奴隷_01

「父を助けていただいたそうで、ありがとうございました」


 ルードリッヒと言う男性が俺に礼を言ってきた

 どうやらあの老人は彼の父親だったようだ


「いえ、自分もたまたま居合わせただけですぐに逃げるつもりでしたから」

「そうですか?・・・ではその手に持っているものは」


 目ざといな、臭い袋に気付かれた


「偶然相手の体当たりにカウンターが決まりましてね」

「いや、お強い。確か父が襲われたのはオオアゲハの幼虫だったはず、その臭い袋もそれを証明しています」

「この剣のおかげですよ・・・」

「ふむ・・見せていただいても?」

「ええ」


 エクスカリバーを渡す

 あれ?これ盗まれたらどうしよう

 あれが無いと俺ただの不死身の化け物なんだけど


「これは・・・大変良いものですね」

「お分かりに?」

「ええ、もしこれが贋物で無いとすれば、かの伝説のエクスカリバー・・・の、模造品です」


 それ贋物っていわね?

 「本物の模造品」ってのも変な言葉だ


「以前大変高貴な方に見せてもらったことがあります。偉大な剣を模して作られ、近しい能力を持たせる事に成功した良品です」

「本物と言う確証は?」

「あのオオアゲハの幼虫を倒したのです、半端な武器では無いでしょう。失礼ながら見たところ特に筋肉が付いている様子も無い、もしおっしゃる通りに一太刀二太刀で屠ったと言うのであれば疑うべくもありません」


 つまり、筋骨隆隆なら並の剣でも倒せたろうが、俺程度なら何度も切り付けないと無理だろうと

 剣の汚れ具合、刃こぼれ等を見れば言ってることも間違っていなさそうだと


 間違ってなさそうなだけに悔しいな


「その怪我にしてもそうです。服に風穴が開き、生乾きの血も付いている・・・しかし今はピンピンしている」

「それが?」

「傷薬を持っていてもそうは綺麗に直りません。恐らくさっき怪我を受けエクスカリバーに因って回復したのでしょう」

「そんなことまでわかるのですか?」

「オオアゲハの幼虫は珍しいですが、オオアゲハの幼虫に殺された人間は何人も目にしています。彼らはあの触手に因って身体に穴を開けられ、そこから体液を啜られて絶命します」


 想像しただけで体が震える


「大体の者が攻撃を受けただけで動くのも億劫になるほどのダメージを受けます、しかしある程度熟練者になれば攻撃を受けることすら稀です」

「そうですか・・つまりそれだけわたしが未熟だったと言うことですね」

「いえ、恐らく初見で対応の仕方を知らず油断していたのでしょう・・・普通より遠くまで攻撃が出来ますからね」

「確かに、想定外の間合いからで不意打ちを食らいました」

「しかしそこからエクスカリバーの能力だけでここまで回復した・・他に目立った怪我も無い。十分にお強いと思いますよ」


 落としてから上げるか・・・なるほど、領主だけあって人心掌握術に長けているようだ


「ここではなんです、村でお休みになってください。・・・ではあなたたちはこの荷物を頼みます」

「はい」

「了解です」


 農夫たちのレベルは(俺から見れば)高かった

 最低でLv5、恐らくそれ以上じゃないと間違って一撃食らっただけで戦力外になるんだろう


 村に入ると、念の為にと身分を改められた


「旅人Lv3ですか・・・やはりオオアゲハの幼虫をまぐれででも倒すにはそれくらい無いと」

「そう言うもんですか」


 実際に倒した時はLv1だったんだけども


「失礼ですがお歳は?」

「すいません、実を言うと記憶が無いんです」

「なんと・・・」


 情報を得るためには記憶喪失の振りをするに限る

 実際にこの世界の常識を何一つ知らないんだ

 こんな装備を持っているのにそんな根本的なことも知らない・・・怪しいことこの上ない


「なるほどなるほど・・ではお聞きになりたいことなどありますか?」

「ではお恥ずかしながら・・・レベルを上げるのにこの辺りの方はあんな大物を倒しているんですか?」

「あんな・・・オオアゲハの幼虫ですか。あれは例外中の例外です」

「と、言うと?」

「魔素と言うものをご存知ですか?」


 魔素・・・作品に因って解釈が違うから一概に言えないな

 ここはとりあえず考える振りをするか


「そこも覚えては居ませんか、魔素とは命の根源といわれています。どんな生き物にもあり、小さいうちは虫を殺して体内に取り込むとも言われています」

「つまり、子供の内にいつの間にかレベルが上がってるなんてこともあるわけですか?」


 村の子供Lv30とか居たらなんか凄いんだか凄く無いんだかよくわからないな


「いえいえ、そこまでは・・・一人だけ10歳でネズミを殺した時にレベル上がった子が居ましたね、そう言えば」


 普通は村人Lv1として認識されるようになってからネズミで100匹、鶏で50匹殺すまでレベルが上がる事は無いらしい

 Lv1~Lv2までの経験値を蚊を1として計算すると、どんなに小さくてもネズミは蚊の100倍くらいの大きさはあるだろうから、100*100で10000以上の経験値(魔素)になるのか

 どう言う計算になっているかはわからないが、俺が今Lv3なのは間違いなくオーバーフローによるものだろう

 となると、これからモンスターを中心にレベル上げをするなら獲得経験値か必要経験値のレベルを下げ、家畜を中心にするならこのままで行くべきかも知れない


 家畜を殺しまくってレベル上げとかまさしく鬼畜だな


「他には・・・決死兵という言葉に聞き覚えは?」

「特殊ジョブですね、死を覚悟して敵に立ち向かうことで閃くと言われています」

「閃く・・・とは?」

「頭の中にこう・・閃くのです、それによって職業選択所で就ける職業が増えます」

「職業選択所・・・そう言うものがあるのですか」

「職業選択所に行かなくても就く事が出来るジョブもあります、それが基本ジョブと言い、彼らの農夫やあなたの旅人なども基本ジョブの一つです」

「基本ジョブ・・・ですか」

「はい、この世に生を受けて10年経ったとき最も適した基本ジョブに最初からついているのです」


 なるほど


「農家の子供は小さいうちから農家の仕事を手伝うため農夫になりますし、職についたときに根無し草のように引越しや旅を繰り返していると旅人になります」

「つまり私はひと所に留まる事の無かったような出自だったということですか」

「そうかもしれませんね」

「他の職業について知りたいのでしたら・・・本は読めそうですか?」

「まず見せていただかないと判断が・・・」


 何を当たり前の返答させるかね


「でしたらとりあえずこれを見てください」


 言われて鑑定を発動する、これで文字が読めるはずだ


「職業条件一覧?」

「おお、お読みになれますか。でしたら一先ずこれでお調べください」


 おそらくこの世界では識字率が低いんだろう

 もしこれを読めないのであれば誰かが変わりに読み聞かせなければならない・・・だから確認したのか

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