第41話退院(銘々に命名)-3

その日の夜は久しぶりの我が家で、賑やかな晩餐となった。

甥っ子達が眠くなるのであまり遅くならないうちにと、みんなは帰って行った。夢と三人だけになると、途端に静けさを感じられた。

「ああ、疲れたけど、楽しかったなぁ」

「本当ね。夢も大人しかったしね」

「これから三人家族なんだなぁ……」

「本当…こんな日が来るなんて……」

「ん?」

 静流がかしこまった感じで話し始めた。

「ほら、私結婚して、すぐに妊娠したけど、流産になっちゃったでしょう?それからは妊娠するのが怖くて怖くて……。またダメになったらどうしようって……。そんな事ばっかり考えてた。そんな事考えてるうちに十年経って、もう子供持つ事なんか出来ないのかなぁって、漠然と思ってた時に教授からこの話が有ってね。もうコレしか無いって、思っちゃったの。理くんや周りの人に迷惑掛けちゃう事なんか考えてなかったの……」

「静流……」

「だけど、理くんは頑張ってくれたよね。周りの人達が助けてくれた。無事に夢も産まれてくれた」

「静流……」

「ありがとう……ありがとう……ありがと……」

静流は泣き崩れながら「ありがとう」を言い続けた。

「静流、俺、迷惑なんかじゃなかったよ。静流と俺の子供だから頑張れたんだ」

「理くん……」

「それに貴重な体験させてもらったよ。中々いないよ?男で妊娠、出産したヤツ」

「っっ……!」

静流が噴き出した。

「当り前じゃない。そんなの理くんだけよ」

やっと笑ってくれた。

「俺さぁ、夢だったんだよね」

「夢?」

「うん。俺と静流と子供とみんなで笑いながら暮らすの。子供が産まれて、やっと願いが叶いそうだから。だから『夢』って名前にしたんだ」

「理くん……」

「それにさぁ、『夢』だったんじゃないかなぁって、思ったりしてさぁ」

「どういう事?」

「実は夢を産んだのは静流で、これは俺の妄想だったんじゃないかって。こんな『夢』みたいな事、本当に有るハズないって」

「でも……」

「わかってる。不思議な感じだけど、俺がお腹を痛めて産んだ子供なんだよなぁ。そしたら何か、色々考えちゃってさ。大変だったのは間違いないけれど、産んで、子供の顔見たらもう全部吹き飛んだ!」

「そういうもの?」

「そういうもの!」

俺は笑いながら言った。

「ふにゃぁ……!」

ベビーベッドで寝ていた夢が目を覚ましたようだ。

「お腹空いたのかな?」

「私、ミルク作ってくる」

さすがに母乳(父乳?)までは出なかったのでミルクで育てる事になった。『mob細胞』が休眠状態なので当然といえば当然なのだが、少し残念な気もする。

「そういえばさ、『mob細胞』の『mob』って、何の略なんだろう?」

「さあ?実は、私も知らないのよね」

夢にミルクをあげながら、俺達は首をひねっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る