にふさわしい物を持ってゴールしなければいけません。

 なんという無理難題! 実はお茶目な校長先生、これは意外な伏兵だ!


「水野さん!」


 おーっと、ここで動きがあった! A組の田所君が観客席から水野さんを連れ出したぞ! これぞ愛の逃避行! そのまま二人、手を繋いでゴール!

 田所君、どうやら指定された借り物が水野さんと関係あるらしい。さあ、係員によるチェックが入ります。果たして田所君のひいたカードには何と記されていたのか。

 おや、どうしたのでしょう。いきなり田所君が水野さんの体操服を掴んで……。

 ――と、ここで情報が入りました。田所君のカードの内容が判明した模様です。田所君のひいたカードに書かれていた文字は「ポロリ」……ポロリです!

 ポロリ! ポロリ! ポロリ!(観客席からコール)

 さあ、水野さんの服を掴んだ田所君! Gカップの水野さんを使ってどのようなポロリが展開されるのか、全校生徒が注目しています!


 バキッ!


 ここで水野さんの右フックが炸裂だーっ! 見事に吹っ飛んだ田所君。これは予想外というか予想通りというか、個人的にはとても残念な展開だーっ!

 それでもかろうじて立ち上がった田所君。綺麗に右フックが入ったその口から、折れた歯がポロリと落ちて……ポロリと……。

 ここで審判の旗が上がった! 田所君のポロリが認められました! 田所君、見事なポロリで一着ゴール! これぞ初めての共同作業! 二人の愛が生んだ奇跡です! 晴れて二人は付き合うことになるのか、さっそく水野さんにインタビューしてみましょう。


「絶対にイヤ」


 怒ってます! 水野さん、怒り心頭です! ある意味当然の結果です! おーっと、田所君のスライディング土下座だ! 頑張れ田所君! 我々は君を応援しているぞ!


 えー、そんな田所君へここで残念なお知らせがあります。

 子供たちに競争意識を与えるのは良くないということで、本年度より順位は廃止されることとなりました。従って一番最初にゴールしても一着にはなりません。すなわちお付き合いの約束は最初から無効! 残念!

 あーっと、田所君が頭を抱えている! グラウンドをのたうち回っている! がんばれ田所君! 我々は君を応援しているぞ!


 といったところで時間がやって参りました。それでは次の競技に――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る