第2話 愛撫
マリーの愛の猛攻は続いた。
右耳を重点的に攻めていたマリーは、今度は左耳へと対象を移した。
耳たぶを噛んだり、耳のなかを舐めたりして、緩急をつけてじっくりと気持ちのよい刺激を加えていく。ほっぺたに軽く口づけをしつつ首筋へと舌を移動させて、ペロペロキャンディをねぶるかのようにしばらく舌を這わせた後、歯型がつかぬようごく弱い力で噛んでやりもする。
首筋からさらにもう少し下部へと攻撃対象をずらし、鎖骨あたりを噛んだり舐めたり吸い上げたりする。と同時に、太腿に手を伸ばし、小動物をかわいがるときのような優しいタッチでさすって、徐々にイリスの感情を高ぶらせていく。
マリーは、イリスの敏感なところをすべて熟知しているかのようだった。力加減も絶妙で、イリスは自分の身体の至るところがときめくような声を上げているのを自覚した。直接触れられていないはずの下腹部の奥のほうまでもがきゅんきゅん言い始めた。
イリスは呼吸を荒げて、ちっちゃな悲鳴みたいな喘ぎ声を断続的に漏らしつつ、マリちゃん、マリちゃん、もうあたし駄目かも、何か来ちゃうよと訴えた。
それに応じてマリーは、いいんですよ、イリス様、と耳元で囁くと、先に重点的に愛撫したことで敏感になっていたイリスの右耳の穴に、再度舌を差し入れて掻き回すように舐めた。
イリスは大きな法悦の波が押し寄せてくるのを感じた。
思わずマリーの身体に抱きついて硬直し、二度ほど痙攣するように震えたのちに、一気に脱力した。
「ごちそうさまでした」
マリーはイリスの呼吸が整うのを待ってから、最後の仕上げにイリスの額に口づけをした。
二人にとってこの額への口づけは、スキンシップを終える際に用いられる、お決まりの合図だった。心地よく触れ合う憩いの時間が終わるのが惜しいとでも言うように、ちゅっ、と音を立ててキスするのだ。
「拭き拭きしましょうね」
マリーは、スカートを大胆にめくりあげてイリスの下半身を露出させ、トイレットペーパーを使って丁寧に股間の湿り気を拭い去ると、下着を元通りに履かせ、トイレを流してから、イリスを洗面台まで手を引いて誘導した。
マリーは蛇口を捻って自分の手を濡らし、石鹸をつけて泡立てると、イリスの手を優しく包み込んでマッサージするようにして洗った。手のひら、手の甲、手指のあいだ、手首を順々に撫でるようにして洗い、最後に爪のあいだにも泡を行き渡らせ、イリスの手をすみずみまで殺菌消毒した。
泡を水で洗い流すと、マリーはハンカチを取り出して、自分の手をまず拭いてから、イリスの手についた水気も同じハンカチで拭き取ってやった。宝石を扱うときみたいな丁重な手つきだった。
こうした一連の動作もまた、イリスにとってはいつもと変わらぬ日常の一場面だった。
教室に戻ると、一人の女の子が丁重にお辞儀して出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、イリス様」
ユリアという名の女子だった。他の生徒はもう全員帰ったか部活動に行ってしまったかであるらしく、教室に残っていたのはユリアだけだった。
「マリーさんとのスキンシップはいかがでしたか?」
ユリアが問いかけてきた。マリーとあんなことやこんなことをしていたのを、まさかユリアに知られてしまっていたとは思ってもみなかった。イリスは、見られてはいけないものを見られていたような気持ちになり、恥ずかしくなって俯いた。
「あら、恥ずかしがることではないんですよ、イリス様」
ユリアは噛んで含めるようにスキンシップの効能を説明した。
「定期的に触れ合いの機会を作って、愛情表現をするのは、とってもとっても大切なことなのです。絆を深めることができますし、免疫力がついたりもしますからね。悪と対峙している目下の状況では、なおさらです」
ユリアは微笑み、イリスの頭を数回なでなでした。
その表情とは裏腹に、ユリアが目をほんのり赤く充血させているのをマリーは目ざとく発見した。
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