第2話 書斎
僕は、乙木 祐介。
この辺りでは、次々と子供が『神隠し』に会うのが都市伝説だ。迷信だろうと思っていたが、現に妹が『神隠し』に会っている。もう一週間も帰って来ない。
無事で居てくれてる事を祈る。そして、この辺りに無人の館があると聞いて探しに来たのだ。
誘拐されているだけならば、まだ助けられるだろうか? 不安は拭いきれない。
「怖い顔してる」
「あぁ、ごめんよ。考え事をしていたんだ」
隣を見れば、この館の鍵を持っていた少女 四宮がいる。妹と同じぐらいの12才であろうか。彼女には記憶が無いらしい。胸元まで伸びた黒い髪に、透き通る
我に返り、懐中電灯で辺りを見渡す。この館の廊下を歩いていた。
だんだん夜目がきいてくる。仄かに映る、廊下は赤い絨毯が敷かれているみたいだ。
白の壁に、黒の何かが映る。電灯を照らして見るとそれは、子供の手形だった。
「うわ!」
思わず、声を出して驚いてしまった。
「何に驚いたの?」
きょとんとした、少女の顔が僕の視界に覗き込んだ。冷静にもう一度、壁を照らして見る。それは手形の形をした、ただの汚れだった。
「祐介って、結構臆病だったりする? こんなので驚いて」
「う、うるさいなぁ。慣れてないんだよ。こんな場所」
再び歩き出すと、少しだけ開かれたドアが見えた。
「ドアがあるな」
「ドアがあるね。入るの?」
「もちろん、調べられる所は調べるつもりだよ」
木製の扉を開き、中に入る。懐中電灯の灯りが照らすのは、見渡す限りの本棚。どうやらここは書斎の様だ。
部屋の中心には、テーブルがあり、本が重ねてある。
本を手に取って見る。『悪魔学』。次々と重ねてある本を手に取り、タイトルを読み上げる。『悪魔との交渉術』『召喚魔術』『呪文の基礎』。どれも、信憑性が低い本だ。
「悪魔ねぇ」
本当にそんなものがいるのだろうか? 『召喚魔術』の本には付箋が貼ってあった。そのページをめくってみる。
犇 犇 犇 犇
気味の悪い漢字が並んでいる。この漢字は『ひしめく』か? 確か、集まるとかそういう意味があったはず。呪文の様な言葉の配列に不気味さを覚える。
その隣のページには、丸い円形の絵。その中には牛の頭を思わせる造形文字が三つ巴に互いに向き合っている。まるでそれは魔法陣の様だった。
正気とは思えない。
「
テーブルの椅子に立ち、本に顔を覗かせる四宮は、確かにそう言った。
「これが何か解るのかい?」
「何かは解らないけど……何かの呪文だった様な……」
四宮の言葉は曖昧だ。疑問だけが残る。
「祐介の指って綺麗ね」
本を持つ僕の手を、四宮は興味深そうに見つめていた。
「よく言われるよ。僕の家は皆、指が長いって。ピアニストや美容師に向く指だってさ。四宮こそ、綺麗な指をしている」
まだ小さな手なのに、凄く整っている指をしていた。指だけじゃない、足も顔も、完璧な美少女だった。
「ここに、妹の手掛かりは無い。次の部屋に行ってみよう」
僕と四宮は、書斎を後にした。
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