奴隷_02

「ふう・・・」


 何とか読み終わった・・・というか書き写し終わった

 写本を作ること自体は問題ないことを確認したので、メモ用の紙とペンを用意してもらった


 本自体は非常に分厚かったのだが、鑑定を使って読んだところとんだ拍子抜けだった

 まずこの本は図解入り・・・言ってみれば図鑑だった

 ページの半分をその職業を表す図解で占め、残り半分に取得条件とされているいくつかの点と職業のスキルや特徴が文字で書かれている

 そして向かいのページに書かれているのは、その職業を持った人間の逸話や伝説だ


 この本の紙が分厚いのもまたこの本が厚い原因だった

 羊皮紙・・・は見たことがないのでわからないが、何かしら動物の皮をなめして作ったらしい物を糊で貼り付けて1枚にしている

 二つ折りにしたものを糊付けで一枚にし、それをさらに折りたたんで中とじの要領で糸を通し、それで4ページ

 これをひたすら横に並べて、とじ込みに使った糸を縦糸とし、そこに横糸を通して全体を一冊にまとめる

 その背の面を平らに揃えたところに糊付けをした布を貼り、解れにくくなるようにした後全体を薄い木のカバーで覆う

 材質や手法に若干の違いはあるが、古い本の綴じ方そのものだった


 そして俺が今使っているこのメモ用紙・・・これは植物の繊維を使ったものだ

 和紙とは異なる感触なので、もしかするとパピルスかもしれない

 こういったものの定番、使い捨てはパピルス、保存用は羊皮紙というやつだ


 印刷方法は活版ではないように見えた・・・もちろん写真製版ではない

 ・・・版画だ

 素材まではわからないが、まず間違いなく版画だろう

 大きな4ページ分の版木を作ったのか、4枚の版木を順序正しく位置も間違えず貼ったのかはわからないが、この印刷のカスレ具合などを見るに版画以外に考えられない

 他の理由は文字だ

 ちょっと羊皮紙の切れ端を貰って書かせてもらったが、この世界の羊皮紙とペンではここまでなめらかな線が書けない


 まあ、ここまで言ってて実は手書きでしたとか言われたら恥ずかしいんだけど


 そんな感じで作られた本なので、ちょっとした月刊誌ほどの厚みがあるのにもかかわらずページ数は本文だけで64ページしかなかった

 見開きで紹介しているから31種類しか載ってない

 これで全部なのか、もっと他にあるのかは分からないが結構な数だ


 まず「村人」だが、これは基本的にどこで生まれようと「村人」のようだ

 「村人」の条件は、他の基本ジョブの条件を満たさず10歳を迎えたものらしい

 「村人」以外の基本ジョブは「農夫」「狩人」「旅人」「貴族」がある


 まず「貴族」だが、これは特別な洗礼を受ける必要があるらしい

 洗礼は妊娠中に受けるため、市井でお手つきにあった隠し子のようなものは「貴族」になれない場合が多い

 次に「旅人」だが、これはさっき聞いたとおり、職業に就く前にふらふらと定住しなかったものに就くようだ

 これが俺たち外から来た人間全員に当てはまるのか、それとも俺のようにふらふら定住できなかった人間に当てはまるのかは不明だ


 「農夫」と「狩人」は言うまでもない・・・親の仕事を手伝うことで成るようだ


 もちろんこれら基本ジョブに後から成れないわけではないし、これらは「基本」とは言ってもこれらから独自に派生するジョブなどはないようだ


 次に派生ジョブというものがある

 基本ジョブがLv5になることでなることができる専門職だ


 派生ジョブは「戦士」「商人」「僧侶」「魔術師」「盗賊」だった

 「盗賊」は犯罪者なので正確には派生ジョブとは言いづらいのだが、基本ジョブがLv5を超えてから犯罪を犯すと強制的に「盗賊」にされるらしい

 それ以前に犯した犯罪は半人前だったということで黙認されるのだろう


 派生ジョブには上位ジョブがある

 上位ジョブは派生ジョブLv30が条件になる

 「戦士」には「騎士」「賞金稼ぎ」

 「商人」には「鍛冶師」「薬師」

 「僧侶」には「司祭」「神官騎士」

 「魔術師」には「魔導師」「魔道具師」

 「盗賊」には「怪盗」「詐欺師」


 その他にあるのが特殊ジョブだった


 「決死兵」

 死を覚悟してカウンターを打ち込む事で資格を得る

 カウンターの成功率が上がる


 「剣闘士」

 剣のみで戦い続けた戦士が資格を得ることがある

 剣による戦闘でクリティカル発生


 「剣豪」

 熟練の剣闘士が資格を得ることがある

 一度の攻撃で数回打ち込む事が出来る


 「大魔導師」

 熟練の魔導師が資格を得ることがある

 一度に複数の魔術を使える


 「英雄」

 偉業を為した時に資格を得ることがある

 神の加護を得ると言われる


 「領主」

 王によって任命される

 領内の人事権を持つ


 「村長」

 領主によって任命される

 村内の人事権を持つ


 「教皇」

 王によって任命された熟練の司祭

 蘇生の術を使うことが出来る


 「将軍」

 王によって任命された熟練の騎士

 兵の士気を上げる


 「大店」

 王と取引をした事のある熟練の商人

 取引による信用を得る


 「頭目」

 熟練の盗賊が稀に資格を得る

 引き際を知る


 そして最後に・・・


 「自由人」

 条件は不明

 一般的に、多くの職で熟練した者が稀になる事があるとされる


 この世界で「多くの職業で熟練」って非常に厳しいんじゃなかろうか?

