第4話 主人の部屋
後ろを振り向くと、見覚えのない少女の姿があった。私はその子を知らない。知らないけど、何か引っかかる。
「みなか?」
祐介が言った名前は、祐介の妹の名前だろう。名虚ろな目をした少女の瞳。少女は、壁に姿を隠した。祐介は少女の後を追いかける。廊下は、祐介の足音だけが不思議と響く。
祐介の後を追い、やがて辿り着く。軋む音が響きながら、ドアが揺れている。
「ここは、さっき鍵が閉まっていた場所では?」
誘われている。そんな感じがした。
「みなか がいるはずだ! みなか!」
祐介は入る。その部屋へと。
窓からは半分の月が見えた。
部屋の中は異臭が立ち込めていた。鉄の匂い……ううん、乾いた血の匂いだ。辺りを見渡すと、月の灯りが床を照らしていた。
黒い文字で書かれていた、あの本に書かれていた魔法陣だ。牛の頭が三つ巴に互いに向き合っている絵が床に書き殴られている。
「これは……」
目の前には、小さな腕や、足が転がっていた。そして茶色の髪をした少女。……後ろに立っていた少女だろうか?
「まさか、みなか? ——みなか なのか!?」
祐介は、死体を抱いて、顔を近づけて確認していた。硬直した身体は、まるで人形を触っているかのようだった。
みなかと呼ばれた死体には、腕が無かった。右腕と左腕が。
「……酷い、誰がこんな事を——みなか!」
祐介は泣いていた。そして見渡す。もう一人、足の無い少女の死骸が転がっていた。祐介の足元には、一冊の本が落ちている。
「これは日記?」
祐介は日記を拾い上げ、ページを開いた。
8月 7日—————————————————
私は、完成させた。悪魔が扱う「犇」の呪術を。
三人の子供達を生贄に、そして私の魂を持って、「犇」の魔法は完成する。
最初に、指の綺麗な女の子から、腕を切り離そう。次に足の綺麗な女の子の足を。最後は顔の綺麗な女の子の頭と体以外を。
そして魔法陣の上で唱えるのだ。少女の悲鳴を生贄に「犇」の呪術は完成する。そして繋がるのだ。理想の身体と私の魂を。
今宵 私は、生まれ変わり、完璧な子供として残りの人生を謳歌する事が出来る。
——————————————————————
「狂っていやがる。こんなものの為に妹は殺されたというのか!?」
祐介は、読み終えると日記を閉じる。その日記には名前が書いてあった。
——四宮
私は、落ちていた出刃包丁を手に取り、祐介の背中にそれを突き立てた。
「——え?」
「思い出した。そう、私は四宮 和夫。ここの館の主人よ」
祐介は振り向いて、蒼白した顔を覗かせた。
「貴方の妹、みなかちゃんの指。とっても綺麗でしょ? 私、どこから見ても女の子しかみえないよね? だってそうでしょう? 女の子を素材にして作ったのだから」
祐介の顔が怒りに変わった。そうよね。自分の妹が殺したのが目の前に居たら、怒っちゃうよね。
——でも、容赦はしない。
手に持ったナイフで、祐介の額に力を込めて突き刺す。何度も何度も。
やがて、祐介は動かなくなった。
「……汚れちゃったなぁ」
返り血が、白のワンピースを汚していた。お気に入りの服だっただけに残念だった。そう思っていた途端、腕のミサンガが切れて床に落ちる。
「美しい笑顔……ね」
窓に映る自分の姿を見て見る。そして笑顔を作ってみた。可愛い笑顔だけど、美しい顔とは少し違う。
「……今度は、笑顔の美しい子を捕まえよう。あと胸も大きい方がいいかな? 叶うよね? ミサンガ切れたし、きっと私は美しい笑顔になれるよね?」
祐介に問いかけてみる。でも返事はなかった。
「とりあえず、お風呂に入ろう。鉄臭くて嫌になっちゃう」
部屋を後にして、ドアを静かに閉める。
——その後も、館の近くには、子供達の『神隠し』が続いたと言う。
館からは、叫ぶ悲鳴と呪文の様な言葉が、時折聞こえて来る。
‐完‐
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます