魔術師_02

 オオウサギの巣穴

 これから入る迷宮に付けられた名だ


 何故そんな名が付けられたかというと、この迷宮の性質が理由だ


 この迷宮は、他の迷宮には無い性質がある

 他の迷宮では階層ごとにモンスターが変わるのだが、この迷宮はオオウサギしか出ないらしい

 この迷宮は三階層まで攻略され、その間オオウサギしか出なかったのだという


 またこの迷宮は自然の洞窟の入口に生まれた為、見た目が巣穴の様なのだ


 そういった理由でこの迷宮は「オオウサギの巣穴」という名前で、都からも冒険者が来るような有名観光地になっていると騎士団の人に聞いた

 観光地になっているだけあって、騎士団が定期的に来なくても定期的に冒険者が来てくれるというかと言うとそうではなく

 オオウサギ自体が初心者向けのモンスターでドロップも安いので、本当の初心者が偶に来るだけらしい


 本当の初心者である俺には最適だろう

 ソロに向いてるかは知らないけど


 迷宮に入ると不思議な感覚に襲われた

 次元の壁を潜ったということだろう

 あのオオアゲハの幼虫が出てきた迷宮もそうだが、あの穴は完全に二次元の存在だった

 と、言うか裏から見たら何も見えなかったくらい・・・あの一部分からだけしか認識できない存在だ

 しかしそこからは完全に立体のモンスターが出現し、実際に中に入れ、中はこの様に広がっている

 まさしく次元の穴としか言いようがない


 「で・・・ここからどうするか」


 中には大量のオオウサギが待ち伏せしている・・・なんてことはなかった

 この辺りは予習の為にルードリッヒさんから借りた迷宮の手引の知識通りだ


 曰く、迷宮は強い生き物を求めている為、迷宮の中で育てる傾向にある

 その為、入ってすぐ殺されるということはない


 曰く、迷宮は階層によってモンスターの群れの数を制限する

 階層における群れの構成数によってその全体の階層数がわかるとされる

 ちなみにこの迷宮の総階層数は五階層ではないかと言われている


 曰く、一度その階層のモンスターを全滅させると階段が現れる

 それ以降階段は出たままになるらしい


 曰く、迷宮を進むと迷宮の核が出てくる

 核を奪われた迷宮は第一階層を残して消えるという

 残った第一階層はモンスターを生み続けるが、一定数を超えて生むことはないらしい

 この状態でモンスターを狩ると吸収できる魔素は通常より少なくなり、残った魔素は迷宮に蓄えられ、新たな核を生み出す糧となる様だ


 この核を放置するとまた階層が増えていくので、やはり定期的に確認をした方がいいのだとか


 どうやら、この世界で迷宮を完全に消すことは出来ないらしい

 もしかすると何か方法があるのかもしれないが、おそらくはこの世界に俺のような人間を送り込んだ奴の差金かもしれないので、期待するだけ無駄だろう


 まさか世界崩壊の原因・・・いや、無いな

 あの手紙を書くような意地の悪い奴がそんな殊勝な奴とは思えない

 むしろそう言った理由だとすればそういう崩壊の予定のある世界に放り込んで足掻く様を見て楽しんでいる可能性すらある


 まあ良いさ、どうせ野垂れ死ぬつもりだったんだし


 少し進むとオオウサギの姿が見えた

 ちょうどいい、せっかく魔術師をセットしたんだし、魔法を使ってみよう


 「スキル」と念じてみると、一刀両断が出てきた・・・というか一刀両断を含むボーナススキルしか出てこない

 アクティブスキルでないということは無いはずだし、アプローチが違うということか?


 着火の指輪の時は指輪に集中することで魔法が浮かんできた・・・とりあえず「魔法」と念じてみる


 魔法

 初級攻撃魔法 初級防御魔法 初級生活魔法


 こっちか!

 「初級攻撃魔法」と念じてみる


 初級攻撃魔法

 火矢 石矢


 え?2つ?

 レベルが足りないとかそういう事か?

 とりあえず火矢と念じてみよう


 ボォォォッ


 俺の傍らに炎に塊が生まれる

 火の矢というより礫という感じだな


 標的を指定・・・発射っ!


 シュバァッ!・・・ドッ!!


 オオウサギに当たった!!

 ・・・が、あまりダメージを受けた様子がない

 鑑定をするが、黄色にすらなっていない辺りやはり大きなダメージはなかったようだ


 だがそれも計算のウチ

 こっちに気付いたオオウサギを迎え撃つためエクスカリバーを構える

 こっちに着くまでにはまだ時間もかかる・・・試しに生活魔法を見てみる


 初級生活魔法

 着火 水生成 送風


 こっちは三属性か

 試しに着火を使ってみる


 ボワッ


 オオウサギに向かった火線の先に、拳より小さめの火球が生まれたのが見えた

 大きさから言って多少は大きいかもしれないが常識の範囲内だ

 MPの減りは火矢と同じくらいだったか?

 数値化されていないからよくわからないが、鑑定してみるとまだ黄色に変わっていない

 同じ熟練度の魔法が殆ど変わらないのに騎士団が火矢の魔道具を10倍もの大金で使っている辺り、着火の魔法の効率は驚くほど悪いんだろう

 よくそんな魔法でオオアゲハ倒したな、俺


 そうこうしている内にオオウサギが目の前に来た

 剣での戦いはこの数日でしっかり身に付いた

 危なげない一閃でオオウサギを切り伏せると、改めて迷宮を見てみる


 入ってすぐは余裕がなかったが、今見てみると不思議な雰囲気だ

 「暗視」のおかげかまるで真昼のように明るく見えるが、松明のように時折大きな光源を感じる辺り恐らく実際には薄暗いのだと思う

 壁面はぬめっと言う質感で、光源の光を反射しているのがなんとなく分かる

 ちょっと触る気になれないので硬いかどうかまでは分からない


 壁は見た目に平面で、隠れるような凹凸は無く

 幅は人間が三人並ぶのが精一杯といった感じだ


 前衛が二人居れば後衛に敵を流すことはない、中衛が中央を抑えればほぼ完璧だ

 なるほど、この狭さなら6人居れば十分か

 この世界の常識では、モンスター1匹に一桁レベルの冒険者でも数人がかりだから、これでいいんだろう

 後気になるのは・・・フレンドリーファイヤーだな


 何しろ狭い、物理攻撃でもよほど連携が取れていないと味方を攻撃しかねない

 魔法とか追尾があるのかもわからないし・・・着火は直接その場に火が点くから問題なさそうだけど

 まあ、そんなことは仲間ができてからだ

 とにかく俺は秘密が多いから、それをバラさないような奴じゃないと仲間にできない


 奴隷・・・と言うのは難しいな

 この世界逃げようと思えばいくらでも逃げられる、その正当性が認められるかはともかく

 大枚はたいて奴隷を買った挙句迷宮で殺されて「私は主人を助けるために逃げてきました」とか言われても普通は運良く生き返る保証など無い

 むしろ俺が死なないことがバレ、結果何者かにバラされる可能性もある

 信用出来ないのは変わらないわけだ


 何も教えなければいいかというとそうでもない

 ナズナは既に俺の異常っぷりに気付いている

 教えなくてもバレるくらい異常なわけだ


 まあ仕方ない、しばらくはソロでやるしか無いな

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