第4話初恋
はじめてだった。
学校でも家でも、ふとした瞬間にあの子の事が浮かんだ。
なんだろう、この感じ。
あの子の事が気になる。今何をしてるのか、とか、どんなものが好きなのか、とか。
同じクラスに幼なじみがいて、そいつの後輩。何度か会って、何度か話した。二、三回くらいかな。
それだけ。
ひとつ下の、幼なじみの後輩。
放課後の部室。
文化部の俺は、いつものように部室でみんなと好きなことを話していた。大体そう。大きな大会とか発表会とかの時だけ頑張る。あとはマンガ読んだりしている。
トイレから帰ってきた後輩が俺を呼んだ。
先輩に用があるって来られてますよ。
ドアの隙間から見えた顔は、俺の幼なじみ。
廊下に出る。
どうしたの? え~っと、ちょっと聞きたいことがあって・・・
なに? あんた今、好きな子とかいるの?
なんだよ、急に。別にいないけど。 そうなんだ・・・
話が見えてこない。
なんかさあ、あの子がね。 あの子? ほら、私の後輩。
ああ、あの子。どうしたの?
ちょっと沈黙。
あの子がね、あんたと付き合いたいんだって
聞きなれない言葉。ツ・キ・ア・イ・タ・イ。日本語だよね、きっと。付き合いたいって、どういう意味だっけ?
幼なじみに背中を叩かれた。
しっかりしろよ!
返事はすぐじゃなくていいから、ちょっと考えておいて。
そのあとのことはよく覚えていない。
あの子の顔ははっきり思い浮かぶのに。
自分に自信がない俺は、どうしたらいいか決められなかった。
俺のどこがいいんだろう。
放課後の部室。
知らない女子が訪ねてきた。俺が呼ばれて部室を出る。
となりのクラスの子だ。
後輩が話しているのが聞こえた。
校舎の裏側に連れて行かれる。そこにはあの子が待っていた。
胸がドキドキする。
二人きり。
あの子が僕に話しかけた。
あのう、なかなか返事をしてもらえないので・・・
すいません、こんなところに呼び出して・・・
えっと、その・・・もしよかったら、私と付き合ってもらいませんか?
俺も、きっとこの子も、初めての経験。
うん。いいよ。
表情が一気に明るくなった。なんだか俺も嬉しくなる。
ありがとうございます!
何度もお礼を言われたけど、俺の方こそお礼を言いたい。本当に俺なんかでいいのか?俺を選んでくれて、ありがとう。
まあそれで付き合うことになったわけだが、あまり長くは続かなかった。
どちらかに原因があったわけじゃない。二人とも初めてだったから、期待が大きかったのかな。気持ちのすれ違いみたいなのがあって、会う回数がだんだん減ってきて。
私たち、恋人より友達でいたほうがいいと思うんです。
ある日あの子が言った。
恋愛って、女の子の方が切り替えが早いんだ。俺にはできない。好きな気持ちは残っていたけど、あの子とは今まで通り接した。
ずっと後になって、あの子の友達から聞いた。
幼なじみの人があなたの事を好きで、あの子にプレッシャーをかけていて、つらくなって別れたんですよ。
なんだよ、それ。聞いてないよ。
俺の幼なじみの子は遠くの学校へ行ってしまった。あの子は今、別の子と付き合っている。
俺だけなんか取り残された気分。
ま、初恋なんて、こんなものか。
遠い昔の、淡い恋の記憶
ショートショート 九里須 大 @madara
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