鎧_01

 村に帰ると、そろそろ日が登り切るくらいの頃合いだった

 領主館母屋に顔を出すと、中では騎士団長とルードリッヒさんがもめているようだ


 「ただ今戻りました・・・どうしました?二人して血相を変えて」


 しれっと顔を出した俺に向かって、二人ともほっと胸を撫で下ろしたような表情を見せた

 どうやら、俺が一人で早朝に迷宮に行ったことに危険だから騎士団を出して欲しいと詰め寄ったルードリッヒさんに対し、村から出たのではないかと疑い村の外へ捜索隊を出そうとした騎士団長とで言い争いになっていたらしい

 ちなみに情報源はナズナである


 「いくらなんでもここまで泊めて貰った恩も忘れ、折角頂いたナズナまで置いて黙って村を出たりしませんよ」

 「それはそうですが、ユウヤ殿は自由人ですからな。ふらっとここに来た以上ふらっと出て行くこともあるやもしれませんし」


 騎士団長の言い分にそれはそうかと返しつつ


 「そういえば、ナズナはずいぶん落ち着いていたようだが」

 「ご主人様はお忘れのようですね」


 と、言うと、すっと俺の前に一枚のカードを出してきた


 「あ・・・」

 「これを使えば、どんなに離れていてもパーティ構成員の状態は把握できるんですよ?」

 「そんな便利機能がある事自体を知らなかったよ」


 そういえば出て行く前にパーティを解除するのを忘れていた

 流石に魔素の分配機能は離れすぎると起こらないようだが、これを使われるとどんな状態か丸分かりらしい

 そしてナズナはいつもの呆れた声で


 「ご主人はいつの間にかジョブが変わってるんですよねぇ・・・」


 物凄い弱みを握られてる気がしなくもないが気にしないでおこう

 弱みと言ってもバラされて困ることでもない

 これを「内緒にしてくれ」とでも言った日には一気にこっちの立場も弱くなるけど












 俺は手荷物がいっぱいになっていることを告げ、ナズナに整理を頼んだ

 ナズナは預けた袋からドロップを種類別に分けて整理してくれたが、何かに気付いたようでアルベルトさんに相談していた

 すると、アルベルトさんは奥からなにか持ってきた


 「ユウヤ殿は保管袋をお持ちで無いようですね、ナズナがせっかくの肉が傷んでは困ると進言してきましたよ」

 「保管袋・・・ですか?それはどう言ったものでしょうか?」

 「そうでした、記憶が無いのでしたね。保管袋とは生鮮食品を劣化させずに長期保管するための袋でして、魔具の一種です」

 「魔具・・・魔道具とは違うのですか?」

 「魔道具は人が魔力を供給して初めて効果を発揮するもので、魔具は大気中から魔力を確保して発動します。大きな魔力を得る力が無いため影響力の低い魔法しか発現できませんが、その代わり現在魔法で再現できない現象を発現できます」

 「他に何か違いはあるんですか?」

 「大抵の魔具は製法も失われて再現することさえ叶いませんが、この保管袋のように現在でも再現できるものもあります」

 「なるほど」

 「ただ、保管袋は作成者の技術や能力により大きく性能が左右されます。例えばこの保管袋ですが・・・実は食料のみ1種類辺り100個ほど入れることが出来ますが、3種類ほどしか入れる事ができません」


 所謂「アイテムボックス」系の魔法の道具か

 他にも貴族の屋敷には暗くなると周囲が満月の夜くらいの明るさになる魔具やそよ風を発生させる魔具もあるらしい

 電化製品ならぬ魔化製品とでも言うべきか


 「オオウサギの巣穴であればこれをお持ちになるといいでしょう、重さも変わりませんから嵩張りません。持ち帰って頂いた分は袋ごと買い上げさせていただきますので」

 「これは同じものを300とか入れることもできるんですか?

 「は?・・はぁ、可能ですが、そこまで籠もるおつもりですか?」

 「いえいえ、たまたまドロップが重なって100を超えたらもったいないと思っただけですよ」

 「そうですか、これからお出になるのであれば、なるべく日の沈む前にお帰りになられるようお心がけ下さい」

 「え?・・いやそこまで籠もる気もありませんでしたが何故?」

 「そろそろこの辺りに迷宮から出てきたオオウサギを狙った山賊が来そうなんですよ」


 山賊?

 普通山賊とか盗賊って村狙うんじゃないか?

 なんでわざわざオオウサギを


 「村は昨日から騎士団が来ていますし、オオウサギも大抵狩り尽くしました。もし奴らが狙うとすれば迷宮から出てきて肉や皮を持っているであろうユウヤ様を狙うのではないかと」


 なるほど

 連中も普段は商隊や旅人を狙っているが、それだけで生計は立てられない

 だからオオウサギを狩るわけだが、それすらも居ないとなると村を襲うという選択肢が生まれる

 しかし村には騎士団が来ているから迂闊に手を出せない


 だから油断しているであろう迷宮から出てきた人間を狙うってことか

 迷宮から出たばかりでは回復も覚束ないかもしれないしな


 「わかりました、なるべく日の高い内に出るようにします」


 時間わからないけどな


 「それにしても、なんで迷宮に入って狩らないんですかねぇ?」

 「迷宮は定期的に騎士団が入って掃討しますからね。表にオオウサギが居ないということは騎士団が中にいる可能性もありますから」

 「なるほど」


 得心がいった

 でも・・・


 「冒険者の振りすればいいだけなのに」

 「そう言えばそうですねぇ」


 なんでわざわざ事を荒立てたがるのかがわからないのは日本人だからだろうか?

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