第四話 ベイビーベイビーエンドどこかで。



「おっはよーございまーす!」


「おー。おはよーさん。何だか知らんが最近お前元気だよなぁ」



 会社の先輩に元気に挨拶したのは深夜二時。ほとんど24時間営業みたいな業界だから出社時間は皆マチマチで、時間に関係なく自分がインしたら「おはよう」。



 オレが元気な理由はもちろん、琉依ちゃんと会える同窓会のことを考えてウハウハだから!


 もう一度会えたら、勇気を出して、今の気持ちを伝えよう。貯金は大してないし、胸を張って会える根拠なんかどこにもないけど。このまま諦めるなんて、きっと無理なんだ。



 会えると思ったら途端に会いたくて、会わずにはいられなくて。どうして今まで平気だったのかわからないくらい会いたい。一日でも早く。


 今どこで何をしているんだろう。琉依ちゃんも同窓会を楽しみにしてるかな。



 何を話そう。何から話そう。


 考えただけでドキドキするんだ。もし、もしもさ、琉依ちゃんが今も誰とも付き合ってなかったら、もう一度言うから。





 眠れない夜を何日も越えて、やっとやってきた同窓会当日。オレは時間より随分早めに会場入りしてしまった。



「よう。泉谷か」


「あ、えーと。ほら」



 名前が喉まで出かかってるようで出てこない。この眼鏡男は確か、えーと。



「相変わらずだな」



 心底ヤレヤレと溜め息を吐かれた。悪態を隠そうとしない鬼畜眼鏡は確か――



「よ……米倉?」


「米田だ」



 おしい。間違えた。



「米田。早いのな」


「幹事だからな。お前みたいにフライングしてくる奴がいるから早目に待機だ」



 涼しい顔で嫌味を言う。確か昔もこんな奴だった。



「琉依ちゃんまだ来てない?」



 幹事なら知ってるかもと思って、一応聞いてみる。米田はフッと視線をこっちに向けた。



「早瀬なら今日は来ない」


「……え、」


「欠席の返信が来ていた。……あと、これは個人的に知ってる情報だが、家族で食事会らしい」


「来ない……?」



 まるで冷水。頭からいきなりザバー。終わった、もう完全に。





 信じられない。いや、信じたくない。いつの間にかワイワイ皆が集まって同窓会は始まっていたけれど、オレは心に穴が空いてて何も頭に入ってこない。


 乾杯の音頭を誰がとったかも見ていなかった。


 今日会えなかったら、ほんとにもう会えない気がして。これから先の人生、一体何を楽しみにしたらいいかわかんなくて。久々に泣きたくなった。



 しばらくぼんやりしたまま何時間もたって、ようやくちょっとだけ頭が回り出す。家族で食事会……米田はそう言った。個人的な情報だって。



(米田と琉依ちゃん……個人的なやり取りしてるの?)



「米田くん!飲んでる?」


「今日は琉依が来てなくて残念だったわね!」



 何故か。かつての女子たちは米田を囲んで琉依ちゃんの話をする。意味がわからなくて指が震えた。


 エリートそうなスーツを着こなす米田と、貧乏人丸出しの普段着のオレ。


 琉依ちゃんに並ぶくらい頭が良かった米田と、学力平均のオレ。


 考えたら急に目眩がした。



「米田くんお医者様になったの?おめでとう!」



 凄ーいと黄色い声が上がる。





 琉依ちゃんはもしかしたらオレより米田を選んだのかもしれない。確か琉依ちゃんの親が医者だって……それも米田が言っていた気がする。


 浮かれてたオレがどうしようもなくショボくて、やるせない。



(それでも……フラレてでも。せめて一目会いたかった。せめて一言言葉を交わしたかった……)



 膝の上で強く拳を握りしめた。


 やっぱり会いたい。



「よ、米田!」



 突然大きな声で呼んだから、周りは驚いて静かになった。



「……場所、知ってる?」


「…………」



 米田は眼鏡の奥の目を、呆れたように細めた。



「お前、本当に……変わってないな」


「どこにいるか、知ってる!?」



 ヤレヤレと。首をすくめてから、失笑して呟いた。



「ベイクラシックホテルのスカイラウンジだ。多分。……その格好で行くのか?」




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