初陣_02
しばらく感慨にふけっていると、遠くから叫び声が聞こえたような気がした
そう言えば俺は少しだけ人より音に敏感だったはずだが・・・(理由は目が悪かった所為なんだが)
おそらくこの手紙の内容を考えるに、聴覚自体は人並みのはず
それでも聞こえるほど近くで叫び声が聞こえたと言うことか
ならばと周りを見渡すと、また叫び声が・・・微かだが向こうだ・・行ってみよう
方向は集落とは反対側、街道の先のようだった
ちょっとした坂を越えるとそれははっきりと見えた
老人と使用人らしき人物がモンスターに襲われていた
モンスターは・・・芋虫?
そう、アゲハ蝶の幼虫を大きくして口から職種をうねうねと出したようなモンスターだった
鑑定を試みるが、距離が離れ過ぎているのか全く出てこない
とにかく近づいてみる
お?足が軽い・・すっと走る事が出来る
これが「虚弱」を克服したと言うことか
そう言えば俺のコンプレックスに「鈍足」は無かったな
元からそんなに遅かったつもりは無いんだが明らかに以前より流れる景色の速度が違うような・・・
そんな事を思っているうちに老人の前に着いた
一応確認をしておくか
「こいつに襲われてるのか?」
いきなり現れた俺にびっくりして硬直している二人に向かって声をかけると、老人の方が返事をした
「た・・頼む、こいつがいきなり森から出てきて襲ってきたんだ。既に馬車も襲われて馬が逃げ出してしまった」
よく見ると馬車の成れの果てらしき残骸がもう少し先に見えた
おそらく命からがら逃げたものの、息が切れて追い詰められたんだろう
「分かった、どこまで出来るか分からないがとにかく少しでも村の近くに向かってくれ・・・出来れば応援を呼んでくれると助かる」
「わかりました」
俺の言葉に、今度は使用人らしき女性が応えた
彼女は足がもつれる老人を支えて村の方に歩いていく・・・俺は少しでも時間を稼げればいいはずだ
まあ、もし危なくなっても「死亡回避」があるし
むしろその「死亡回避」の現場を見られる方が危険だ
エクスカリバー(模)を構えると鑑定を試みた
オオアゲハの幼虫 Lv1
え?名前しか分からないよ?
ほら、攻撃方法とかさ、使用スキルとかさ、弱点とか耐性とか色々あるじゃん!!
いくらなんでもこれは無いだろ、何のために合計10ポイントも使って鑑定Lv4にしたと
シュバッ!
焦っている隙にオオアゲハの幼虫が攻撃を仕掛けてきた
長い触手は中距離攻撃が出来ると見るべきか、2mは離れていたはずなのに横っ腹を打ち抜かれた
うう・・かなり痛い
自分の状態を鑑定できるか試してみると、何か赤いオーラを纏った様に見える
まさか・・・これは瀕死と言うサインなのか?
考えてみれば俺はまだ旅人Lv1だ
HPなどその辺の村人と大差ない・・・下手するともっと低いだろう
そんな俺が馬車を破壊したモンスターから、触手一本だけとは言え攻撃を受けたわけだ
ダメージは推して知るべしだろう
しかし俺の手元には薬草などの回復手段が無い・・・いや、一つだけあったか
「蘇生」
「死亡回避Lv2」のスキルだ
HPが1を切る・・すなわち絶命する事でHPが100まで回復する
デスペナルティがあるかまでは分からない・・・だがどの道Lv1だ、経験値的なデスペナなら貰っても問題ないだろう
俺の現在の最大HPがいくつかまでは知らない、だが1回も攻撃出来ないほど少ない数字でも無いだろう・・・なら俺はそこに賭ける!!
エクスカリバーを正眼に構え、オオアゲハの幼虫を見据える
攻撃の隙など探しても見つかるはずが無い、俺に格闘技の経験は皆無と言っていいしな
喧嘩をすれば虚弱体質の所為で全戦全敗
体格の所為で大柄な相手から逃げる隙を窺う能力は身についた・・・避ける能力があれば避けられない事はない
強い近視・乱視の所為で気配に頼って行動してきた
避けるだけなら油断しなければ大丈夫だ・・・そう自分に言い聞かせる
再度触手が来る・・今だ!
シュバッ!
俺を狙った触手を掻い潜りエクスカリバーを振りかぶってオオアゲハの幼虫を袈裟切りにする
手応えはあった・・・だが弱い
一気に走り抜けて相手を見るが、死んだようには見えない
鑑定を使って自分と相手を見る
自分は赤から黄色に変わっていた・・・オオアゲハの幼虫はさっきまでは無かったオーラを纏っている
色は黄色だ
つまり、俺は瀕死の状態からHP吸収でそれなりに回復した状態になり
オオアゲハの幼虫はさっきの攻撃で今の俺程度の状況にはなったと言うことか
HPは大幅に削られているようだが瀕死ではない
つまり今の俺ではエクスカリバーの防御半減を使ってすら二回以上・・場合によっては三回以上攻撃を当てないといけない相手だと言うことだ
どうする?マインドブラストを使うか?
