第1話 差出人を捜せ!

 俺の名前は高屋敷サトル。

 ミステリ研究部で部長を務めている、多少は名の知れた高校生名探偵だ。

 これまでにも俺は学園内で起こった様々な難事件を解決してきた。

 そんな俺の頭脳に挑戦するかのように、今日も新たな謎が舞い込んでくる……。


「部長、何をしてるんですか?」

 放課後の部室で一人悩んでいると、ミス研副部長のアカネ君が声をかけてきた。

 素直で快活で男勝りな彼女は、女子剣道部のエースであり、名探偵である俺の助手兼ボディーガードとして最適な人材だ。

「ちょうどいい。アカネ君、これを見てくれないか」

 そう言って俺は、問題となる封筒と便箋びんせんを差し出した。

 便箋には女の子らしい丸みがかった文字でこう書かれていた。



『高屋敷部長へ。ずっとあなたのことが好きでした。付き合ってください。A』



「あわあわあわあわ」

 文面を見たアカネ君が、何やら顔を真っ赤にしながら意味不明なことを口走る。

 ふむ。異性と付き合ったことがないという彼女には、この手紙は少々刺激が強かったのかもしれないな。

「実は、この手紙には大きな謎があるんだ」

「な、謎ですか?」

「うむ。この手紙には……差出人の名前が書いてない」

「嘘っ!」

 アカネ君は封筒をひったくると、興奮した様子で丹念に手紙を調べ始めた。

 封筒を裏返したり便箋を太陽に透かしたりして……やがてがっくりとうなだれてしまう。

「……書き忘れた……」

 アカネ君が小声で何やらつぶいていたが、俺は推理することに忙しくて、彼女のつぶやき声には露ほども気がつかなった。

「手紙の差出人が誰なのか、俺は今から推理しようと思う。そこでアカネ君にもぜひ協力してほしい」

「私がですか!」

 なぜかものすごく虚を突かれた様子で驚き、しかし思うところがあるのかすぐに「わかりました」と真顔でうなずくアカネ君。

「なんとかして気付いてもらわなきゃ……」

 何事かつぶやいたようだが、とりあえず気にせず俺は推理を開始する。

「差出人の手がかりはいくつかある。まず最初のポイントは、手紙の最後に書かれている『A』の文字だろう」

「イニシャルじゃないんですか?」

「いや、そんな簡単な暗号のはずがない。これにはもっと深い意味があるはずだ」

「部長って考えすぎる人なんだ……」

 アカネ君が小声で何やらつぶやいていたが、俺は気にせず推理を続ける。

「次のポイントは、このファンシーな便箋と封筒だ」

 便箋には、いかにも女の子が好きそうな可愛いキャラクターのイラストが描かれている。これはつまり、差出人が可愛らしい少女趣味な人間だという事実を示していた。

 そう、例えば剣道部のエースである男勝りなアカネ君とは対極に位置するような女性だ!

「ぜったい私とは対極に位置する女性だと思ってるよ……」

 アカネ君が小声で何やらつぶやいていたようだが、俺は推理に集中していて露ほども気がつかなった。

「そして最後のポイントは『高屋敷部長へ』という書き出しの一文だ。例えば後輩なら『~先輩』、同年代や年上なら『~くん』とするのが普通だろう。それが『部長』となっているということは、俺のことをミス研部長だと強く意識している人物ということになる」

「おお、珍しくまともな推理!」

「つまり、この手紙を書いた人物は……かつて私が解決した事件の関係者だ!(ばばーん)」

「なんでミス研の部員が差出人だと思わないのかな……」

 アカネ君が小声で何やらつぶやいていたが、自分の推理に酔っていた私はそんなことに露ほども気がつかなった。

「さあ、行くぞアカネ君! 過去の事件関係者を調べて差出人を洗い出すんだ!」

 そうして俺は意気揚揚と部室を飛び出した。

「部長って頭いいけどアホなんだよね……」

 後をついてきたアカネ君はなぜかがっくりと肩を落としていたが、もちろんそんな些細なことは気にとめもしない俺だった。


 俺の名前は高屋敷サトル。多少は名の知れた高校生名探偵だ。

 俺に解けない謎はない。さあ、正体不明の犯人捜しに出発だ!


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