偉業_01

 村に帰ると上を下への大騒ぎだ

 何しろ近隣が迷惑していた山賊団が完全な無力化

 捕まった一味は犯罪奴隷として(発見が早かった為、完全に絶命した者以外は薬でどうにか回復したらしい)


 結構腕とか指とか飛んでるんだけど、薬で付いちゃうんだもんな~

 この世界の薬草には魔素が含まれているらしいから、恐らくはそれが理由で魔法的な回復効果があるんだろう


 彼らの持っていた装備で無事だったものは俺の戦利品として俺に与えられることになった

 しかし傷薬などは彼らの治療に使ってしまった為、俺に渡すようなものはないという

 その代わりと言っては何だが、近隣でリーダーの首に賞金をかけていたということで賞金として金貨10枚ほどを受け取ることになった


「それでこの獣人の処遇なのですが」


 俺が見つけたケモ耳の子は、やはり奴隷だったらしい

「獣人」と言って亜人ともまた区別される存在であり、ある程度人語を解し命令を聞くことはできるものの理性が上手く働かないという

 奴隷としては非常に安く、成人でも金貨5枚、このように小さい子では金貨2枚の価値もないという


 騎士団としても村としても特に価値もないという事で、俺が預かることにした

 かわいいは正義だ、男の子でも女の子でも関係ない

 むしろこの獣耳が堪能できるんだけで・・・いや、むさ苦しいおっさんやおばさんじゃちょっと嫌だな


「む?その鎧は・・・」

「そう言えば、出て行く時は持っていませんでしたね」


 騎士団長が懐からおもむろに虫眼鏡を取り出すと


「失礼します、鑑定してもよろしいか?」


 と、聞いてきた


 特にやましいところがあるわけでなし、許可をするとめっぽう驚かれた

 なんでも、以前あの巣穴に籠もり、次の階層への階段を出した隊長たちが発見したアイテムと特徴が似ていた為、鑑定をしてみたらしい


「以前見つかったものは呪いがあったようですが、これは呪われていませんでしたか?」

「ああ、呪われて大変だったよ。被害者があいつらだけで済んだからよかったが、近づく者全てを攻撃するような非常に凶悪な呪いだった」

「なるほど、実は他の武具も似たような呪いだったのです」


 なんでも、第一階層のボスであったコシマキオオウサギと言うモンスターの残したアイテムは「兎の腰巻き」と言うそのままのもので、腰周りを守る防具だったという

 しかし、それを着けてしばらくすると不意に睡魔に襲われ、ある男がうっかりそのまま眠ってしまったのだそうだ

 男が目を覚ますとなんともうつろな目で歩き出したのだという

 その男が壁にぶつかっても直進するのを見た者が、寝ぼけているのだと思い近づくと、人間ではありえないような速度で殴りかかられたのだとか


 最終的に暴れる男を何とか押さえつけ、身包み剥いだ所男は正気に戻った

 事情を聞くと、記憶はあるが体が思わぬ方向に動き、まるで夢の続きを見ているようだったという

 教会で詳しく調べると呪われていること、発動条件が眠りにあるということが解った


 第二階層のボス、カブトオオウサギを倒した時にもまた防具が残ったという

 アイテムの名は「バニーヘアバンド」・・・なんとも人をおちょくっている

 今度は慎重に調べてみたが、どうにも呪いがあるのか判断付かない

 そこでものは試しと罪人に装着させて眠らせてみたという


 結果は最初と同じ、起きると夢遊病者のように歩き出し、近づく者を手当たり次第に襲いだした

 しかし今度はおおよその解呪方法に見当がついている為、大きな混乱もなく解呪できたのだと


「私もそうですね、自分で外せないかと試行錯誤している内に解呪できたという感じです」

「なんとっ!下級であったとはいえ騎士ですら抗えなかった呪いの中自分で装備を外すとは」


 たまたまだと言ってみるが謙遜だと躱される

 ここの連中はどうあっても俺を偉人にしてみたいようだ


「ユウヤ殿は初陣でオオアゲハの幼虫を倒し、村の戦力の底上げもし、低層とはいえ迷宮の階層を一人で開放し、あまつさえ呪いの力があったとはいえたった一人で山賊の一味を無力化した・・・これは偉業としか言いようがありません」

「数え役満かよっ!」

「は?カゾエヤクマンとは何ですか?」

「ちょっとした事が重なってとんでもない事になるってことわざですよ、塵も積もれば山となるとも言いますか」

「なるほど、どんなに小さな芋でも集まればそれなりの料理になると」

「用兵においても同じですな、農民兵でも数が居れば馬鹿には出来ません」


 ルードリッヒさんと騎士団の隊長がそれぞれ感心する


「しかしユウヤ殿、それこそ謙遜です」

「は?」

「あなたが行ったことはあなたにしてみれば「ちょっとした事」かも知れません、しかしそれ一つ一つが一介の騎士一人では行い難いことなのです。それをこの短期間にこれだけ重ねたのです・・・十分偉業でしょう?」


 もはや言い訳不能だった

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