フルール・ド・リスの魔法の姫
もちかたりお
第一章
読み聞かせのお時間
第1話 放尿
「イリス様、起きてください。イリス様」
机に突っ伏してぐっすり
イリスはおもむろに身体を起こし、半目で辺りを見回す。外はすでにやや薄暗くなってきており、日中の喧騒はどこへやら、放課後の教室には生徒がちらほらと点在しているだけだった。
「読み聞かせのお時間ですよ、イリス様」
まだまだおねむなようすのイリスの瞳を覗き込みながら、マリーが呼びかけると、イリスは、
「はあい」
と目をこすりながら口にした。
「さあ、こっちへいらしてくださいな」
マリーは椅子に座り、自分の膝をスカートの上からぽんぽんと叩いた。膝枕をしてあげますという意思表示だ。
だが、イリスはもじもじとしたまま動こうとしない。
やがてイリスは言った。
「おしっこ行きたい」
マリーは合点がいったようににこりと微笑むと、イリスの傍らにひざまずき、手を差し伸べた。
「はいはい。お花摘みですね。参りましょうかイリス様」
イリスはマリーの手を取った。恋人同士がデートでお散歩するときみたいに、二人は身を寄せ合うようにして互いに手を絡めた。マリーがわずかに前を歩いて先導してくれた。
マリーに連れられて、イリスは学校のお手洗いに向かった。
イリスは、マリーとおててをつないだまま、仲睦まじく一緒に個室に入った。
マリーが慣れた手つきでイリスのスカートのなかに手を差し入れ、下着を脱がせた。
いつもの光景だった。
イリスは高貴なお姫様であるので、何をするにもお付きの者がお手伝いしてくれるのだ。
ちょっとした毎日のお花摘みのときでさえ、いつも侍女が一人か二人はついてきて、用を足すのをサポートしてくれる。
これはイリスにはありがたいことだった。おばけの出てくる夢を見た後などは怖くて一人ではトイレに行けなくなってしまうイリスでも、使用人と一緒なら、安心してトイレに行くことができたからだ。
おかげでイリスは、授業中うたた寝してるときにみんなの前でおねしょしちゃうなどという醜態を晒さずに済んでいた。
イリスは便器に腰掛け、用を足し始めた。
お姫様の恥部からほとばしる聖なる黄金の水がじょろじょろ音を立てて便器に当たり、ロマンチックで清楚な調べを奏で始めた。思わずお姫様のおしっこを一匙すくって口に含んでみたくなってしまうほどに甘美な旋律だ。
そこに、かすかに聞こえるお姫様の呼吸音が重なると、感きわまって泣き出してしまいそうになるくらいに優艷な音楽となった。
聖水のきらびやかでフルーティーな香りが辺りに立ち込め、コンサート会場の空気を演出した。
「イリス様」
マリーが、ふんわり包み込むようにそっとイリスを抱きしめた。
まだおしっこの途中だったので、イリスはびっくりしてしまった。
困るよマリちゃん、まだおトイレ終わってないのにとイリスが陳情を訴えると、マリーは耳元でこう囁いた。
「あたしの大切なイリス様。あたしの大好きなイリス様」
イリスはなんだかとても心地よい気分になった。マリーの甘い吐息が鼓膜にかかって、くすぐったい。排尿時のささやかな解放感による快楽も相まって、イリスはホイップクリームたっぷりのケーキを食べてるときみたいな恍惚感を覚えた。
マリーは、こしょこしょ話でもするみたいな囁き声で、こう続けた。
「今度こそイリス様を守り通してみせます。もう誰にもイリス様を傷つけさせたりはしません。大丈夫です。あたしたちがついていますから。イリス様は何も心配することはないんです。あたしたちは、この命に代えてでも、イリス様を全力でお守りいたしますから。イリス様が永遠の幸せを手に入れるなら、あたし、死んだって構いません」
「ありがとマリちゃん」
イリスは感謝の意を述べた。
どうしてマリーがそこまで自分に尽くしてくれるのか、微塵も疑問には思わなかった。イリスには、何もかもが当然のことのように思えていたからだ。
イリスは決して、自分が特別な人間だとか、尽くされて当然の価値ある人間だとか思っていたわけではない。
ただ、マリーとのこうした親密な主従関係はあまりにも当たり前で、自然の摂理に従っていることのように思われたのだ。
「滅相もございません。お礼を申し上げなければならないのはあたしのほうです、イリス様」
マリーははっきりとした口調で言った。
「イリス様は素敵なお方です。だからイリス様に尽くすことは当然のことなのです」
イリスの膀胱はいまやすっかり空っぽの状態になっていたが、マリーはイリスをずっと抱きしめたままだった。
イリスは黙ったままその抱擁を受け入れ続けていた。
「本当に、本当なんですよ。イリス様は高貴で、ご立派で、愛らしくて、素敵なところだらけのお姫様です。あたしは毎日24時間、ずっとイリス様のことだけを考えて生活しているくらいですから」
そう言いながらマリーは、少しずつ両腕の力を強くしていった。
「イリス様は本当に素敵です。食べてしまいたいくらいに」
きつく抱きしめ続けながら、身悶えしてしまうほどに愛らしいイリスの右耳を、マリーは甘噛みした。
イリスは、ぞくぞくするような心地よさを感じて、全身の力が抜けてしまった。
感じやすいイリスとしては、時々、喘ぎ声を漏らさずにはいられない。
マリーに耳を軽く噛まれたり、ほっぺに舌を這わせられたり、うなじあたりにキスされたりすると、イリスは自分の心臓が高鳴り、顔が
何かいけないことをしているような気がするのに、それがむしろ高揚感を掻き立て、得も言われぬ気持ちよさにつながっていった。
イリスは照れて照れてしかたがなく、もう、やめてよマリちゃん、くすぐったいってばなどと言って、表面上嫌がる素振りを見せた。もちろん実際には、いつまでもマリーに愛撫を続けてほしかったし、マリちゃん大好き、と本心を伝えたかったのだが、恥ずかしくてイリスは口にできなかった。
それはマリーも重々承知のことだったろう。
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