 とにかく最後に書かれたこの職業だけが詳細が不明とされていた


 コンコン


「どうぞ」

「失礼します」


 返事をすると、扉を開けて入ってきたのは小柄な少女だった


 ナズナ 奴隷

 村人Lv1


 奴隷・・・この本の最初のページにもあった

 この世界における階級の一つだ


 この世界には職業の他に階級が存在し、基本ジョブの「貴族」「村人」等は本来階級になる

 一般的に街以外何にも縛られない階級が「村人(平民)」、貴族社会に入る義務が発生する「貴族」、国を統べる義務を持つ「王族」

 そして何者にも縛られない代わりに一切の庇護を持たない「自由人」と主人の庇護以外何も持たず全てに縛られる「奴隷」だ


「お食事の用意が出来ましたので食堂へどうぞ」

「ありがとう」


 ぱっと見10歳くらいに見える・・・俺より小柄な少女だ

 ここまでで所謂「亜人」と言う物を見ていないから、本当に見た目通りかも知れない

 素朴な感じでかわいいが、美少女と言う感じではない


 食堂に着くと、俺が助けた老人とあの時老人を支えて一緒に逃げた使用人がいた


 アルベルト

 領主Lv20


 セリ 奴隷

 村人Lv3


 アルベルト老人が意外に強かった・・・が、あの時の様子では武器が無かったとか体力的に厳しかったと言うことだったんだろうか?

 そして使用人の女性は奴隷だった

 この世界では、使用人階級は奴隷と言う事なのだろう

 まあ、平民より下の階級はどうしても奴隷になるよな


「この度は助けていただき、ありがとうございます。なにぶんこの老体で武器もろくに持てませんでな」


 手を見ると若干震えている

 あれでは食事はともかく戦闘は無理そうだ


「護衛も居たのですが、不意に横から馬車を襲われ、態勢を立て直す前に護衛もやられてしまったのです」

「それは災難でしたね」


 一撃か二撃かしらんが、いくら不意打ち直後とは言えあれに遅れを取る護衛って何だよ

 心臓でも一突きされたのか?


「普段はオオアゲハの幼虫など出ないのですが・・・恐らくこの付近に迷宮が現れたのでしょう」


 迷宮と一体何の関係が・・・と言うか現れたって・・・

 いや、そう言えば読んだ事があるな、こんな作品


「普段はどんなモンスターが?」

「普段はオオウサギくらいですね」

「オオウサギはオオアゲハの幼虫より弱いんでしょうか?」

「弱いというよりは与し易いというべきでしょうか。間合いが短い為、避けやすく攻撃しやすいのです」


 なるほど・・・オオアゲハの幼虫は体高1mもある巨体だが動きもそれなりでその上中距離攻撃がある

 オオウサギがどのくらいの大きさかまではわからないが、至近距離なら反応しやすく反撃も通りやすいと


「まあ、オオウサギと言ったところで犬くらいの大きさでしかありません。攻撃手段が単純な分素早く小回りも利いて攻撃が当てにくいというデメリットも有ります」

「なるほど、それでもオオアゲハの幼虫に比べれば・・・」

「はい、護衛もいくら身動き取れないとはいえ一撃で死ぬことはなかったでしょう」


 一撃だったのか

 運良く脇腹だったから助かったようなもんだな・・・昔だったら耐えられないほどの激痛ではあったが、虚弱が解消するだけでこんなに頑丈になるのか


「そこで・・・なのですが、命の恩人にお礼をと思ったのですが受け取っていただけますでしょうか?」

「物による・・・としか返答できませんが」


 あまりに過分なもの・・・この村での住居とか、そういった物でなければ受け取って損はないしな


「よかった・・・ナズナ、こちらへ来なさい」

「はっ!・・・はい」


 なんだろう?寝耳に水と言った感じのリアクションだけど


「このナズナをあなたにお譲りしたい」


 え・・・今なんと?

 男の自由人に女の奴隷を進呈って・・・

 もしかしてそういうこと?

 R-18的な何か?


「旦那様!?私そんなこと聞いていませんよ?」


 口答えできるんだ・・・


「いいか、よく聞きなさい。私はこの方に命を助けていただいた、セリも同様だ」

「はい・・・」

「しかしこの方は大層な剣を持った旅人だ、あの剣に引けをとらないほどの価値となればこの村での居住権と家くらいしかない、しかし彼は旅人だ、それは重荷にこそなれ礼にはならないだろう」

「・・・・・・」


 いや、まあそうなんだけどさ


「それには若干劣るとはいえ、奴隷はひと財産だ。私の手元にはお前とセリしかいない。セリは私とともに墓に入るから残りはお前しかいないのだ」

「そんな・・・」

「お前は私の死後息子に相続する予定であったが、ルードリッヒの了解も得ている、どうか耐えてくれ」


 酷い言い分だ

 要するに助けられた自分の裁量で用意できる礼がもはやナズナしか居なかったということなんだろう

 つまり・・・渋る原因は顔だよな

 身分も安定した領主の下働きと旅人の同行者では生活レベルも落ちるわけだし

 俺でも嫌だな、それ・・・なんの罰だよ


「待ってください」

「どうなされました?ユウヤ様」

「お聞きになられたかもしれませんが、私には記憶がありません」

「はい、それは息子から聞きましたが」

「そんな私がこの村に永住することは無いにしても、旅立つには準備が必要です。知識も、経験も足りません」

「と、言うと?」


 満を持してこう言わせてもらおう


「この近くに迷宮もあるようですし、もしナズナさんを私に譲ってくださるというのであれば私と共に迷宮に入っていただくことになりますが、それでもよろしいでしょうか?」

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