第40話退院(銘々に命名)-2

「命名 ゆめ


そう書かれた紙を見た静流が一言つぶやいた。

「……汚い字ね……」

「ホント、国語の教師のクセに、情けないねぇ」

お袋までダメ出しした。

「俺の字の事はこの際どうでもイイだろ!それより、どう?『夢』って名前」

「『夢』ちゃんかぁ」

「良い名前だろ?」

「そうか~、夢ちゃんか~」

「夢~」

「夢ちゃ~ん」

みんなそれぞれに声を掛け、笑顔で祝福してくれた。

「ゆ~め~ちゃん!おばあちゃんですよ~」

「夢、じいじだぞ~」

 驚いた事に親父は今風の呼び名で呼んで欲しいらしい。

「あらま!お父ちゃんが『じいじ』なら私は『ばあば』になるのかねぇ?」

 お袋までもがそんな事を言い出すと、

「あら~、私も『ばあば』が良かったわ~」

「うむ……、私も『じいじ』が良かったな……」

 などと、お義父さんとお義母さんまでもが話に乗ってきた。

「両方ともが『じいじ』『ばあば』じゃ、将来夢ちゃんがややこしくなるわねぇ」

「そうねぇ……」

う~ん、とみんな考え込んでしまった。

その時、由が良い事を思いついた。

「じゃあさ、『じいじ』と『ばあば』に『パパ』と『ママ』を付けたら?『パパ』の方の『じいじ』が『パパじいじ』、『ママ』の方の『じいじ』が『ママじいじ』」

「良いねぇ!由!お前にしちゃあ、上出来だよ!じゃあ私は『パパばあば』、お父ちゃんは『パパじいじ』だね」

「じゃあ私は『ママばあば』ですわね」

「『ママじいじ』か。うむ、悪くないな……」

みんな満足そうにしていた。ナイスアイディアだ、由!

「は~い、夢ちゃ~ん!俺がおじさんですよ~」

「じゃあ、私は…………」

美千歌がちょっと間を置いた。

「夢ちゃ~ん、『お姉ちゃん』ですよぉ~」

「何でよっ!」

静流が突っ込んだ。

その時、今まで借りて来た猫の様におとなしかった甥っ子達が聞いてきた。

「ねぇ~、ママ~。僕達って夢ちゃんの何になるのかなぁ?」

「あんた達は『いとこ』よ。『いとこのお兄ちゃん』だから『お兄ちゃん』で良いのよ」

「そっかぁ!夢ちゃ~ん、お兄ちゃんですよ~」

「お兄ちゃんですよぉ」

何でもマネしたがるお年頃だ。

「それより理、学校の方はどうなんだい?」

お袋が心配して聞いてきた。

ウチは共働きだから、俺達が仕事に出ると昼間は子供を見てくれる人間がいないのだ。

「しばらくは産休で俺が家にいる予定なんだけど……。卒業式とそれまでに何回かは学校に行かなきゃいけないから、その時は静流に代わってもらうつもりだけど……」

「新学期までに保育園に入れれば良いんですけど……。最悪は私が研究室に連れて出勤します。教授の許可も貰ってますから」

「そうかい?でも何か有ったら言っておくれよ?すぐに手伝いに飛んで来るから!」

お袋はそう言って、豪快に笑った。

「ありがとうございます」

静流が丁寧に頭を下げた。

「何、かしこまっちゃってるの!困った時には助け合わなくちゃ!」

「そうよ。お母さんも出来る限りフォローするから、いつでも言ってね」

 お義母さんもそう言ってくれた。

こういう時に親の有り難みがわかるというものだ。将来俺達も自分達の親の様になりたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る