そっと花を添えれば

@kureon000

オミナエシ ※とても短い

暑い。

どう考えても今年は暑い。

まだまだ夏になりきれていないというのにどんどんとあがっていく。

気温、体温。

昼休みも終わり授業が始まる。今日は社会の授業か。ああ、こんな暑さでは居眠りすることも難しい。もともとノートなんてろくにとらないし最近目が悪くなってきた様で黒板の文字がよく見えない。

ふわり、時折吹いてくる風が気持ちいい。退屈すぎて欠伸がでそうだ…

することも無いので教室をこっそり見渡した。きちんとノートをとり、授業を受ける者が大半を占める中、こっそりなにかのワークをしている者、帰りに塾でもあるのだろうか、渡されたプリントでさっそく折り紙を折る者、こっそりスマホをいじる者、ずっと電子辞書を眺めている者、そしてずっと本を読む者。

ほんとにいろんな奴がいるもんだなあと少し関心する。

今はもう慣れっこだが、最初見たときは、潔い奴もいたもんだ…読むならもうちょっとこっそり読みなよ…確かに社会の先生はほとんどこちらを向かないからちょっとやそっとでは気づかれないだろうけれど…自分が言えたことでもないがちょっとぐらい授業を聞こうよ…と思ったものだ。自分は話は聞いている、なんとなくだけだが。

やはり暑くてしょうがない。

ふわり、また風が吹く。少しだけ揺れるカーテンは花びらのように。

視界の端で揺れるカーテンにちらりと目線を向けてみて、

ふと見てしまった。

風にゆれる髪、ひたすら字を見つめ続ける瞳、すらりと長く、白い指先ははらりとまた頁をめくる。

窓際の席で本を読む君はとても綺麗だった。

ぱちりと視界で光が爆ぜる。さっきまであれだけうざったかった暑さもその一瞬は感じない。教師の声も聞こえない。

それが何だったのかは分からない。暑さのせいだったのかもしれないし、違うかったのかもしれない。

そう、それはひと時の魔法にでもかかったかのような中三の夏になりそこなった昼下がりに。








オミナエシの花言葉 美人

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