いや、ここにはこの後村人による応援が来るかもしれない・・・おかしな物は見せるべきじゃないだろうから見られる危険は極力避けるべきか
一先ず距離を大きく取り村の方を見る
人影は無い・・・つまり坂を越えたと言うことだ
あの坂から村までは健康な足で10分と言ったところ・・・半ばまで行けば大声で伝わるかもしれない
ならば稼ぐべき時間は後5分ほどか
オオアゲハの幼虫は一番近い獲物だからか、自分を攻撃した相手だからか・・・俺の方に向かってくる
俺は再度エクスカリバーを正眼に構えて触手を待つ
距離が2mを切った・・・まだ来ない
1.5mを切った・・・まだ来ない
1m・・
シュバッ!
ここで来るかっ!
はっきり言ってこの距離で並の反応速度じゃ厳しいだろ
そのくらい速かった
向こうで俺を殴ってきたボクサー崩れのストレートよりよっぽど速い
だが俺は・・・逃げるだけならもっと速い!
持ち前の危機察知能力で初動を感知し大きく横に体をずらすとそこから更に後ろに跳ぶ
どうやら一度に攻撃で使える触手は一本だけのようだ
だがあれ一本を切ったから攻撃出来なくなるわけじゃないだろう・・・おそらくこのゲーム的な世界の仕組みにあいつも制限を受けている
一度に出来る攻撃は一つだけ、そう言うことのはずだ
ならば二度も触手を避けられたあいつはどうする?
三度目の触手は二度目より距離を詰めてきた、つまり学習をしているということだ
触手はおそらく通じない、これ以上詰めれば俺の間合いだ
なら触手以外では?
見たところあの触手だけであそこまで馬車は壊れない
と・・言うことは
距離が1.5mを切った
触手に頼るにしろ頼らないしろ次の攻撃はすぐだ
ダダッ!!
体当たりがきた!
だがそれは・・・読んでたぜ!!
突進する巨体の横をすり抜けるように横に構えたエクスカリバーを滑らせる
エクスカリバーはザックリとオオアゲハの幼虫を切り裂いた
鑑定をする・・・俺のHPはほぼ完全に安全圏に入ったようだ
オオアゲハの幼虫は・・・赤かった
ただ赤いだけじゃない、明滅している
これは一体・・・
オオアゲハの幼虫は動かない
いや、動いてはいる・・・が、移動や防御行動を取れて居ない
体が自由にならないほどのダメージを受けたと言う事か?
確かにアレは見事に決まったカウンターだ
俺の初撃なんかよりよっぽど強かったんだろう
と、言うか・・そうか、あれが「瀕死」のサインなのか
俺を覆った赤いオーラ、あれは瀕死ではなくただの危険信号だったようだ
多分だが・・・HPが30%ごとにオーラの色が変わる
70%以上あれば何も無し、60%を切ると黄色、30%を切ると赤なんじゃなかろうか?
そして赤の明滅は・・・
そこまで思考が行った所で、オオアゲハの幼虫のオーラが消えた
オオアゲハの幼虫はアイテムを残して煙になって消える
どうやら死んだらしい
ドロップアイテムを拾って鑑定をしてみる
臭い袋
悪臭で外敵から身を守る
ただし人間が臭いを嗅ぐと死にそうになる
何それ?怖い
要するにモンスター避けにテントの外とかに置いて、回収する時とかどうしても近くに行かないとだめな時はマスクをしたり息を止める必要があるということか
自分のステータスを確認してみる
ユウヤ・ハマナカ 自由人
旅人Lv3 決死兵Lv1
なんか変なジョブが増えてる
っていうか一気にLv3か・・・Lv1のモンスターを一匹しか倒してないわけだが・・・
必要経験値が1割になってて獲得経験値が11倍だから、仮にオオアゲハの幼虫の経験値が10だったとして取得した経験値は110、Lv2からLv3までの経験値が一緒なわけが無いから単純に倍で計算して更に余ってると仮定するとLv1~Lv2で30、Lv2~Lv3で60、残り20と言ったところか
でもって更に必要経験値は1割になってるから本来の必要経験値は300と600になるか
だとするとこの世界の人間はLv2になるためにあんな化け物30匹も倒す必要がある・・・それも無茶な話だな
もう一つの可能性は、経験値のオーバーフローだ
Lv2になるためには本来3匹も倒せば十分で、Lv3でもせいぜい10匹だとすると合計で13匹、そこから90匹以上倒さないとLv4になれないなんておかしいからLv4になる前に経験値が蒸発している
これが10匹30匹の計40匹でも同様だ・・・そこから70匹でもLv4になれないとかおかしすぎる
そんな事を考えていると、村の方から馬に乗った人物が数人やってきた
コルバ
農夫Lv5
アンセロ
農夫Lv8
ルードリッヒ
領主Lv2
なんか一人だけ凄い人いるな、来ちゃっていいのか?こんなところに
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